立地を生かした体験学習
将来、中学校の定員増を
滝川第二中学校・高等学校、通称「滝二」は、JR明石駅・西明石駅から直通バスで25分、地下鉄西神中央駅からバスで約10分の立地にある。そのため、西神ニュータウンや明石市からの通学者は無論、淡路市を含む兵庫県全域から千名以上が入学、県外からの入学者も15名を数える。決して交通至便とはいえない学校に、なぜ広範な地域から入学者が集まるのか。滝二の魅力はその疑問の中に見つけることができる。
都心の学校にはない広大な校地。校舎裏の竹林。澄んだ空気。その環境でしかできない学校づくり、取り組みが、そのまま滝二の特色となって評価を得はじめたのだ。
一般に中高一貫教育のメリットは、高校の受験対策を要しないことから効率的なカリキュラム編成が可能で、人間形成や学力向上に積極的なプログラム展開ができるところにある。滝二はその時間的優位性と立地活用を組み合わせた体験学習を、中1から中3までの3年間で発展的に実施している。
6年前に中学校を開校。当初、竹林から切り出してきた何本もの竹を使って、そうめん流しの樋、そば猪口、箸をつくった。1学期末試験終了後、多くの生徒は生まれて初めての「そうめん流し」を体験、夏の風物詩を味わった。それ以前も、校地に設けられた畑でトウモロコシ、スイカ、大根などの栽培を通じ、土に触れ、自然の営みを肌で感じる学習が重ねられていた。
それらの取り組みは水曜日に行われるため「Special Wednesday」と呼ばれ、日常の思考中心の授業から抜け出し、週の半ばに設定された感動体験授業として定着した。週半ばの水曜日に実施する意味は、学習活動にメリハリをつけることで、思考学習と感動学習の相乗効果を高めるためだ。
取り組みが評価され始めると、呼応するように受験者数が伸びだした。中学校の2コース「特進一貫」(定員35名)と「進学一貫」(同45名)の志願者数は昨春466名に上っている。梶本秀二校長は「たくさんの力ある受験生の皆さんの期待に応えるため、将来、定員増を考えている」と明かす。
受験者数の増加は、いうまでもなく合格ラインを引き上げており、安定性をみせている国公立大学への合格者数が、今後さらに高いレベルでの安定に向かうと期待されている。


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自然をテーマに
可能性を拓く
立地を生かした自然体験学習は、学年を追うごとにより大きな自然を味わうステージへと発展させてきた。中1では「海の自然」をテーマに、岡山県の牛窓を3泊4日で訪れる。グループでいかだを手づくりし、海へと漕ぎだしていく。釣りを体験する。自炊もする。中高一貫コース主任の得田拓也教諭は、「生徒も感動しているようだが、見守るこちらも彼ら以上に感動する」と話す。
手製のいかだに乗るという行為は、協力して安全を作り上げるという緊張感を味わう。ときに、困難に直面し意見が衝突し、もめ事も起こる。自炊の場面では、器用に包丁を使いこなす仲間の意外な一面を見つけたり、普段、目立たない生徒の釣り竿に突如、魚がかかって一躍ヒーローになったりする。「海の自然は教室とは違うリーダーやヒーローを生む」と自然体験の意義をひと言で表した。
中2になると「山の自然」をテーマにスキー体験が待っている。この頃になると生徒会活動でも積極的な役割を果たすことから、2年生の生徒会メンバーが中心となってレクリエーションメニューを企画するという。小集団から学年や生徒会といった大集団でのリーダーの役割、また、それをサポートする側の役割の大切さも学年全体で学んでいく。
そして、中2までの体験学習の集大成として実施されるのが中3の「世界の自然」体験旅行だ。カナダ、ロッキー山脈やナイアガラの滝の偉大な自然に触れるほか、現地家庭でホームステイを体験する。それは写真で見た、あるいは文献で調べた事実をはるかに超えた五感による理解をする瞬間でもある。
ある生徒は地質学に関心を抱き、別の生徒は膨大な水の運動エネルギーに興味を引き起こされるかもしれない。多民族や多様な家族形態をもつ国家を新鮮に感じたり、通じるはずの言葉が思うように通じなかったりすることが、語学習得に一念発起させるきっかけとなるかもしれない。生徒により反応はさまざまだ。また、すぐに何かに結び付くことはなくても、しなやかで豊かな感性をもつ時期に思いきった体験をすることで可能性は無限に広がる。そんな思いが3年間を通じた体験学習には込められている。
教育の原点に
立ちかえる
梶本校長はある時、生徒を前にして話した。「私はみなさんが苦しんだり悩んだりする姿を見るのが好きだ」と。そこには必ず成長が約束されていると信じるからだ。教育に近道はない。中高一貫1期生の卒業を来春に控え、梶本校長は日常の生活習慣や授業を大切にするという教育の原点に立ち返えりたいという。進学実績では期待に応えたい。が、原点を見失わず、その日の悩みや苦しみに向きあわせ、それを手厚く見守っていく教育が、遠回りのようで結局は近道だというのだ。受験者数が増え続けている状況だからこその言葉と受け止め、学校を後にした。

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