ものづくり・ひとづくりの
伝統を生かした改革
「私が着任した3年前は、まだ工業高校のイメージが強かったですね。でも一方で、それはものづくり・ひとづくりを大切にしてきた伝統でもあったわけです。私はまず人を育てることをモットーに、学校全体を見直そうと思いました」と矢吹隆志校長は語る。
改革の柱は大きく4つある。「生活指導」「生徒会・部活動の活性化」「地域連携」「授業改善」だ。
「生活指導」では、教師が毎朝通学路や校門に立ち、挨拶することから実施。遅刻者は会議室で作文を書く。その結果、遅刻者は激減した。「物を書く訓練にもなります」と矢吹校長は笑う。
「生徒会・部活動の活性化」では、これまで教師主導だった体育祭などの企画を生徒に任せた。すると生徒は他校の体育祭を見学し、種目を研究。ユニフォームやラケットを持って走る部活動対抗リレーなどを企画し、内容も充実したものとなった。
また部活動では、バレーボール部、バスケット部のコーチに全国レベルの実績を持つ専門家を招いた。吹奏楽部には、これまで全国大会に15回出場させた経験のあるベテラン教師が音楽総監督に就任。高い目標を持って、練習に励んでいる。すでに実績を誇る空手部やレスリング部に加え、卒業生の中にはフェンシング日本代表で、2008年の世界ジュニアで優勝した生徒もいる。
今年もっとも注目されたのは、野球部の新監督就任だ。角晃司先生は東海大相模高出身で、巨人の原監督の1年後輩にあたる。その後大学・社会人野球でも活躍し、コーチ歴も長く、「アマチュア球界きっての指導者」と言われていた人物である。
「とても東北に来てもらえるとは考えられなかった方。99%は無理だと思いながら、一度学校に来ていただいた。お会いしたら『高校野球の指導はあこがれだった』と話してくださった。そして最終の新幹線で帰られる間際、『校長先生、私来ます』と言ってもらえたのです」
今春から始まった野球部の指導を見て、矢吹校長は驚いた。「私の予想をはるかに超えていました。生徒の顔が3日で変わった」。きっかけは角先生の「私は野球が大好きだ。だけど野球が好きな人間はもっと好きだ」という言葉。野球と生徒に対する限りない愛情に生徒たちは心打たれ、以前にも増して意欲的に熱心に野球に取り組むようになった。地域の人たちもあまりの生徒の変貌ぶりに、野球部の練習を見学するようになったほどだ。
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教員が本気で取り組む授業改善
同校が掲げる改革のひとつ「地域連携」では、「この学校の傍に住んでいることを誇りに思える学校を目指します」と矢吹校長。地域の方々との交流の場を数多く設けている。
夏休みには、冷房の効いた校舎を小中学生が宿題するスペースとして開放。地域清掃のボランティア活動も盛んで、これは単位としても認められている。6月は保護者だけでなく、一般の人も参観できる学校公開を行った。「良い面も悪い面も見ていただき、厳しい指摘をしてもらうことも大切。苦情は学校の宝です」。
卒業生も母校を見守っている。同校の卒業生は宮城県内で起業し、ものづくりの第一線で活躍する人が多い。同校の就職率は100%だが、こうしたOBのネットワークの力も強い。その人たちの願いは「自分たちに続く人をつくってほしい」ということ。地元に愛される学校づくりは、私学にとっては不可欠だと矢吹校長は語る。
「授業改善」については、昨年の後半から取り組み始めた。教員同士が授業を見合い、「授業アドバイスシート」に評価を書き込む。今年はさらに授業の様子をビデオに撮り、コンピューターが分析する。
「これは教員の評価ではなく、あくまでも授業の評価です。授業の構造が本当に有効かどうかを診断し、授業の質をワンランク上げる。最終的に生徒の学力を向上させることが目的です」
しかし、「授業改善は非常に難しい課題」と矢吹校長。「先生方にとっては『人の懐に手をつっこむような感覚』があり、評価するにも『良かった』で終わってしまう。それでは何にもなりません」
そうした雰囲気を除くため、校内に「授業研修校内研修会」を立ち上げた。授業づくりの基本と分析方法を学ぶのが、この研修会のねらい。6月に第1回が開催され、講師は宮城教育大学・安藤明伸准教授ほか、東北工業大学の先生もアドバイザーに加わった。また教員資質向上対策役員として、宮城県佐沼高校で大改革を行った、久力誠氏を参与に迎えた。この研修会は、地域の中学校の先生方も参加可能。一緒に学んでいくことで、地域全体のムーブメントにしたい考えだ。
「一部の生徒の進学実績だけを上げればいい、優秀な生徒を入学させて進学率を上げる、というのは、本来の教育ではないと私は思っています。『3年後の君が自慢』というキーワードはすべての生徒のためです」
「学校3像」としての「学校像」「教師像」「生徒像」が昨年制定され、今年は生徒手帳にも記載された。この理想の姿に向かい、教師も生徒も同じベクトルで歩み始めた東北工業大学高等学校。改革の成果に大いに期待が寄せられる。
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