一人ひとりの
顔が見える学校
4月、校長に就任した平沢真人氏は、昨年度までミッションスクール聖母被昇天学院の入試広報室長を務め、幼稚園から高等学校までを擁する学院の入試広報活動を一手に引き受けていた人だ。45歳という若さでの就任に悩んだが、「神様の御計画」と応諾した。自ら宗教の授業も受け持つ信念と情熱の人である。
平沢校長の1日は校門で生徒を迎えることから始まる。挨拶を投げかけながら、生徒たちのその日の表情に気を配る。文字通りの『一人ひとりの顔が見える学校』を実践しようとしている。
『顔が見える』とはどういうことか。例えば、遅刻しがちな生徒がいたとする。遅刻は言うまでもなく指導の対象だが、学院では遅刻という事象だけをとらえて指導することはない。なぜ、遅刻するのか。原因となっている事情に目が向けられる。実際に、家庭の事情から家事を済ませて登校する生徒がいたというが、そういうケースでは、生徒の努力や責任感を認めることが指導の前提。一人ひとりの生徒の状況を把握することなしには到底できないきめ細かな指導がここでは実践されている。
いきおい、そこでは家庭との連携が重要となる。学院ではこれまでも家庭との絆を大切にしてきたが、平沢校長もその伝統を受け継いでいく考え。教員が家庭環境を知ることでベターな指導ができることは多い。「こういう学校運営ができるのも中・高校合わせて400名ほどの規模だから」と家庭的な校風を強調する。
伝統や理念を受け継ぐという点では、進学指導でもいわゆる既存の進学校とは一線を画すスタンスを明確にしている。「本校は第一に『国公立大学を目指します』という学校ではありません。大学のその先、つまり生涯をどう生きて行くかを見すえた学校なのです」という平沢校長。その言葉には、人間の多面的能力をバランスよく発展させる全人教育の理念がうかがえるのである。
小規模校メリット生かし
『密着型』の進路指導
学院の方針が合格実績第一主義ではないとはいえ、国公立大学へ進学する生徒は無論いる。昨春、大阪大学に合格した生徒は、3年次の9月まで学院が持つ指定公推薦枠を利用して進学する意向だったが、本人の希望で受験5か月前に志望大学を変更したという。
学院では、関西学院大学、関西大学、神戸女学院大学をはじめ卒業者数の5倍以上の指定校推薦枠を持っている。進学には有利だが、一方で指定公推薦枠を利用する生徒が増えると、実力を十分に発揮しないまま進路を決めてしまいかねない。日々の授業を受ける姿勢も内申重視型になりがちだ。
自らの使命を果たすため、最後まで持てる能力を出し切ってほしい。そんな思いから平沢校長は第一志望の進路実現のためのバックアップ体制を強化する。授業の駒数を増やし、これまで行ってきた土曜講習、水曜補習をさらに充実させる。
中学校では2クラスを英・数で習熟度に応じ3クラスに分け、展開授業を実施。高校では2年次からアドバンス、グローバルの2コースに分化し、さらに、多様化する選択授業は受講者が1人でも成立させるなど、『密着型』授業を行っている。小規模校ならではのメリットを存分に発揮した指導体制といえる。
教科指導、生徒指導面では、中・高校ともに主任制を導入した。主任は担任の支援、指導を行うとともに、教頭を補佐し、管理職と担任間の連絡調整を一本化する。平沢校長は、教員や学年集団による対応の不均衡をなくし、各学年のカラーに応じたきめ細かな指導を実践するための組織改革と説明する。 |
変わる中学入試と制服
中学入試では、これまで国算の2教科だった入試科目を理・社も選択できるよう検討が進められている。平沢校長は「小学生が一生懸命に学んできたことを学校が正しく評価しようとしているかという疑問があった」とし、「生徒が一番頑張ってきたことを見たいし、見える入試制度に変えたい」と入試制度の改正に踏み込む考え。
また、在校生や保護者から出された制服の改善要望にも応えている。学校の理念を表現してきたこれまでの制服の型や色は変えないが、シルエットをスタイリッシュに、素材も家庭で洗濯できるものに変える。ポケットやボタンの位置を変え、細部は生徒の要望を取り入れた小さな変化だが、そこに身近な声に丁寧に対応する学院の姿勢がみえる。
教育目標である「社会を変革できる女性の育成」とは、ドラスティックに壮大な政治改革をする女性を指すのではない。言葉遣いの美しい女性、立ち居振る舞いの美しい女性、誠実に誇りを持って自分の仕事に取り組める女性、周囲の人々に優しく接することのできる女性、そんな一人ひとりの聡明で品格ある女性が、職場で、家庭で、自分の能力を発揮することで、愛情溢れる豊かな社会が築かれていくのである。
若き新校長は、理想の生徒像を胸に変革への第一歩を踏み出した。
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