志願者増を受けて特進2コース制へ
少子化の時代にあっても京都橘高等学校の志願者数は伸び続けている。今春の入試では、総募集定員310名に対して1740名の志願者を集めた。しかも、そのうち6割以上が特進(Bコース)に集中した。一方で、1年間の長期留学を前提とする国際教育(Cコース)の志願者は40名に満たない。そこで、私学として教育ニーズに応えるため、コース制の再編を決定した。
国際教育コースは、これまで培った留学・語学研修プログラムのノウハウを、より充実させる形で他コースに引き継ぎ発展解消。特進コースは、現行の国公立大学をめざすBUクラスと難関私大をめざすBTクラスをそれぞれコースとして独立させる。したがって来年度からは、総合進学(Aコース)・英数特進(Bコース)・国公立特進(Sコース)の新3コース制となる。なお、いずれのコースからも1年間の長期留学や中期・短期語学研修に参加できるプログラムが用意されている。
また来年度からは週6日制に戻し、全コース・全学年で土曜日にも授業を行う。これにより平日は最長で7校時までとし、放課後を講座やクラブ活動など有意義に活用できる。
木内正廣校長は、「1週間の学習サイクルをリズムよくするのが最大の狙い。保護者からの声も週6日制支持が圧倒的でした」と話す。
面倒見のよさで超難関大学に合格者多数
今年の進学実績は、京都大・大阪大・神戸大・北海道大・東京外語大など国公立大学に25名が合格。関関同立には59名が合格した。来年度からは特進2コースのカリキュラムが、それぞれの目標に応じて整備されるため、進学実績の躍進が期待できる。
理系・文系の難関私立大学をめざすBコースでは、英語と数学をさらに強化。英語は全員、1年次で英検準2級以上取得を目標として習熟度別授業を行う。基礎となる語彙力を高めるために、コンピュータ自学習システムを導入。授業と放課後の自学習に活用する。
数学は授業以外に週1回、放課後に「数学道場」を開催する。これは考えぬく楽しさを体感する特別講座で、グレード別に「黒帯」「茶帯」「白帯」に分けて難しい問題にチャレンジする。受講は希望制で、他のコースの生徒も参加できる。その他、Bコースの理系志望者には土・日に理系合宿を実施するなど、さまざまなプログラムを用意している。
さらに来年度から龍谷大学と関西大学との間で新たな高大連携がスタートする。龍谷大学との連携は理工学部が中心。3年1学期から入学前学習課題を課し、夏休みのスクーリングを経て入学が決定されていく。関西大学は、e−ラーニングによる語学力養成や文章作成力養成などを通じて入学が決定される。
難関国公立大学を目標とするSコースでは、1年次より5教科7科目入試に対応した学習指導を進める。月曜から土曜まで計38時間の授業のほかに、各種の特別講座を設定している。例えば、「京大講座」「阪大講座「神大講座」など、難関大の過去問にチャレンジする講座も1年生から受講できる。
「京大の数学も、問題によっては1年生でも解くことができます。大事なことは受験に向けての意識付けです」と木内校長。
そのうえ京都大や大阪大など超難関大学をめざす生徒には、毎日個別課題を与え、添削指導を行う。この繰り返しが学力を大きく伸ばし、合格へと導いている。
今年現役で京大に合格した2人の男子生徒も、毎日遅くまで学校で課題を解いていた。木内校長は「図書館でいつも楽しそうに勉強していた2人の姿が印象に残っています」と話す。全員が国公立大学を目標とするSコースでは、仲間とのよいライバル関係が生徒たちを力づけている。
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教育目標を具体化する「人間学」
毎年多くの志願者を集める理由を、木内校長は「進学だけではない幅広いニーズに応えているからでは」と分析する。「学習と自主活動の両立」をめざす同校ではクラブ活動も盛ん。幅広い層の生徒が学んでいる。教育目標の「自立・共生」は、生徒に自己の成長と他者への思いやりを促すと同時に、生徒一人ひとりが自分の居場所を見つけ輝くことができる学校をめざすものでもある。
例えば学習指導では、10年以上前から「授業アンケート」を実施。生徒の満足度を高めている。
また、規律ある生活習慣の確立が学力向上の基本という考えから、保護者との連携を密にし、家庭とタイアップしながら生活指導を進めていく。「保護者と先生方が仲良くなれば教育効果は絶大です」。
そして生徒には、3年間で自己実現の目標を見つけてもらいたいと考えている。そのため、自分とは何か、何をめざすのかを考えさせる機会として、1年で「キャリアデザイン」、2年で「表現」、3年で「人間学」の授業を設定している。なかでも「人間学」には週2時間を充て、重点を置く。これは30年前から続く歴史ある総合教科であり、1年間をかけて、誕生から死まで人の一生をたどりながら「自立・共生」というテーマと真正面から向き合う。授業では、ニートや男女雇用機会均等法、結婚・離婚など、さまざまな問題を取り上げ、人間力をつけるにはどうしたらよいかをディスカッションする。
1学期末の授業では、ボランティアグループ「おかあちゃんキャラバン隊」のお母さん方が赤ちゃんを抱いて来校し、お産やお産を通じて家族の絆が強くなった体験談を語ってくれた。その後、生徒たちはまるで壊れものを扱うように赤ちゃんを抱き、その軽さに驚いたという。「命がなんと壊れやすく、保護を必要としていることを分かってもらえたのではないか」と木内校長。
「人間学」は、受験勉強に追い込まれる3年生にとって、自分の足下を照らしてくれる時間かもしれない。
京都橘高等学校の最大の魅力は、人間教育の理念を根付かせながら、時代とともに変化する教育ニーズに応える柔軟性といえるのではないだろうか。
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