新校舎建設でさらに
推進、中高一貫教育
ここ数年、共学化への対応や教育環境改善のため、施設整備に取り組んできた同志社香里中学校・高等学校だが、来春迎える創立60周年を機に、さらに大規模なキャンパス再編整備に乗り出した。整備計画は新校舎の建設にとどまらず、上下水道・ガス・電気・情報設備などキャンパスインフラも含めすでに着工している。
計画では、理科・芸術・技術家庭教室などが入る特別教室棟を来春の竣工を目指し建設中で、完成すれば中高の共用棟となる。
さらに、これまで高校の普通教室として使われていた校舎を解体し、高校の普通教室を中学校の普通教室棟に連結する形で新たに建設し、中高の交流活性化を促す考えだ。同時に中学校と高校で別々に配置していた職員室を一体化し、中高の普通教室棟の中央に配置する。これにより教科指導上でも中高の教員間の連携を深め、一貫教育の一層の強化を図るという。再編整備によって起こる生徒、教職員の動線の変化さえ日々の教育にプラスに活かそうとする細やかな配慮がうかがえる。
安全面では耐震性は無論、日常の防ぎきれない事故による被害を最小限にとどめるため、安全ガラスや網入りガラスを採用しているほか、シックハウス対策を施し建物自体の安全性を高めている。
さらに、外部からの侵入者をいち早く発見し、万一の有事の際には、校舎の各所から職員室へ連絡が取れるシステムを構築する。警察への緊急連絡システムも備え、外的危険要因への対策も万全といえるだろう。
もともと丘陵地にあるキャンパスの環境は群を抜いているが、新校舎では自然採光、自然通風を活かす設計がなされているため、快適さにエコロジカルな学習環境が加わることになる。
自主自立の精神育む
ゆとりと学力の両立
いわゆる「ゆとり教育」施策を受けて5日制を採用した私学が、再び6日制に転換する学校は後を絶たない。同校も今春から6日制を採用している。他校との違いは、6日制採用に当たって「ゆとりと学力強化の両立」という考えを打ち出しているところだ。この一見、背反するかにみえる二者を両立させることが、同校の基本理念に合致した生徒像を育む、難しくも追求すべき教育目標といえそうだ。
西山啓一校長曰く「同志社の理念である自主自立の精神を育むには、部活をはじめさまざまな活動にチャレンジしやすい環境が必要。一方で、大学進学後、学問を極めていくには最低限の学力を保証しなければならない。社会人となった本校の卒業生の活躍を見るとき、この二つのバランスこそが大切と実感している」と。
その言葉からは、理念教育の成果が表れるには時間がかかるが、それは必ずや底力のような人間的魅力となって人物を形づくるという確信が伝わってくるのである。
ゆとりと学力。その両立のため、土曜の授業は3時間にとどめ、木曜も5時限終了とした。トータルで見ると授業時数は週2時間増えたことになる。この2時間を積み重ねで、指導要領の内容プラスアルファのカリキュラムが編成された。ただし、学習につまづきがある生徒に対しては随時、補講を行い、学力格差を生じさせない体制がとられている。
補講といえば、今春入学した高校1年生に対しても特別補講が先行実施されるようになった。同校では毎年高校からの入学者がおよそ60名いるが、これら生徒を対象に従来の入学の放課後に加え、教科別特別補講を実施。一貫生とともにスムーズに授業を受けられるようにとの配慮からだ。
さて、同校の卒業生のうち毎年95〜96%が同志社大学、同志社女子大学へ進学する。そのため、すでに高大連携講座を開設しているが、今後その連携にさらに期待する声があがっている。というのも、同志社大学では来春、1年間の留学を義務づけたグローバルコミュニケーション学部の開設が予定されており、英語教育にひときわ力を入れている同校では、これまでも国際公務員志望の生徒が少なくなく、そうした生徒の受け皿となる学部の開設に期待がかかっているからだ。併せて、これまで同志社大学が充実させてきた理系学科との連携も検討されている。 |
変化に対応し、
理念を紡ぎ伝えた60年
60年という校史の中、社会はさまざまに変化し、それにより中等教育へのニーズもめまぐるしく変遷してきた。ごく近年をふり返っても、男女共同参画社会に対応した共学化があり、ゆとり教育と同時に導入された総合的学習の時間の活用法を練り、それが定着した頃にはゆとり教育の揺り戻し現象が起きるなど、現場は変化の渦にあったといって過言でない。
同志社香里は変化に対応しつつ、一方で、創立者・新島襄から受け継いだ理念を次代に伝え残している学校だ。
今また、公立高校授業料無償化という大きな変化への対応が問われている。西山校長は「(学校教育の成果を)数値だけで表すことはできないし、数値一辺倒になることは理念と相いれない部分もある。だが、学校教育の実績を語るうえで説得力があることも確か。公立との違いを明らかにするうえで数値化も必要」とのスタンスを示した。変化への対応と理念の継承が校史として紡がれている、そんな学校である。
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