少人数授業を極めて
エデュケーションを進化
昨年度、完全週6日制に伴い、英語を全学年週7時間とする新カリキュラムを実施。そして今春、新校舎の完成を待って、1学年3クラスを4クラス制へと移行した。HRを分割し、少人数制授業はさらに少人数に、教科に応じてダブルティーチングを導入。指導手法そのものを根底から変えてしまう大改革の指揮を執るのが鈴木弘校長だ。
「教員と教室数も増やさないといけませんし、経営上は周囲からは無謀に見えたと思いますが、貫きました。ただ『もう一段上』に行きたい。それは学校や教員がもっと教育を追求する、ということ」
4月から新教室棟で少人数授業が始まると、教員からは、きめ細かく目が行き届き、教員と生徒、また生徒同士のコミュニケーションの密度がより高まったと、高評価だ。しかし鈴木校長は、もう一歩先の未来を見据えている。
「一つの答えに誘導する、生徒に気付かせようとする時代は終わりました。これからは『誰も答えを知らない時代』、育成するのは『変化に対応できる人間』です。我々教員の経験則も役に立たない。生徒自身が学び、グループで意見を交わすうちに、『多分、それが一番近い答えだ』という考え方を引き出せるような授業を目指します。教員は生徒の心に化学反応を引き起こす触媒。教員も一歩踏み出し、頭で考える前に動き、議論を続けていかなくてはいけない」
国際科学オリンピックで2年連続金メダルを受賞した生徒は、今春、東大とマサチューセッツ工科大学に合格。「彼は私たち教師を越えた。もう僕は彼に理科を教えられない」とこぼす教員に、鈴木校長は「それでいいんだよ」と微笑む。
「いったん火がついた生徒は、後は放っておいても核分裂を起こしていく。教えるのではなく『引き出す』。彼らの能力を認めて、気付かせる。一層の少人数化で本校が目指す『エデュケーション』が、もっと進化していくはずです」
「共に生きる」ために
世界を知る言語を獲得する
「進学実績や数値化された学力を追求する気は全くありません。ただ、本校の理念を見失い、生徒の個性を伸ばすことを具現化できないなら、学校の看板を下ろすべきです。共感いただけるご家庭と生徒のために我々の教育がある。選んでいただけたら、立教ファミリーとして末代までお預かりします」
鈴木校長の想いにはブレがない。同校の中学校入試では、一般入試(4教科・定員50名)と、AO入試(自己アピール面接・定員20名)がある。AO入試ではスポーツや文化芸術、資格やボランティアなどの活動実績を評価する。優れた才能や魅力を持つ人材を投入し、集団の多様性を広げ、少人数制を補完する意図もあるが、それだけではない。
「神様は各々違う能力を与えた。その違いを認め合いながら『共に生きる』。それを創立者ウィリアムズ主教は、江戸末期から明治の日本で体現してきた。また、キリスト教に限らず、宗教を学ぶことは、世界の思考の土台を知ること。つまり立教学院の教育は、創立以来ずっとグローバル教育なんです」
相手の考え方・違いを理解し、受け入れる許容力を獲得するための必須ツール・英語は、同校の最重要科目だ。英語科教員は専任・非常勤合わせて23名、新教室棟では3階に英語教室10室を備える。極めるのは大学受験英語ではなく、実用的な生きた英会話力だ。系列の立教英国学院とは、双方向の留学システムを持ち、現在IB(国際バカロレア資格)の認定準備に向けて研究を行っている。高校の自由選択講座では、ドイツ語・フランス語・韓国語が受講できる。特にドイツ語は、スピーチコンテストの優勝常連校。受賞者は帰国子女ではなく、高校で初めてドイツ語を学んだ生徒ばかりだ。その実績が認められ、ドイツ政府から「姉妹校になって、ぜひ交流を」と招待を受け、6月に鈴木校長自ら視察訪問を行う予定だ。
「世界は確実に狭くなっています。情報や変化の速度は凄まじい。川が流れているのに止まっていたら遅れてしまう。『変わらぬ理念で、時代に伴い変わりながら』一緒に流れていく、それが本校のスタイルです」 |
「真理を追求する」
私学の誇りと孤高な挑戦
立教学院全体のもう一つ大きな教育目標は、「テーマを持って真理を探求する」。立教池袋には、生徒が自らのアイディンティティを6年間突き詰める独自の学習力評価システムがある。基礎学力を「合格」ラインとして確保しつつ、得意分野ならB合格、さらに高いA合格へと能力を磨く「認定制」、学業成績や生徒会、部活動の実績など活動記録を自らアピールする「自己推薦書」、自由課題で取り組む「卒業研究論文」。鈴木校長の声にも熱がこもる。
「国際社会の一員になったときに、自分自身のことでもいいのですが、日本人の良さをアピールできるようになってほしい。そのためには、日本人は何を大切にしてきたのか、何が土台になっているのか、精神文化から歴史、国民性や社会の仕組み、世界との関係性を学び、理解していかねばなりません」
尊皇攘夷の嵐の中、来日したウィリアムズ主教が、日本という国を理解しようとした道と重なる。立教学院の一貫連携教育という強大な支えと理解を得てなお、他に類のない教育の具現へと果敢に挑み続ける、その原動力は何か。
「いろんなことができる自由な環境にある学校だから、自由という使命を背負ってやらなくてはいけないことがある。建学精神をどれだけ具現化していくか、私学の使命はそれしかない」
その言葉からは、一私学に留まらず、日本の教育という大海に、先陣切って漕ぎ出でる自信と勇気があふれ伝わる。
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