中学校女子のコースを再編
近鉄奈良線「学園前」駅を降りると、すぐ目の前が帝塚山学園のキャンパスである。駅とはデッキで直結し、徒歩1分の距離。このロケーションの良さと、毎年200名前後が国公立大学に合格を果たすという抜群の進学実績が大きな魅力となり、大阪・京都を始め近畿一円から多くの生徒が通学している。
中学校では今年度より、女子英数コースに「スーパー選抜クラス」を新設するとともに、従来の女子「特進T」と「特進U」を特進コースとして募集した。これにより中学校のコースは、男子英数コースの「スーパー理系選抜クラス」と「英数クラス」。女子英数コースの「スーパー選抜クラス」と「英数クラス」、女子特進コースに再編された。また全コースで入試問題を統一した。そのため、全体的に学力レベルが底上げされ、今春の入試では男女ともに、「スーパー選抜」クラスの競争倍率が上がり、得点の高さが目立つ結果となった。
人間力を育てる学校行事
今年創立73年目を迎える帝塚山中学校・高等学校は、これまで時代のニーズに応えて様々な改革を進めてきた。今年度、新校長に就任した有馬校長は、「百年を一区切りと考えると、70年は基礎をつくり改革を重ねてきた時代。今後は『子どもは宝』を大前提に、『良い人間をつくる』という帝塚山の教育をシステムとして定着させていく時期になります」と語る。
「『良い人間』とは、人間として正直、謙虚、誠実であること。それに見合う知識や態度をどのように身に付けさせていくかということを、常に意識しながら一人ひとりの生徒に対応していかなければなりません」
今の子どもたちを取り巻く環境は昔と異なり、地域で社会性を築く機会が減っている。そのうえ遊びの内容もゲームなど機械化され、集団での遊びが少なくなっている。そこで心配されるのが、社会性の希薄化と心のエネルギーの弱体化である。心にエネルギーが充填されると学習意欲も湧くが、不足状態では一度つまずくと立ち上がれなくなってしまう。
「何かに感動したり、仲間と共に喜ぶことができれは、エネルギーは蓄えられていきます」
そのため同校では、授業、学校行事、クラブ活動のいずれもが重視されている。
中学1年の7月に実施される臨海学舎は、半世紀も前から受け継がれている伝統行事だ。3泊4日の日程で京丹後市網野町の海へ出かけ、それぞれの能力に応じて目標距離を決め、完泳に挑戦する。事前に学校のプールで指導を行うが、最初は水に顔を浸けることさえできない子どももいるという。
「そんな生徒が、足のつかない海で泳ぎきったとき、涙を流して喜ぶ姿は忘れられません。教員も懸命に指導してきただけに、生徒の喜びを自分のこととして感じられます」。自分の限界を超えたことが大きな自信となり、学習にも活きてくるという。
2月に奈良文化会館国際ホールで開かれるクラス対抗のコーラスコンクールも59年目となる伝統行事だ。男子クラスも女子クラスも生徒が指揮と伴奏を担当する。11月ごろから自主練習を重ねて本番を迎える。審査員は外部から招いた専門家3人。「素晴らしいハーモニーは、クラス発表とは思えない」と、その評価は高い。
同時期に奈良文化会館の2階展示室では、帝塚山芸術祭が催される。美術部や写真部などの作品とともに、普段の授業で制作した作品も展示され、そのレベルの高さは来場者を驚かせている。
「中学の3年間は一番心身が発達する時期ですから、何事にも全力投球する姿勢を身に付けさせます」と有馬校長。
生徒たちは、幅広く学び体験することで感性を磨き、可能性を広げていく。 |
目標達成をサポートする
多彩な教育プログラム
クラブ活動は、学年を越えた関係を築ける。5月に「ロボカップ」全国大会で優勝し、世界大会出場を決めた理科部ロボット班は、中学生と高校生の混合チームだ。
中学生は全員がクラブに参加。高校生も6割ほどの生徒が部活に励んでいる。運動部では、高校3年の6月の最終試合をもって引退し、そこから受験勉強にシフトしていく生徒が多い。長年剣道部を指導してきた有馬校長は、クラブと受験勉強を両立させて京大など難関国公立大に合格した生徒を何人も見てきた。そういう生徒たちは、自分の限界を超える力を発揮する。気持ちを切り換え、自分のリズムをつくり、時間を有効に使う。
今年から開設された自習室に、夕方6時半ごろから部活を終えた高校3年生が集まり出す。閉室時刻の8時まで勉強に集中するのだ。また、朝7時半から職員室前の質問コーナーにやってくる生徒もいる。どの生徒も学習に対するモチベーションが高く、自ら学ぶ姿勢を身に付けている。
有馬校長は、「目的意識を持たせるために、中学から様々な機会を設けています」と話す。
例えば、大学教授による講座、大学での体験学習、弁護士・検事など法曹関係者のフォーラム、卒業生による講演会など多彩なプログラムが用意されている。生徒は自分の志望に応じてそれらのプログラムに参加し、目標達成への意識を高めていく。
帝塚山中学校・高等学校は、生徒の人間的成長と目標達成を可能にする独自の教育体制を整えてきた。しかし有馬校長は、「教育は毎日が勝負。これでいいということはありません。謙虚に自らを省みて改革を進めていきたい」と語る。
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