2年ごとにステップアップさせる
六貫教育のメリット
百年余の伝統をもつ関西大倉中学校・高等学校。しかし、学園には「厳然たる理念を打ち出してその目標に向かって歩む」という私学教育のイメージはない。
「教師が生徒とともに学校を創りあげていく、自由闊達な精神が校風として受け継がれています。本校の魅力は、生徒も教師も自分の能力を最大限に伸ばせる環境が整っていること」と話す六貫教育推進室の松村健司室長。
教育理念がスローガンに留まらないことを実感させる言葉だ。
教育の基本を「学習」と「人間形成」におく本校は、知力・体力・徳力に優れた、総合的な人格を備えた生徒を育てることを目標にしている。中高一貫教育(以下、六貫教育)にはその教育活動を効率的に展開できる利点があると言う。
「高校受験にとらわれることなく、6年間の成長を3つのステージに分け、充実した学習支援体制を組めるのがメリットです。カリキュラムの適度な先取りを行いながら、習熟度によって2年ごとに学習内容を定着させます」
六貫教育のステージは次のようにステップアップする。中1〜中2は「基礎力養成期間」。英・数・国については文科省の定める授業時間を上回る独自のカリキュラム編成で進度を速め、この期間でほぼ中学課程を修了する。理解度に差がつきやすい英・数について毎週「鍛錬テスト」を実施し、演習を行いながら基礎力の定着を図る。個々の生徒をしっかりサポートするため、少人数クラスによる「習熟度別授業」も導入。
中3〜高1は「応用力充実期間」。学習内容が難しくなる中3に、成績上位者を選抜して難関国公立大学合格をめざす「Sクラス」を編成する。夏休みには難易度を上げた
合宿勉強会「サマ―スクール」を実施する。一方、成績が伸び悩む生徒のモチベーションを上げることも大きな課題としてとらえる。型にはまった放課後の補習だけでなく、自主学習を指導する「SLS(セルフ・ラーニング・サポート)」で強力にバックアップ。学ぶ姿勢を身につけ、学習意欲を高めることに狙いを定める。だからこそ「全員が大学現役合格をめざそう!」という意識が生徒に共有されるのだろう。
高2〜高3は「実践力確立期間」。高2で高校課程をほぼ終了させ、高3からは大学入試に的を絞る。放課後行われる「学習会」では予備校を越える受験対策を実施。年間約50講座が開講され、勉強の進度や目的にあう講座を選択し参加することができる。京大・阪大・神大への現役合格をめざす学習会「京阪神クラブ」、「東大・京大をめざした学習会」も活発化させる計画だ。
また、近年の大学入試は論理的思考力を重視する傾向にあり、小論文対策にも万全を尽くす。
「生徒には国語力が第一と説明しています。読解力、語彙力、表現力がなければ、英語や数学の学力向上につながらない」と松村室長は明言する。
大学で何を学び、社会にどう貢献するのか
を視野に入れた指導
最近は「大学で何を学びたいか、社会に出て何をしたいのか」という目標設定が希薄な生徒が多いと言われると松村室長。しかし、本校では、生徒が社会と関わる時間を積極的に増やしてきた。私学の進学校ではまだ少ない職業体験もそのひとつだ。中学3年生を対象にした取り組みで、約70を超える企業の協力のもと様々な職場で業務を体験する。
「当初は迷惑をかけるのではと憂慮しましたが、とても好意的に受け止めてもらえました。子どもの成長を社会全体の問題として考えていただいていることを学びました」
今までとは違った立場で社会と接する体験をし、「両親の苦労を知ることができた」、「人の役に立ち感謝される喜びを感じた」などの感想が寄せられ、保護者からも大きな評価を得たという。 |
また、各自の人生観、職業観を確立し、高校生の受験へのモチベーションアップのために行われているのが「学問体感」だ。大学教授を招き、大学で学ぶテーマが分りやすく講義される。卒業生からも進路の道しるべとなる貴重な体験を聞く機会が設けられている。
「子どもたちは映像から情報を得る機会は多いですが、人と出会いものに触れる機会が少ないですね。大学入試を見据えた学びの取り組みと同時に、人間教育を体系的に実践していくことが大切です」
教育理念にもとづく
「徳育」に根ざした人間形成
冒頭、本校の教育の基本について記したが、知・徳・体の人格形成の中でも、特に教育の柱としているのが「徳育」だ。学力だけでなく自主性や自立心に根ざした豊かな人間性を育む教育が実践されている。
前述した社会と積極的に関わる試みが全て徳育につながるのだが、クラブ活動が果たす役割も大きい。「関倉は文武両道」と評されるほど、運動部・文化部ともに活動がさかんだ。授業では別のコースを歩む高校入学の生徒と親しく交流する場にもなっている。よき同志、よきライバルと切磋琢磨した経験が人生の大きな財産となった卒業生も多いことだろう。
本校の生徒手帳には「校則」という文字はない。自ら規律を守ることを前提とし「心得」と表現されている。問題を起こした生徒がいても排除するのではなく、また一緒に生活ができるよう指導する。
「不都合な事態から目を背けては、教師が教育を放棄したことになります。誠実で、責任感のある大人を育てるのが学校の役割ではないでしょうか」
松村室長の言葉に徳育の原点をみる気がした。
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