自主自律と自由の尊重
インターナショナルハイスクール
大阪YMCA国際専門学校高等課程には「国際(インターナショナルハイスクール)」、「表現・コミュニケーション」の2学科が設置されている。
そのうち「国際」学科は1988年、当時の文部省が「進路の複線化」と「国際化教育」を盛り込んだ第二次臨教審の第一次答申(1985年)を受けた流れの中で開校。経済活動のボーダレス化が、多様な背景をもった子どもたちや国籍、母語の異なるこどもたちの受け入れ体制を迫っていた。
時代の要請を受け、「YMCAのグローバルネットワークと語学学校の実績を生かし、個性化・国際化教育を進めるとともに、大学入学資格(文部省認定)を付与することで進路の複線化に応えようとした」と開校の経緯を話すのは同ハイスクール主幹の小路清一さん。
その教育方針は現在も変わることがない。外国籍の生徒が全体の20%、帰国子女が30%という特徴そのものが、多文化共生の理念を語っているといえるだろう。
生徒たちは国際人として不可欠な自主・自律の概念を普段の学校生活を通して身に付けていく。様々なプログラム(夏休みのボランティア研修や英検対策特別授業など)への参加は生徒の自主性に任せている。卒業式や学園祭、新入生歓迎会やスポーツデイなどの課外活動は生徒たちが自ら企画・運営する。
1クラス10~15人で行われる少人数制の授業スタイルのため、一人ひとりの生徒に目が届く。キリスト教に基盤を置く「個々人に寄り添う」という考えの下、従来の進路「指導」や生活「指導」ではなく、より個々に即した「相談」「支援」に重きをおいた生徒対応をしている。
多様な不登校生たちが
共に学ぶ表現・コミュニケーション学科
もう一つの「表現・コミュニケーション」学科は発達障害をもつ保護者の要望と元不登校生が楽しければ通学することから多様な不登校生を対象とした6年前に開設された学科である。全日制で卒業時には高卒資格または大学入学資格を取得できる。
不登校や発達障害をもった生徒は、一般に進路の確保が困難で、進学してもいじめや中傷を受けるなどで不登校に陥るケースが少なくない。「安心して学べる環境が整えば、多くの生徒は希望を持って、勉強への意欲が高まる」と話すのは、学科長で特別支援教育士の鍛治田千文さん。
小中学校時代を地元の学校に通学したケースでも、自信が持てない、自己肯定感が希薄であるといった生徒像が浮かび上がっている。中には「この学校に来て、はじめて人間になれた」と口にする生徒もいるほど子どもを取り巻く現状は厳しく、同学科の役割の大なることを感じさせる。人と関わりをもち、勉強したいという生徒と保護者に多様性尊重の精神から門戸を開く貴重な学び舎といえる。
同学科では国際学科とは異なり、生徒支援の観点からクラブを設けることがある。これまで不登校に陥りがちな生徒の通学を促す目的で、その生徒が関心を寄せる演劇に着目し演劇クラブを、また、在校生と卒業生の交流の場として山歩きクラブをつくるなどしている。
定員30名と小規模学科であるメリットを生かし、生徒間のコミュニケーションに重きを置き、学年ごと、一人ひとりの生徒にあった学校づくりは、まさに弱者の立場に立った運営といえる。 |
理論と実践で他者との関係構築を
YMCA学院高等学校
YMCA学院高等学校には、中学時代に不登校だった生徒、高校を途中で退学した生徒、また、自分のペースで学びたいと転学してきた生徒が多く在籍している。同校で教頭補佐を務める加志勉さんは「学校という社会になじめなかった生徒に高卒資格取得の支援を行う通信制・総合学科の学校」とその役割を話す。
総合学科は必修科目に加え、様々な分野からカリキュラムを自由に選択できることから、入学後に自分にあった分野領域をみつけ、進路を考えるうえで助けとなっている。
具体的には、YMCAの取り組みとして中核的分野ともいえる「多文化共生(国際平和、ジェンダー等)」や、幼少年を対象に長年の活動実績が認められている「ウエルネス(野外活動、海洋スポーツ等)」、また、東大阪で運営する特別養護老人ホームを通じ、豊かなノウハウをもつ「福祉(高齢者福祉、地域福祉等)」など5系列と自由選択科目など盛りだくさんだ。自ずと人とのつながりを身に付けてゆけるカリキュラムには、他者を理解し受け容れる理念が覗える。
現在、大学4回生の同校卒業生は、中学時代まで不登校生であった。入学後もしばらくは対人関係構築に苦労したが、2~3年次から徐々に人間関係を深めることができるようになったという。卒業後、小学校教諭を目指し大学へ進学し、YMCAのボランティア活動に参加するようになった。現在、教員採用試験の結果を待っているという。
社会教育団体として多様な活動の場、交流の場をもつYMCAならではの開かれた学びの場で、自己を改革していった生徒の軌跡が鮮やかである。


YMCA学院高等学校 |
住 所: |
〒543-0054 大阪市天王寺区南河堀町9-52 |
電 話: |
06-6779-5690 |
交 通: |
JR・地下鉄「天王寺」駅下車徒歩5分
近鉄「大阪阿倍野橋」駅下車徒歩5分 |
学生数: |
943名 (2011.11.1現在) |
ホームページ: |
http://www.ymcagakuin.ac.jp |
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