「橘メソッド」の成果で、平均偏差値アップ
最寄りの私鉄駅から徒歩数分、車通りの多い道を北に入ると、そこは緑にあふれ、時折、鳥のさえずりが聞こえる森の中。ほどなく京都橘中学校・高等学校のレンガ色の校舎が見えてくる。同校ほど、交通至便と好環境を兼ね備えた学校は、ほかにないかもしれない。
同校では、10年近く前から、試行錯誤を重ね、数々の教育改革を実施。例を挙げると、完全週6日制の導入、コースの改編、ICTの活用、GTECの全員受験、学校モニター制度などで、様々な工夫を凝らしてきた。
「昨年、これらの整理、絞り込みをし、勉強のモチベーションを上げるものだけをまとめて『橘メソッド』と名づけました」と語るのは、稲吉陽作校長。いわば、橘学習システムの確立だ。
新しく採り入れたものには、中学校においては、「一流の企業のモノづくりや大学の研究に触れる」というプログラムや、花山天文台での体験実習がある。最先端に触れる体験によって生徒の気持ちを揺さぶり、将来の夢や目標を持たせ、学習の動機付けとすることが狙い。また、高校で採り入れたものには、まず「キャリアデザイン」が挙げられる。これは、進路指導のプログラムで、世の中の仕事について、系統的に学ぶものだ。「タイムマネジメント」は、生徒自ら時間を自己管理しようというもの。能率手帳の高校生版を活用して、1週間単位で学習計画を立て、それに基づいて実行できたかどうかを記録していく。「セルフラーニング」は、自学習習慣確立のための学校側のサポート体制。教員が見守る中、月・金曜の放課後60分間、教室で自習を行う。国公立特進Sコースと英数特進Bコースは全員、総合進学Aコースはクラブ活動を優先し、希望者のみ出席する。
「橘メソッド」の成果は数字となって現れている。平均偏差値が高校入学時から卒業までに約3ポイント、中学でも1年間で約3ポイントもアップ。さらに今春、国公立大学の合格者が京大1名、阪大4名など計39名と、前年比134%。しかも、Sコースの国公立大学現役合格率は90%という快挙だった。
クラブ活動、HRなどを通じて全人教育も
同校の躍進ぶりは、大学進学実績だけでなく、クラブ活動でもしかり。
近年、特に注目されているのが吹奏楽部。全日本マーチングコンテストで金賞を受賞(2011年度は銀賞受賞)したこともある名門だ。昨年、日本テレビの「笑ってコラえて!」という番組で取り上げられ大反響だったことから、今年も連続して密着取材・放送されるという異例の事態となった。また、2012年のアメリカ・ローズパレードにもアジア代表として出場した。文化系クラブでは、太鼓部も大活躍。全国高校総合文化祭<郷土芸能部門>で、優秀賞・文化庁長官賞受賞の実績がある。
運動クラブでは、女子バレーボール部、陸上競技部、男子サッカー部という強豪を擁する。インターハイ出場はもとより、女子バレーボール部、陸上競技部は、国体での優勝実績があり、男子サッカー部は全国高校サッカー選手権大会にも出場を果たしている。
クラブ活動は、週7日活動している部もあるほど熱心。同校では、学力と並び、クラブ活動を通じて身につく人間的な力が不可欠と考えているため、Sコースの生徒にも部活動への参加を奨励しており、火曜日はすべてのコースの授業が6限で終わるカリキュラムとなっている。クラブでは、上級生が下級生に挨拶や身だしなみ等についても厳しく指導。生徒が自ら律する姿勢が校風となっているようだ。
そのほか、ホームルーム、高校の総合的学習の時間の「人間学」も全人教育の一翼を担う。また、中学校では特別ホームルームの時間で、お互いに理解・尊重し、思いやりや協調性、クラスの絆を育めるような企画を設けている。生徒のいきいきとした表情を見ていると、京都橘での学園生活そのものが人間力を高めるのではないかと感じられた。 |
ブログ「校長室だより」は生徒、保護者に大人気
稲吉校長は、同校で教鞭をとって35年という生え抜き。京都橘中学校が開校した2年前に同中学校・高等学校の校長に就任した。その折、若手の教員から授業の現場を見てほしいという要望があり、すべての教員の授業を見学した後、感想を書いて、教員一人ひとりに渡した。稲吉校長いわく「以前から若い教員も意欲的に取り組んでおり、教科指導のレベルがさらに上がってきたと思います」。教員同士による授業見学やアドバイスも行っており、たゆみない努力が生徒の学力アップにつながっていることは間違いないだろう。また、同校教員は、進学指導に力を入れている教員とクラブ指導に力を入れている教員がいるが、お互い仲が良く、ことあるごとに激励し合っているとのこと。
稲吉校長は、昨年夏にブログ「校長室だより」を開設。以来、毎日更新している。大変かと思いきや、「大変と言うより、楽しいですね。教員に呼びかけてネタを提供してもらったり、校長室に生徒を呼んでインタビューしたりしています」と笑顔で語る。生徒とのコミュニケーションの場として大いに役立っているようだ。生徒のみならず保護者にも好評で、「お気に入りに入れて、毎日見ています」という声も。
今年、創立110周年という節目の年を迎えた同校では、すでに今後の目標に向かって動き出している。それは、中学校Vコースの一期生が高校を卒業する2016年、国公立大学全員合格を勝ち取ること。とともに、同地区の15歳人口が急減する同年までに文武両道の進学校としての地位を確たるものにすること。稲吉校長の下、教職員一同、協心戮力で立ち進むことだろう。
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