豊富な授業時間とメンタルサポート
普通科と商業科を設置する近江高等学校には、進路目標の異なる多様な生徒が学んでいる。
普通科の特別進学コース『アカデミーコース』は1クラス30人以下の少人数制で、国公立大学や難関私大への現役合格をめざす。今年は卒業生の半数が阪大や滋賀大など国公立大学に合格した。
進路指導部アカデミー室長の奥谷信之教諭は、「公立中学から入学してきた生徒たちの学力を、短期間で大きくアップさせなければならないので、先生も生徒もハードな毎日が続きます」と話す。
通常の6時限授業に加え、7・8時限目に演習授業が行われ、3年間の総授業時間数は通常の高校の4年分に相当する。放課後も、「東大・京大・医歯薬対応」プログラムや、補習が必要な生徒たちのための「フォローアップ」などが用意されている。その他、長期休暇中の約半分を補習に充てるなど、豊富な学習時間を確保している。
しかし、奥谷教諭は「詰め込みだけでは、合格水準まで学力を高められない」という。生徒たちの気力がもたないからだ。
そのため、生徒一人ひとりをきめ細かくフォローする体制を整えている。まず、アカデミーの教室の並びにアカデミー専用の職員室を設け、生徒たちが気軽に出入りできるようにした。現在は、3学年で5クラスのため5人の先生方がチームを組んで情報を共有し、生徒たちを見守っている。日常的に生徒とのコミュニケーションを密にし、必要に応じて個人面談をもつ。
英語担当の奥谷教諭は、毎朝実施している小テストを採点するときに、必ずメッセージを書き添えている。その日の生徒の様子を見たり聞いたりしたうえで、一人ひとりあてに「頑張ったね」と褒めたり、「今日は何やってたんだ?」と叱る言葉を記す。どの生徒にも目が行き届いているからこそできることだろう。
卒業生からの「お返し」
同校では毎年5月の連休明けの土曜日に、アカデミーコースを中心とする在校生とその保護者を対象に「合格体験報告会」が開かれる。今年は、それぞれ阪大医学部、広島大教育学部、大阪府大工学部に進学した3人の卒業生が、大阪や広島から駆けつけ、後輩たちに体験談を語り勉強方法をアドバイスした。
今回の報告会開催にあたり、奥谷教諭が3人の卒業生に出席を依頼したとき、3人とも「先生たちにこれだけやってもらったから合格できた。自分にできることで返したい」と、ふたつ返事で引き受けてくれたという。奥谷教諭は「快く『いいよ』と言ってくれる気持ちが嬉しい」と話す。
報告会には卒業生だけでなく、彼らの保護者も出席し、「保護者の先輩」という立場から、受験勉強に取り組む子どもをどうサポートしてきたかを語ってくれた。そのうえで「先生にまかせてたら大丈夫です」と言い切り、受験生をかかえて不安げな保護者たちを安心させた。「大丈夫」という言葉は、3年間を通して築かれた信頼関係から発せられた言葉だろう。
奥谷教諭は「玄人受けする本物をめざしています」と話す。教育現場をよく知る人たちから評価される教育指導という意味だ。実際に、アカデミーの生徒の1割以上が、学校の先生など、教育関係者の子弟で占められている。滋賀県はいまだ公立志向の強い土地柄だが、確実に新しい流れができつつある。

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多様な進路目標を支援
アカデミーコース以外のコースにおいても、きめ細かな指導が行われている。
普通科はさらに準特進コース『アドバンスコース』と、来年度から新たに『総合コース』を設置する。いずれも勉学とクラブ活動を両立させながら進路目標を実現するコースだ。
アドバンスからは毎年多くの生徒が関関同立など難関私大に合格を果たしている。2年進級時に、医療系特進・理系・文系から選択。医療系特進は2005年度に新設されたクラス。看護師や医療技術者、管理栄養士等の資格取得を目的として大学進学を目指す。今年1期生が卒業し、滋賀県立看護専門学校などに多数進学した。
新設される『総合コース』は2年進級時から「スポーツ系」と「教養系」に分かれる。スポーツ系は体育系強化クラブ生を中心に実技のみならず体育理論やスポーツ栄養学の基礎も学べる。また、教養系ではボランティアなどの社会参加実技や音感教育など人間探求科目も取り入れ、コミュニケーション能力や豊かな人間性を育成する。
商業科も来年度から『キャリアコース』を新設。2年次から「観光ビジネス系」と「情報デザイン系」から選択する。観光ビジネス系は観光関連科目を通してホスピタリティも学び、情報デザイン系では情報処理やCG等で表現して適切に伝える力を学ぶなど、高校卒業後の進路も考えたカリキュラムで「社会で生きる力」や「職業観」を身につける。
また、昨年度からアカデミー以外の普通科・商業科の3年生のために、センター試験対策の「中堅国公立合格対応講座『特講』」が開かれている。これは、1・2年次はクラブに熱中しながらも、3年次から目標大学合格に向けてラストスパートをかけられる講座。年間5タームで開講し、秋からでも参加できる。
幅広い層の生徒が学ぶ同校では、一人ひとりの進路目標を実現するために、教育サービスが細分化されている。例えば、面接指導ひとつとっても、就職と専門学校、大学のAO入試では指導の仕方が異なるからだ。
奥谷教諭がいつも新入生に言って聞かせるのは、「高校からは皆別々の道を進む。めざす場所にはそれぞれに期限があるし、ハードルの高さも内容も違う。間に合わなかったと悲しい思いをしないように、自分のことをよく知ったうえで、目標実現に向けて頑張ってもらいたい」。
目標も得意分野も異なる多様な生徒たちが、互いを認め合い、それぞれの目標に向かって努力する。近江高等学校の学習環境こそ、ある意味「本物」と言えるかもしれない。


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