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2016/1 塾ジャーナルより一部抜粋

意欲ある生徒の夢を応援
〜 大阪・門真市が無料の学習塾を開校 〜

     
 親の経済格差から生じる子どもの教育格差を是正しようと、自治体による学習支援が広がっている。大阪府門真市では昨年5月、学習意欲も力もありながら、経済的理由で学習塾に通えない生徒のために、無料の「Kadoma塾」を開校した。対象は市内の公立中学校に通う中学3年生。応募者の中から作文や学力試験、面接により受講生を選考した。3月まで全80回の授業を行う。この選抜による学習支援という新しい取り組みに注目が集まっている。

全国学習塾協会の
協力を得て実現

 10月初旬の金曜日、門真市のほぼ中心部に位置する「市民プラザ」4階の教室で、英語の授業が行われていた。

 ホワイトボードには、‘The door was broken by Tom’と‘the door broken by Tom’の英文が板書され、先生が過去分詞の動詞的用法と形容詞的用法の違いを説明している。後ろ姿からも授業に集中している様子がうかがえる。授業は宿題の答え合わせ、解説、練習問題とテンポよく進む。教室の両サイドには、‘Reach Your Dreams’と‘The Door to Success’の横幕が掲げられ、授業の緊張感といい、進学塾の雰囲気だ。

 Kadoma塾は毎週火曜日に数学、金曜日に英語の授業が行われる。時間は19時から休憩をはさんで21時まで。生徒たちは市内各地から自転車などで通ってくる。

 5月の開校から生徒たちを見てきた門真市教育委員会の三村泰久課長は、「出席率はほぼ100%。みんな頑張っています」と話す。

 門真市は大阪府の中でも平均所得が低く、生活実態の厳しい世帯は少なくない。子どもの学力においても、昨年度に実施された大阪府中学生チャレンジテストで、府の平均点を大きく下回った。中学3年生の通塾率は50%程度。全国平均の61%より10ポイント近く低い。

 こうした状況に対して門真市では、昨年度より「35人学級」を実施。さらに放課後学習の習慣づけを目的として、各小・中学校で学習アドバイザーを配置した「まなび舎」を開設するなど、学力の全体的底上げに取り組んできた。

 「今回の新規事業であるKadoma塾は、意欲も力もあるのに家庭の事情で塾に通えない子どもにスポットを当て、行政として何とかフォローできないかという思いから出発しました」と三村課長。

 無料の学習塾を企画し、初年度は募集定員を最大25名に設定。217万円の予算を計上した。しかし、問題は業務の委託先だった。予算規模が小さいため、引き受け手が見つからない。

 「悩んでいるところに、隣の大東市が実施している『学力向上ゼミ』で公益社団法人の全国学習塾協会が連携していることを知り、協力をお願いしました」

 全国学習塾協会に業務を委託することが決まり、4月からKadoma塾の募集が始まった。

夢を叶えて地域へ還元

 市内の中学校は全6校。中学3年生の数は約1,000人に上る。その全員に申し込み用紙を配布した。初年度で周知期間が短かったこともあり、応募者は32人。作文と英数の学力テスト、面接により18人を選抜した。

 応募の動機を記した作文には、保母や教師、看護師、宇宙飛行士になりたいという将来の夢とともに、「兄弟が多くて塾に通えない」、「お母さんと話して、塾には行かないことにした」など、さまざまな家庭の事情も綴られていた。

 選考に当たっては、世帯の納税状況も参考に、一定の学力レベルと、何よりも学習意欲の高さを重視したという。

 5月15日の開校式では教育長が、「君たちは選考を受けて認められた。しっかり頑張ってほしい」と檄を飛ばした。

 開校式には門真市のイメージキャラクターである元祖招き猫の「ガラスケ」も登場。その“ゆるキャラ”ぶりを発揮して場を盛り上げたが、生徒たちは終始緊張の面持ちだったという。

 「塾が始まってからもしばらくは緊張状態でしたが、少しずつ慣れてきて、今は授業前や後に先生に質問しています」

 授業を担当しているのは、全国学習塾協会の会員塾でキャリアを積んだ2人のベテラン講師。市教委からの「経験のあるしっかりした先生を」という要望に応えて、祖父江準常任理事が講師を選んだ。カリキュラムも祖父江氏に一任されている。

 授業内容は、学校の補習ではなく、主に高校受験のための学習指導である。進度も早い。そのため、生徒の1人が「予想以上にレベルが高い」と早い段階で辞退。現在は17人が志望校合格を目指して、学習に取り組んでいる。

 Kadoma塾の授業は英語と数学の2科目のみだが、高校受験に必要な理科・社会に関しても、祖父江氏がボランティア的にプリント学習で対応してくれている。また、ときには土日を利用して、理・社の補習授業も行われる。

 三村課長は、「生徒が自分の夢を叶え、大人になって地元の力になってくれることを願っています。長いスパンですが、そのサイクルをつくっていきたい」と話す。

 当初は、市が生徒を選抜して支援することに対して、「不公平」と受け止められかねないと危惧したが、現在のところそういった声は届いてない。市議会からも「画期的試み」と賛同を得られている。来年度以降は2クラスに拡充したい考えだ。

貧困の連鎖を
食い止めるために

 全国学習塾協会の祖父江氏は、「週2回、20人足らずを指導するだけでは、全体の学力アップは望めません。しかし、Kadoma塾の生徒たちが、起爆剤になる可能性はあります」と話す。

 Kadoma塾では、年明けから本格的な受験指導に入る。これまでもボランティアで理・社を指導してきた。将来のために上位校を目指してもらいたいという思いからだ。英・数を担当する講師も授業前に時間をとって質問に答えたり、個別に指導するなど熱心だ。高校受験の結果次第では、来年度の受講希望者が一気に増えるかもしれない。

 全国学習塾協会は門真市の他に、大東市の学力向上推進事業とも連携している。対象は小学4年生から中学3年生まで。毎週土曜日、安価な料金で学校の予習を中心とした指導を行う。平成22年度にスタートしてから受講者が増え続けている。特に小学生の希望が多く、今年度から能力別編成を実施。下位クラスは定員を少なく、講師を多く配置している。能力別編成により、良い意味での緊張感が生まれたという。

 「勉強できる環境をつくってやれば、子どもの意識も変わります。自治体が学習環境を用意し、第三セクターとして運営できれば、地域の学力向上につながるはず。子どもが親の経済状況の巻き添えになってはいけない」と祖父江氏。

 厚労省の2012年調査で、「子どもの貧困率」が16・3%と過去最悪を更新した。6人のうち1人が、平均所得の半分に満たない世帯で暮らしている。充分な教育を受けられず低収入の仕事にしか就けないという「貧困の連鎖」を食い止めるために、学習支援の必要性が高まっている。

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