そして見えたのが既存のキャリア教育への疑問。「中3生は将来の進路を本当に見いだせているのか」。ごく一部を除いて答えは否。ならば、進路別のコース設定に、中3生は焦りを感じることはあっても飛び込む勇気を持てないのではないか。もっと、じっくり進路選択できるコースが望まれているというのが大阪成蹊女子の出した結論だったと、コースを牽引してきた中井咲貴子教諭は説明する。
進路が決まっていなくても、進路を見つけられそうと期待が持てる学校を中3女子の多くが求めていたのだ。よって、高1では可能性と選択肢の提示、自分自身の適性発見にカリキュラムを絞った。高2以降で大まかな方向性を、文系特進、看護・栄養系、総合進学、観光文化系、食物・調理系の5レーンから選べるようにし、高3でのレーン変更も可能とした。
観光、食物系は近年女子の志向として特に増加傾向であるところ、大阪成蹊短大との連携を密にとった体験型授業の設置に人気が集まった。総合進学レーンでも高2の単位の一部を大学の単位として認定する制度を設け、総合学園の強みを生かしている。文系特進は国・英・社を、看護・栄養は数・理に特化した授業で外国語系大学、看護系大学、看護系専門学校などへ進路を見出している。
授業枠を取り払い
土曜実習で力つけ
土曜日、高2のレーン別授業を参観した。文系特進では外部予備校講師がプリントを使った授業を、看護・栄養系では同校の数学教員がそれぞれ授業を行っていた。看護系はここ2〜3年で志望者が増え、他のレーンに比べ志望動機が明確でぶれないという特徴がある。
食物・調理系の調理実習では辻学園・調理製菓専門学校の講師が担当。麻婆豆腐とココナッツ団子を手際よく調理。生徒の一人は「料理は大好き、将来は調理師を目指している」と話した。
総合進学と観光文化系ではブライダル事業の一環としてのネイル実習が行われていた。大阪美容専門学校の講師に同校の教員1人も加わって、ネイルチップにアクリル樹脂で模様づけするという授業。細かい作業に生徒は嬉々として取り組んでいた。
5年目を迎え充実の度を増している一連のキャリア教育には、大阪府教委もかねてより注目している。2007年からは3年連続で「先導的モデル事業」に採択され、2009年には「大阪府職業アセスメントプログラム」モデル校の認定も受けている。さらに、昨年は大阪の私立92校中、5校のみという「大阪進路支援ネットワーク」にも認定、その取り組みが評価されている。
固定化しない人間関係
ダイアログ研修でも円滑に
5つのレーンに分かれ専門的に学ぶ生徒たちだが、ホームルームは選択したレーンに関係なく混成。そのため、一つのホームルームで様々な学びについて聴く機会が刺激となり、人間関係も固定化されない。 |
女子校には独特のイメージが先行し、交友関係を心配する声があるのも事実。だが、大阪成蹊女子では入学後すぐに「ダイアログ研修」をクラスの枠を取り払って行っている。人間関係を広く円滑に保つことを目的としたプログラムだ。研修は二つに分かれ、一つは人間関係を築くためのコミュニケーションワークが主体の対話レッスン。もう一つは自学のため勉強の仕方を習得するプログラム。研修の成果か、オープンスクールに訪れた受験生からはアンケートを通じ「全体の雰囲気が明るい」や「先生も楽しそう」といった声が寄せられている。
気負いなく、教員が信じたことを一つ一つ積み重ねる学校の、のびやかな雰囲気を受験生もそれとなく感じているようだ。
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