教員が一丸となったサポート体勢で
生徒の大志を見事に実現
取材に訪れる度に清々しい気持ちになる学校がある。京都橘もそのひとつだ。校舎の外に広がるのは明治天皇が眠る伏見桃山陵の広大な森。時折、鶯の鳴き声が聞こえてくる。JR、私鉄最寄り駅から歩いて数分という立地が信じられないほどの静寂。こんな優れた環境で学校生活を送れる生徒を羨ましく感じる。
京都橘高校は2011年春、素晴らしいニュースに沸いた。「国公立特進Sコース」から初の東大合格者が出たのである。理科U類に現役合格という快挙。明治35年の創立以来110年目の大きな躍進だ。
「2年生の時にクラス担任が首都圏の大学見学ツアーを実施したんです。関西の高校生はどうしても地元志向が強い。もっと広い世界を見せてあげたいという気持ちで企画したものですが、東大、東工大、早大など難関大学の研究室を訪問し、生のキャンパスを体験しました。これが大いに刺激になったようです」と稲吉陽作校長は語る。
このツアー後、地元大学を志望していた生徒が、第一志望を東大に切り替えた。その勇気ある決断を受けて教員たちはチームを結成。東大受験に焦点を絞った指導体制を作り上げていった。
「東大、京大、阪大志望の生徒には、教科別に特別指導を行いました。過去の入試問題をすべて分析するなど、教員自身が研鑽を重ねながら、生徒と一丸になって入試に挑んだのです」
授業後の補習に加え、長期休暇の間も先生方がプログラムを組んで指導に当たった。生徒たちは自学自習室もフル活用した。
また、二次試験の直前には壮行会も挙行。日本トップレベルを誇る同校バレーボール部の監督が本番への心構えを伝授するなど、学校が生徒の夢を総力あげて応援していく態勢をとった。その成果が見事結実。東大を筆頭に京大、阪大、神大など、国公立大に29名の合格者を輩出し、2011年は京都橘にとって大躍進の年となった。
「東大合格は確かに嬉しいニュースですが、本校では通常の授業について来れば志望校には必ず合格できる。教員は皆そういう自負を持って指導にあたっています。そのための研究にも力を注いでいます」と校長は胸を張る。
工夫を積み上げる「橘メソッド」で常に教育改革
毎年、細やかな教育改革を行い、着実に成果を上げている京都橘。コースの改編、完全週6日制の導入、授業評価アンケートの実施、民間企業の幹部社員による外部モニター制度、GTECの全員受験など、その工夫は枚挙に暇がない。同校ではこれを「橘メソッド」と呼んでおり、より良き教育の指針としている。
その結果、5年間で生徒の平均偏差値が3ポイント上昇するなど、確実な数字となって現れている。学力向上に伴い、国公立志望者が増えたことから、従来は難関私大向けだった「英数特進Bコース」でも、今後は国公立大受験向けのカリキュラムを強化していく方針だ。
新しい試みも導入している。まずは「タイム・ディベロップメント(TD)」の実施。これは、文字通り、時間の管理術を身につけるカリキュラム。月曜朝のショートホームルームで実施しており、自らの生活時間をいかにコントロールしていくか、その手法を考え、実践していくプログラムだ。
また、同校では朝の自主学習に力を注ぎ、読書、ドリル、小テストなど様々なカリキュラムを実施してきたが、この春からは「コラム学習」も開始した。1週間分の新聞から厳選した時事コラムを5分間黙読し、タイトルをつける訓練を反復して行う。社会問題に目を向けることで広範な社会性を育成し、国語力のアップを図るのが狙いだ。
加えて、近年重要視されるキャリア教育にも注力を欠かさない。週1回の「キャリアデザイン」の授業では、各界で活躍する一流の職業人を招き、専門世界の実情を学ぶ時間も設けている。 |
2年目中高一貫コースでは
ユニークな授業で理科への興味を醸成
2010年に誕生した中学校では、今春、定員60名に対し241名の出願者があった。これは京都府下の私立中学で一番の増加数。上位2割の生徒が超難関国立大への進学を想定している中高一貫Vコースは、3年間の学習時間が、公立中学の1.5倍に相当する2910時間。高校と同じく週6日制を採用しており、理科教育ではユニークな取り組みも行われている。
総合学習の時間には、世界的な精密機器メーカーからエンジニアを招き、最先端のロボットによるデモンストレーションを生徒の眼前で見せた。
「生徒たちは誰もが目を輝かせ、食い入るように見ていましたよ。理科教育には、工夫を凝らした授業で生徒の興味を喚起し、同時に基礎的な反復学習を行っていく、この両輪が欠かせないと思います」と物理の教員として長年教鞭をとってきた稲吉校長は強調する。
夏休みには理科に特化した自由研究を実施。昨年の成果を見せてもらったが、中学1年とは思えない本格的な内容に記者は驚いた。扁形動物プラナリアの再生能力を調べた女子生徒、ジャガイモの美味しさをヨウ素デンプン反応と絡めて検証し、仮説を実証した男子。どれも発想がユニークだ。研究テーマの設定に当たっては、理系科目を担当する教員が分担して、生徒と一緒に考案。その上で、どのような調査、研究を行えば良いかをアドバイスし、夏休みに生徒が実験、調査を行う。そして綿密なレポートを冊子として完成させていく。このプロセスひとつをとっても、生徒一人ひとりに寄り添い、きめ細やかな指導を行う京都橘の教育方針を垣間見ることができる。
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