きめ細かな指導と
意識改革で難関大
人口約100万の和歌山県に公立の中高一貫校が5校ある。さらに県立高校トップ校、私立の一番手、二番手と国立の超難関大を目指す生徒にとって選択肢は広いといっていいだろう。
そんな和歌山で今春、国公立大へ159名(うち現役144名)、関関同立へは169名(延べ数)の合格者を出したのが開智高等学校だ。開校からわずか17年。後発ながら早くも進学校の名をほしいままにした中高一貫校だ。
ただし、同校に入学してくる子どもの学力は高くない。得意科目を一つ二つもっていても、教科全体としてのバランスがとれてない生徒が大半だ。そんな彼らが3年後又は6年後、国公立大や難関私大に次々合格を決めてくる。そこに開智の指導のきめ細かさが証明されている。
まず、苦手科目を克服するために、課題の出し方一つとってもその生徒に適った出し方をする。生活面では部活や交友関係、家庭の状況を把握して必要な配慮を怠らず、多面的総合的に生徒を見るというのが開智のベーシックな指導法だ。そして、徐々に力をつけてきたところで「自分も国立大を狙えるんだ」という意識改革を行っていくと話すのは土井和正法人本部長。
こうした指導が浸透するかどうかは、生徒がどれだけスムーズに学校生活のスタートを切れるかにかかっているという。その点、同校では中高ともに専願率が高く、いわゆる「不本意入学」が少ないことが指導の浸透に好影響を及ぼしている。
中学校では前期入試で約130名程度の合格を出すが、受験者のほとんどが専願であるため、前期受験の合格者はほぼ全員が入学するという。高等学校でも160名の募集に対し、専願者がそれを上回っていて入学者の97%が専願受験者という状況だ。つまり、「開智で頑張る」という覚悟をもって入学してくる生徒が圧倒的に多いのだ。そして、そのことが、きめ細かい指導の浸透度を高めている。
専願率が高いと書くと、比較的裕福な家庭の子どもが多く在籍しているかのような印象を与えるかもしれない。だが、実際はごく一般的な家庭の子どもがほとんどだ。そして、かえってそのことが国公立大への進学意欲を強くし、モチベーション維持にもつながっている。
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試行錯誤しながら
頑張り続ける環境
中学校に「スーパー理進」と「特進」の2コースを導入して2年目。東大、京大、阪大理系と国公立医学部医学科などへの進学を目指す「スーパー理進」では中4より週2日の7時間授業と土曜の午後も授業を行う。今春も国公私立の医学部医学科への合格者は21名を数えたが、早い段階でのコース制が今後の理系進学にいっそう期待をもたせている。
2コースは学年ごとに適正、学力、希望によりコース変更が行われる。これは「スーパー理進」の勉強がハードで、時に疲れて学習意欲を削がれる生徒もいなくはないため。そんな時、ただ耐え続けるのではなく、コース変更によって仕切り直せることが息の長い頑張りを支えることになると土井本部長はいう。大きな目標に挑む生徒に、試行錯誤が許されるのも6年一貫のメリットだろう。
「学力的にぎりぎりで入学し、授業についていけるか心配した生徒が、卒業時には国立の医学部に合格したというケースをいくつも見てきた」という土井本部長。途中で苦しくなっても頑張り続けられる環境とは何かを知っている、そんな指導体制は心強い。
そして、指導体制の充実で特に力を入れているのが教員研修だ。教科担当相互の研究は毎週のように行われ、授業を参観し合うことによってより良い授業を日常的に追求している。生徒が任意に使う通信教材を教員自らも体験し、予備校や塾にも勉強に行く。そこで培ったノウハウを教員から直接生徒に授けるのだ。土井本部長は、「予備校講師が校内で教える『提携』ではない。生徒に最も効果的に接することができるのは、生徒の日常や性格を熟知している教員だ」と、教員自身の授業力の向上を重視している点を強調した。
人格の鍛錬が
学力を伸ばす
急伸する進学実績で注目されることが多い同校だが、西下博通校長が学校説明会などで教育方針を述べるとき、必ず口にするのが「人格を鍛えれば学力は伸びる」の一言だ。
厳しい競争の中、自分自身に勝つため日々積み上げていくものの膨大さを感じるときこそ、教員、家族、友人と支え合いの大切さを生徒が意識できるよう指導がなされる。ある生徒は言う。「私立の中高一貫校に通えるのは、母がパートで学費を工面してくれているから。大学は親の負担を減らせるように国立へいきたい」と。他者と自分の関係性を自覚し進路を見つめる生徒の言葉だ。
難関大への進学を目指すということは、かけがえのない多感な時期により多くを学び、より多くを悩むことを意味する。その時期に生徒に寄り添い、一人ひとりに適った方向をアドバイスし、時に叱咤激励し、また包み込むような大人の存在が不可欠だ。西下校長の言葉は生徒に対しては無論、教員、保護者に対しても語りかけられているようだ。
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