「社会人基礎力」につながる
幅広い学び
一昨年度から実施している「滝川フォーラム」は、高校1年生が自分自身の体験を通して学んだことを、1600字程度にまとめて全員の前で発表するというもの。内容は、東北でのボランティア経験や親に対する思いなどさまざまだ。「書くことで、自分自身の生き方を考えさせたい」。こう語るのは江本校長。一昨年に兵庫県立高校から同校校長に就任後、次々と新たな取り組みを開始してきた。
放課後に開かれている「イングリッシュパーク」もそのひとつだ。英検2次の面接練習やTOEIC講座など、英語力向上をめざす。外国人留学生の参加もあり、生きた英語を学べる。また別の日の放課後には、論理的に考える力や伝える力を養う「論理コミュニケーション」の講座が開かれる。その他、「モラルの授業」や「マインドマップ」など、授業として行われるものも多い。
谷山由夫入試広報室長は、「本校の校訓に基づく、社会に有為な人材を育成する教育を、数年前より『滝川リーダーシップ教育』と銘打っています」と話す。
昨年度から開始した新たな試みは、理念に基づくリーダーシップ教育を授業や講座として具体化し、さらに発展させようというもの。さらに、いま「社会人基礎力」として提唱されている新たな社会的ニーズにも対応させている。
従来の学校行事やキャリア教育なども併せて「滝川リーダーシップ教育」として体系化。カリキュラムを一新した。来年度から新教育プログラムがスタートする。
授業として
「リーダーの時間」と
「振り返り学習」を設定
新カリキュラムは、「リーダー」の時間を週1回、2コマ連続で設定した。内容は同校オリジナル教育プログラム。「集団行動」「モラル」「キャリア」「コミュニケーション」「探究」の5つのテーマに沿って実践する。
例えば「モラル」では、講演会や人権学習、奉仕活動など。「キャリア」は自分史・未来史の作成、「自分発見セミナー」などが予定されている。「自分発見セミナー」は、社会で活躍する卒業生を講師として招き、働く意義などを語ってもらう。これまで、大学教授や新聞記者、会社経営者など多くの卒業生が登壇した。昨年度は中3生にIBM社員が講演。終了後は、生徒たちから「海外で自分を鍛えるにはどうしたらよいか」など質問攻めにあったという。
江本校長は、「新プログラムは、社会のニーズに応える教育と学力向上の両方をめざしています」と話す。昨年実施した生徒や教員対象のアンケート結果から、家庭での学習時間の不足が問題点として浮かび上がった。そのため、週2回「振り返りの時間」を設定。英数国を中心に1週間の授業内容の到達度を確認し、学力向上をサポートする。
放課後は「Advanced Time」として、平日の16時から19時まで、曜日ごとに5教科(英数理国社)のテーマ別講座が開かれる。テーマ別講座には、先の「イングリッシュパーク」や「数学道場」などがあり、学年を問わず誰でも参加できる。また、「質問コーナー」と「自習ルーム」も用意されている。もちろん部活も自由だ。クラブが終わってから講座に参加したり、自習ルームで学習する生徒もいる。
放課後を有意義に過ごすには各自がしっかりと計画を立てなければならない。そのツールが「滝川ファイル」と名付けられたスケジュール帳だ。16時以降の計画を記入し、クラス担任に提出する。コメント欄もあり、進路や学習方法などを気軽に担任に相談できる。 |
国公立大学合格者が
一挙に121名
「子どもというのは、どこかで大きく変わります。リーダーシップ教育は、変わるきっかけを数多く用意しています」
江本校長は、今春卒業した生徒たちの変化を目の当たりにした。昨年2月、当時高校2年生の彼らは、北海道でのスキー実習の帰り、講演を聴くために赤平市にある植松電機の工場を訪れた。バスを降りて吹雪のなかを建物へ向かう。実習の疲労で生徒たちの足取りは重い。植松電機は従業員18人の小さな会社だが、宇宙開発に挑戦し続け、NASAと提携するまでに至っている。同社の植松専務は講演で、「自分で限界をつくらずに夢を追え」と繰り返し説いた。講演が終わり、バスに戻る生徒たちは、顔つきも足取りも、見違えるほどに溌剌としていたという。
それから1年後の今年3月、121名が東大や京大を始めとする国公立大学に合格した。昨年比1.5倍の躍進だ。その多くが3年生になってから大きく成績を伸ばした生徒たちだった。講演会が直接の要因とは言えないまでも、目標に向かう彼らの背中を押してくれたことは想像に難くない。そんな彼らが残した卒業コメントには、(男子校だから)「何でも臆せず挑戦できた」「気兼ねなく話せた」等の記述が目立つ。
「男子は女子に比べて発達が遅いので、共学では女子に圧倒されて萎縮してしまうのでしょう」と江本校長は笑う。昼休みのグラウンドで、伸び伸びと鬼ごっこに興じる中高生。確かに、共学校ではあまり見られない光景だ。
また江本校長は、就任した年に20代から80代まで様々な世代の同窓会に出席して、その結びつきの強さに驚いたという。どの同窓会でも、就職を世話をするほどに互いを支え合っている。同高校出身の谷山室長も、「グラウンドで一緒にハンドベースで遊んだ仲間は、生涯の友です」と話す。結束の強さは、私立男子校の同校ならではの伝統だろう。
滝川リーダーシップ教育のもと、生徒たちが次代のリーダーへと成長したとき、また新しい伝統が生まれるのかもしれない。
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