集団個別スタイルを始めて
生徒の姿勢がガラリと変わった
昨年11月に校舎を全面改装したわかば塾。4つの特色ある教室が話題を集めている。一斉授業用の教室を始め、電子黒板を設置した視聴覚教室、個別ブースの自習室。中でもユニークなのが「アカデミックカフェ」である。これは、授業で得た知識をもとに塾生が思い思いに演習するスペース。カフェらしく、部屋にはゆるやかなBGMが流れ、飲み物を飲みながらゆっくり勉強ができる空間だ。自由に読める本棚も設置されている。このカフェには講師が常駐しており、わからないことを質問したり、友達同士教えあったりもできる。いわば集団個別型の教室である。
「アカデミックカフェができるまでは、生徒同士の交流はほとんどありませんでした。最初は“勉強に集中できるかな”と不安でしたが、フタを開けてみると驚くほどの盛況ぶり。生徒同士の“教え合い”が自然に生まれていったのです。それがきっかけとなり、塾生同士が仲良くなり、センター試験の前日には、高1生が高3生に“頑張ってください”とメッセージ入りのチョコを渡して激励してくれました。そんなことは初めてでした」と下岡輝也塾長。
ある調査によると、今の子どもの7割がリビングや台所で勉強をする。自分の部屋があるにもかかわらず、家族の気配がする場所がリラックスできるという。そのため、大手住宅メーカーは子どもが使いやすいようにテーブルの高さを2cm下げたという事例もある。
「私は若い頃から喫茶店が好きだったのですが、今のような騒々しい社会では、子どもにも『第3の居場所』、くつろげる場所が必要だと思います。心地良い空間で勉強してこそ、知識を熟成していけます。最近は個別塾が流行っていますが、個別ではどうしても人とのかかわりが少なくなってしまう。人とかかわっていくことで、人間関係も学んでいけると思う。そういう意味で思い切ってアカデミックカフェを作ったのです」
従来の職員室も廃止した。昔のように紙ベースの授業ではなくなった今、講師もパソコンがあれば、どこでも仕事が可能だ。こうなると、職員室はデッドスペースでしかないと生徒用のスペースに改装した。講師はアカデミックカフェや教室に頻繁に出向き、生徒に接している。おかげで講師と生徒の距離がグッと縮まった。
●指導のポイント
集団個別指導用のカフェを新設。リラックス空間で演習を繰り返し行う
40年続く
家族のようなつきあい
講師、塾生、OBの交流も盛ん
創立は1976(昭和51)年。当時、教員をしていた下岡塾長の母親が「クラスに勉強ができない生徒がいるので見てほしい」と持ちかけたのが始まり。大学を卒業したばかりの下岡氏は、自宅で子どもに勉強を教えるようになった。
「最初は生徒2人でした。当時は今のように学習塾がたくさんなかったんです。でも、子どもの数は多かった時代、困っている親御さんが大勢いました。自宅の一室で始めたものですから、今もその延長線上のような感じですね(笑)」
わかば塾では、創立当初から合宿を行っている。合宿といっても勉強ではなく、遠足旅行である。最初の頃は瀬戸内海の島に渡り、知り合いのお寺に宿泊して海水浴を楽しんでいた。今は日帰りでテーマパークなどに行っているが、40年変わらぬ行事として続けている。
「生徒たちは、泊まって夜にワイワイと話すのが楽しみなようでした。OBが進んで手助けしてくれましたし、昔の子どもは自主性が高かった。集団で出かけても困ることはなかったです」
また、正月とお盆には塾長の家で交流会を開くのもずっと続く伝統だ。特に告知をしなくても、楽しみにやってくるOBが多く、毎回2、30人は集まるという。
「私も毎年楽しみにしています」と笑うのは、教務部長の藤原浩次先生。わかば塾の講師は現在8名だが、そのうち5名までが塾の卒業生である。
「この塾に育ててもらいました。塾長はダメなときは怒ってくれますが、基本は講師や生徒を自由にしてくれます」(藤原先生)
こういった家庭的なムードが評判を呼び、わかば塾は口コミで入塾する生徒が大半。今までほとんど募集活動を行ったことはなかった。
●指導のポイント
遠足や交流会で現役生とOBが交流。世代を超えた“教え合い”を続けている
すべての子どもに平等な教育を
学習支援ボランティアも実施
わかば塾では、通塾していない小・中学生を集めての学習支援ボランティアも行っている。福山市教育委員会の依頼で、毎週木曜と第2、4土曜に、地域の子どもへ学びの場を提供している。
「さまざまな事情で塾に通えない生徒にも来てほしいんです。どんな立場の生徒も平等に教育を受けられる社会が当たり前。その一助になればと思っています」
塾長は、還暦を迎えた年に大学院の修士課程に入学。教育心理学を2年間にわたって学び、修士号を獲得するなど、果敢に教育に取り組んでいる。また、アカデミックカフェを活用して、地域の大人たちの学ぶ場を作る計画も進めている。文化人を招いての講演会やカルチャー教室を行う予定である。
「文化の発信基地でありたいと思っています。これまで福山市にはなかった新しいスタイルの塾として、地域にも貢献していきたいです」(下岡塾長)
●運営のポイント
ボランティア活動や大人の学び場を作り、地域の活性化にも貢献していく
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