それを学んだら何ができるようになるのか?
目的を明確にし、生徒のモチベーションを高める
JR福島駅からオフィス街へ歩いていくと、白亜のモダンな校舎が見えてくる。朝8時半、校門で出迎えてくれたのは、藤林富郎校長ご自身。ちょうど校門立哨の最中だった。「good morning!今日もがんばろう」。生徒一人ひとりに声をかけている。満面の笑顔。昨今、朝の挨拶に立つ校長先生は少なくないが、藤林氏ほど爽快な挨拶は見たことがない。
「生徒も教員も生き生きと過ごせる環境を作る。それが校長の仕事だと思っています」と豪快に笑う藤林校長。今年就任7年目。伝統の女子校に現代の風を吹き込んできた改革者である。
金蘭会は近年、新しい学習法を率先して導入している。その代表は英語教育だ。2009年、全教室に最新のデジタルボードとプロジェクターを設置。電子教科書を活用した授業を行っている。中3の英語科の授業を見せていただいたが、内容の濃さに驚いた。電子教科書の場合、紙の教科書と違い、パソコンから瞬時に指定した音声や画像が流れる。無駄なタイムラグがない。そのため、通常の2倍近いプログラムをこなしている。フラッシュカード、聞き取り、文法解説、単語テスト、筆記テスト……50分の授業に数多くのアイテムが組み込まれ、集中力を途切れさせない工夫がされている。
ツールだけでなく、教員自身も研鑽に余念がない。英語科の専任教員は、英語指導で評判の灘高の木村達哉先生が主宰する勉強会「チームキムタツ」に全員が参加。常に新しい指導法の研究を行い、授業に反映させている。また、通常授業とは別に、ネイティブスピーカーによるオーラルイングリッシュの授業も実施。こちらは10数人の少人数クラスで会話力を磨いている。
「本校のキャッチフレーズは“授業が自慢の金蘭会”。指導法を研究し、良いものはどんどん取り入れています。常々教員に言っているのは、“Can do”を明確にしてほしいということ。漫然と学習するのではなく、それを学んだら何ができるようになるのか?目標が伝わらなければ、生徒のモチベーションも上がりません。指導計画を立てる際、“Can-doリスト”を作成してもらい、シラバスにも反映しています」と校長は語る。
授業マイスター制度に勉強クラブ
新しい取組を通して、可能性を広げていく
2012年度も新しい試みを導入した。まずは、「授業マイスター制度」。これは授業内容が特に優れた教員を表彰する制度で、第1号には中学の英語指導で功績を挙げた中垣優子先生が選ばれた。中垣先生は英語音声学の手法を活用し、わかりやすい授業を行うと評判。
また、この春から中3対象の放課後補習を開始。英数は週2回、国語は週1回、放課後の時間を有効に使っている。
ユニークなのは「勉強クラブ」だ。「スポーツや音楽のクラブがあるなら、勉強のクラブがあってもいいじゃないか、ということで、勉強をクラブ活動にしたんです」と笑う藤林校長。平日は19時半まで、土日は9時から17時まで、図書室を活動場所としてみっちりと勉強に打ち込む。部員は現在40名。部員一人ひとりがクラブ日誌(学習記録)をつけ、活動実績を残しているという。
現場の先生方からこんな声を聞いた。
「校長は、我々教員がこれをやってみたいと言うと、即座に判断し、良いものはどんどん取り入れてくれます。新しい物事に挑戦しやすい環境です」
同校を訪ねる度に感心するのは、校内随所に「学習の足跡」が掲示をされている点だ。中学では、生徒全員が英語のスペリングノートをつけているが、その到達度を示す一覧表が廊下に貼り出されている。また、朝の自主学習などで読んだ本の感想を「読書レポート」に記録。その内容もきちんと掲示されている。
「成果を“見える化”することで、自分の到達度を把握することができますし、お互いに刺激をし合えます」と、校長は小さな工夫を積み上げていく大切さを語る。 |
伝統の女子校ならではの情操教育
食育と服育で心身ともに健やかな女性を育む
教科指導と並行して情操教育にも力を入れている金蘭会。歴史ある女子校らしい一面だ。中学では2年次に「教養講座」として華道、茶道、お箏の授業を実施。高校ではさらに本格的。1年で茶道、2年で華道、3年次には礼法(小笠原流)の授業を週に1度実施する。それぞれ1年間のカリキュラムの中で正式な免状を取得することも可能だ。
近年、「食育」の必要性が問われているが、金蘭会では2009年より中学で給食を実施。小学校で毎日給食に親しんだ子どもたちに、健康的な食習慣と良きマナーを身につけてもらうため、中1は週3回、中2は週2回、中3は週に1回、栄養面に万全を期した給食を全員で味わっている。また、給食のない日も、食堂のメニューから自由に選んでランチを食べることが可能。メニューはすべて100円と配慮されている。
同時に掲げているのが、「服育」。生活に大きな影響を及ぼす「衣」。豊かな心を育むためには、成長期から美しい装いを心がけることが大切との考えから、近年は服装指導を徹底して行ってきた。その取組みが功を奏して、生徒の身だしなみは非常に良好だ。
知性と感性。その両輪をうまく動かしながら、100年の歴史を刻んできた金蘭会。その教育スタイルは、これからもどんどん進化していくに違いない。
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