夏の4日間合宿が
秋以降の伸びに直結
4日間で33時間以上を集中特訓させる啓光学園高等学校の夏期合宿が、3年生を対象に今夏も実施された。大阪予備校とタイアップしたこの合宿は3年前から夏冬の長期休業期間を利用して行われてきた。予備校では朝8時半に行われる確認テストに始まり、夕方までびっしり講義が続く。それ以降は長居スタジアム内の宿舎、長居ユースホステルでの夜間学習が待っている。1日のスケジュールは詳細に決められ、参加者は宿舎から予備校までの20分足らずの移動時間も参考書以外を手にすることはない。ゲーム類や文庫本一冊でさえ娯楽に関する一切の所持品の持ち込みが禁止されているためだ。
まさに厳格なまでに学習のためだけの環境を整えている。ここでは学力は無論、自己管理力を徹底して身につけさせる点にこだわる。受験生にとって、夏は志望校の合否を決する分岐点といわれる。この数十日間、いかに自分自身を戒め、受験態勢を維持できるかが、その後の全国模試の志望校判定となって表れる。判定結果に自信を持って秋以降の追い込みに臨むためにも、夏の始まりをどう過ごすかを啓光学園は重要視してきた。
同校の森田崇弘進路指導部長は「これまでの合宿はとにかく『皆で(高3の)夏を乗り切ろう』ということで実施してきましたが、今年の参加者は志望校の合格ラインに至っていない生徒を、合格ラインに乗せることを目標に実施しています」と、今夏の合宿が目的を絞って実施されていることを強調する。予備校では啓光学園以外の生徒や浪人生の姿も目にすることから、視野が広がり良い意味での刺激となって、やる気を起こさせるのだ。「いったん、自己管理力が身につきさえすれば、周囲が黙っていても自学自習をやるものです。合宿をきっかけに生徒がその力を養ってくれることを願っています」。森田進路指導部長の言葉にはこれまで回を重ねてきた特訓合宿への期待がにじむ。
夕食と入浴を済ませると、生徒らはさらに学習を続け、夜11時以降の“質問タイム”に向け、その日の問題を整理する。宿舎には数学、理科、英語、国語の担当教員が常駐しており、生徒の質問を受け付ける。「睡眠をとらせるため質問も12時頃までで打ち切っていますが、私たちは24時間勤務です」と森田指導部長。
しかし、教員の努力の甲斐あってか、合宿終了時に実施されるアンケートでは、「自分1人では頑張りきれなかったけれど、みんなと一緒だから頑張りきることができた」や「自分で勉強を進めていく自信がついた」との声が寄せられている。
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“将来の自分”に近づく
ドリカムプラン
特訓合宿を受けている3年生を、高校入学時から見守ってきた学年主任の山田長正教諭は、昨年、生徒の進路意識を喚起させる案として“ドリカムプラン”を提案した。以来、生徒一人ひとりの夢を実現(Dreams
Come True)させるために有効と考えられる活動を推進してきた。
プランではまず、高校入学時の4月に「10年後、20年後の私」というタイトルで作文を書かせ、進路の意識付けを行う。その上で同種の職業を選択した生徒や進路希望者が集まり、クラスの枠を超えドリカムグループを結成する。各グループはホームルームや長期休暇中を利用して、夢や進路を実現するための活動を行う。
「自分の将来について書いた作文の中で、やりたいことをはっきり語れる生徒が多く、何のために勉強するのかを考えさせる仕掛けが必要だと思いました」と山田主任はドリカムプラン導入の経緯を語る。
昨年の活動例として、グループごとに各大学や専門学校のオープンキャンパスやセミナーへの積極参加を勧めてきた。オープンキャンパスへの参加者は、欠席しても公欠扱いとし、生徒が自ら伸びようとするタイミングを大切にしている。このほか、朝の読書タイムを設けることで興味関心の幅を広げ、夏期講習期間を中心に卒業生や保護者による「職業講話」を聞く機会も設けてきた。今後はこれらの企画をさらに効果的に打ち出していく考え。
「今回、合宿に参加している生徒は将来の夢についてじっくり考えさせてきた学年です。進学実績を上げることは重要ですが、そのために『なりたい自分になる』という意識を育てないといけません」と山田教諭。「社会貢献度の高い人材作り」という同校の教育指導計画のもとに発案されたドリカムプランは、今後一層見直しや改良が加えられることにより、着実に進学実績に結実するものと期待される。
合宿終了後は
応用力をつける!
合宿には3年生の約4分の1に当たる49名が参加。その中に将来の目標を明確に持ち、志望校合格に向け努力を続ける生徒がいた。医師志望で愛知医科大学への進学を希望している有江大紀君は、合宿での1日を「朝から晩まで勉強です。6時15分に起き、朝食をとればすぐに予備校に向かいます。予備校までは地下鉄で15分ほどですが、英語の構文を覚える貴重な時間なんです。予備校に着くとすぐ小テストがありますから」と話す。有江君は予備校では英語の講義を1コマ取っているだけだが、それ以外の時間を自習室で過ごす。「自習室で他校の受験生や浪人生の一生懸命に勉強している姿を見ると、頑張らないといけないと思います」とも。合宿では弱点を克服し、基本的事項の総復習に集中し、講座終了後は応用問題に取り組んでいく考えを語った。
教師志望で筑波大を目指している冠(かんむり)雄祐君は、英語、古文、数学の3コマをとっている。1日に9時間以上、学習することについて「家ではだらけてしまいがちですが、ここに来るといいリズムができそうです」と話す。宿舎に帰るとまた小テストが待っているため、帰りの地下鉄でも気は抜けないという。「長い夏休みの勉強のスタートとして、暗記すべきものをしっかり覚え、その後の夏休みの勉強で応用力をつけたい」と合宿での目標を話す。
最後に「学校のよい点」を質問すると「先生との面談の機会が多いので、進路について相談しやすいことです」と有江君。冠君は「普段でも夜9時や10時まで質問に丁寧に答えてくれるところです」と話した。
合宿を終える頃には「自ら学ぶ」姿勢を身につけた生徒が、夏を積極的に乗り切っていくだろう。来春の合格を勝ち取るまでの約半年、いや、それ以後もこの夏の合宿を思い出しながら、夢を手に入れるまで彼らの挑戦が続く。
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