JR大阪駅から西へ約1キロ。オフィスビルや高層マンションが建ち並ぶ一画に、緑の木立に囲まれた金蘭会中学校・高等学校がある。
創立は1905年。堂島高等女学校(現・大阪府立大手前高校)の同窓会「金蘭会」が、私財を投じて創設した。まだ女性の社会的地位が低かった時代に「自立する女性」を校訓に掲げ、女子教育の先駆けとなった。その建学の精神は、自由な校風のもと今も受け継がれている。
「美しさ」への手がかり
同高校は「総合コース」と「特進コース」の2コース制。30年以上も前から1クラスを30人編成とし、きめ細かな指導により生徒の進路希望を叶えてきた。
丁寧な指導は学習面だけでなく生活面にも及ぶ。その結果、「『金蘭らしさ』を身につけ、卒業していきます」と桃田道男校長は語る。
「金蘭らしさ」のイメージは「しっかりしていても、人を押しのけていくようなタイプではない。おっとりしていても、気が利かないわけではない」という。
創立100周年を迎えるに当たって、全校の教職員と何が「金蘭らしさ」かを掘り下げ、めざすべき女性像を明確にした。
「内面の美しさが振舞いに現れ、社会の中で主体的に生きる女性を育てます」。
女性としての基礎固めの時期である高校生の段階で、時代に左右されない「美しさ」への手がかりを与えたいという。「美しくあれ、金蘭Ladies!」をモットーに、授業や行事などを通じて内面の指導も展開していく。
その中心となるのが、基礎的な教養を身につける「教養講座」である。
「教養講座」では、まず日本を知るために「茶道」や「華道」など伝統文化を学ぶ。
ただし、「茶道の『お手前』という作法を修得することが目的ではありません。客をもてなす心を学び、立ち居振る舞いの美しさを身につけてもらいたい」。
桃田校長は、伝統文化を通じて、日本人が守り伝えてきた「心」に接することに意味があると語る。
「礼法」と「身体表現」
「教養講座」には、日本の伝統文化を理解するための「茶道」・「華道」、そしてコミュニケーション能力を高めるために「礼法」や「身体表現」の時間も設けられている。
「礼法」では言葉遣いや文章の書き方などを学ぶ。
「日常的に会話し、文章を書いていても、基本的な事柄が抜け落ちている場合が多々あります」。
桃田校長は以前、生徒にハガキを書かせてみたことがある。すると内容以前に、宛先や文章をハガキの紙面にバランス良く配置しようとする生徒の少なさに驚いたという。
「大人たちが知っていて当たり前と思うことも、子どもはどこかで習わなければ知らないままです」。
子どもを取り巻く社会の教育力が全般的に低下している現在では、意識的に教えていく必要がある。実生活の中で役立つ教養を教えるのが礼法である。
「身体表現」の授業は、劇を通して様々な感情を表現する。例えば「嬉しい」という場合でも、誕生日にプレゼントを贈られたときや、思いもかけずに誉められたときなど、人や状況によって気持ちは異なる。授業では、具体的なシチュエーションを想定して感情を表現する。
「身体の表現力を磨くトレーニングを通じて、ステレオタイプの言葉で表しきれない『感情の美しさ』も感じ取ってもらいたい」と桃田校長は期待する。
「教養講座」の授業はいずれもワークを中心とした参加型となる。生徒が「教えられている」という受身の意識にならないためだ。講師は外部から専門家を招き、評価も行なわない。
なお授業時間数は「総合コース」では週に1時間。「特進コース」は夏休みなどに集中的に開講することを検討している。 |
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難関私大合格を保証
来年度は、現在の「総合コース」・「特進コース」がそれぞれ「New総合コース」・「New特進コース」へと変わる。
「New総合コース」は、入試科目を3教科(国・数・英)に変更。
また「特進コース」と共通の芸術鑑賞会に加えて、年間5〜6回の音楽鑑賞会なども開催し、豊かな情操を育む。進路目標としては従来どおり、主に指定校推薦・公募制推薦などを利用した大学・短大進学をめざす。幼児教育・看護・芸術・食物栄養分野を志望する生徒に適したコースである。
一方「New特進コース」は、関・関・同・立を中心とする難関私大の文系学部をめざす。合格を確実にするために来年度よりカリキュラムを変更。月・水・金の7時限目に50分間の「課題学習」、8時限目に90分間の「錬成学習」を設定する。
「課題学習」は授業とは別に、事前にプログラムされた課題を学習。翌朝の小テストによって定着度を確認する。
「錬成学習」は学年に応じて内容が異なる。1年生は、授業の予習・復習に取り組み、学習習慣を身につける。2年生になると、受験のための基礎演習を開始。3年生では最終段階の応用演習に入る。
新たなカリキュラムときめ細かな指導により「難関私大合格を保証します」と桃田校長は言い切る。
教育内容に適した新校舎
生徒の内面を磨く「教養講座」の開設と学習指導の充実に加え、来年度は校舎の建て替えも予定されている。
1937年竣工の現校舎は、当時の建築様式をそのままに残し、雑誌にも紹介された。重厚なたたずまいと内部空間の広がり、幾何学的な装飾が同居している。老朽化を防いできたが、今後の維持保存には限界があるという。
新しい校舎は、茶道や華道用の和室を備えるなど、来年度からの教育内容に適した設計となる。
金蘭会中学校・高等学校は創立100周年を機に、女子教育を進化させようとしている。
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