公立にはない強み
生かし進路を叶える
風情ある彦根城の城下町で70年の歴史を紡いできた近江高等学校は、ここ数年、進学実績が上向きの学校としても知られる。強豪野球部は甲子園の常連的存在で、今年は柔道部が男女ともインターハイに出場するなど文武両道の学校の一面も持つ。
2010年入試では京大理学部をはじめ、北大水産学部、名大工学部物理工学科、神大経済学部、筑波大理工学部、広島大文学部など国公立へ17名、関関同立には29名、青山学院、中央大学など関東の人気私立にも14名(いずれも延べ数、既卒者含む)の合格者を出している。
一方、進路別のカリキュラムも多彩で、看護、理学・作業療法職など医療系への進学に特化したコース、フィジカルな能力を活かしアスリート、警官、消防士を目指すコース、情報系の資格取得に特化したコースなど、全4コース、11系統の学びスタイルを提供している(詳細は左ページHPへ)。いずれのコースにも共通するのは、一人ひとりの生徒に目が行き届いている点だ。
昨年までアカデミーコース理系クラス担任を務め、今年から進学担当部長となった丹田久美子教諭に話を伺った。最初に、「公立と近江の指導の違い」について聴くと「進学指導のきめ細かさ」と返ってきた。例えば、一般入試だと合格は困難に思える大学も、生徒の特性、興味関心の方向性が大学側の求める学生像に合致すれば、十分に合格の可能性はあるという。要は生徒と大学の絶妙のマッチングを見つけること、そして、合格に向けた念入りなサポートの二点がものを言うようだ。
一例として、「たいへんな歴史好きの生徒がいて、広島大学が歴史に関する研究発表の成果でAO入試を行うというので、その生徒に勧めました」と丹田部長。結果は合格。生徒の得意分野、進学希望はもちろん、各大学の入試制度を細かく把握していたからこその結果といえる。その生徒にとって最適の入試を提示するため、教員と生徒の信頼関係の構築、コミュニケーションの緊密性は欠くことのできない要素となる。特に近江の進学指導で重きを置いているところだ。
他にも名古屋、筑波など推薦入試による合格者を出している。推薦、AOなどは一般入試とは違い、学校側が作成する書類が多い。また、グループディスカッションの訓練、小論文や面接指導など手厚い対応を求められる。逆に言えば、それが少人数制を採る私立の強みとなる。近江ではそれらの対応を充実させ、最後まで国公立を諦めさせない指導を行っている。
外部機関と協力し
生きた学習チャンス提供
商業科キャリアコースには昨年誕生したばかりの「観光ビジネス系」がある。その名の通り、観光ビジネスに特化した知識の習得、実習を行うクラスだ。もっとも、観光産業のみならず、サービス産業全般に求められるホスピタリティの重要性にも着目し、相手の立場に立った思考、行動をコミュニケーション能力の一部として育成するねらいもある。
今年7月、はじめて2年生が観光基礎学習の一環として、彦根観光協会と連携のもと、彦根城や地元の観光スポットでガイド役や観光品販売、陳列方法などを「ほんまもん生徒実習体験」として学習した。外部機関と連携を進めることも私立の得意技で、生きた学習チャンスは生徒にとってもメリットだ。
他に大学や専門学校との連携も充実させている。同校では1年次から系統的に進路ガイダンスを行っているが、3年次に志望校がほぼ固まって来ると、1人2校を目安にガイダンスを受けたい大学や専門学校のリクエストを募る。今年は同志社大学生命医科学部が夏休みに出張講義を行い、約80名の生徒が受講したのをはじめ、約90大学が同校を訪れガイダンスを実施した。 |
数が多いのは、たとえ1人の生徒の希望であっても、進路指導部ができるだけガイダンスの機会を大学側に要請しているためだ。詳しいガイダンスによって、生徒のモチベーションは少なからず刺激されるため、今後も対象者が1人でも実施していく方針という。
多様なコースがもたらす
もう一つの効果
そもそも多様なコースは、できるだけ細やかに生徒の進路を拓きたいという考えから生まれた。そして、それによって生徒が互いの持ち味を認め合い、自分の得意分野を誇りとして、より鍛え、磨こうとする副次的効果ももたらしている。
丹田部長が文化祭での創作劇コンクールの思い出を語ってくれた。2年の夏休み、クラスが一丸となり何日も練習に励む生徒の姿を見て、「のめり込める力がある生徒たち」と感じたという。コースごとに対抗意識があるのは、互いの力を認めあっているからこそ。多様なコース制は、生徒に人それぞれに個性の輝きがあることを気づかせ、打ち込むことの楽しさ、喜びを味わわせている。
勉強に打ち込むことで人間的な幅が広がった生徒、部活に励むことで能力、適性に気づき、職業観を確立していった生徒、ウイークポイントだと思いこんでいた性格が長所だと見直すことができた生徒。そんな発見を体験できるのも、生徒に寄り添う熱い思いをもった教師がいればこそ。至極当然のことだが、そのことを改めて感じることのできた学校訪問であった。
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