礼法を通じ相手を思いやる
今春、大阪国際滝井高等学校の生徒募集用のポスターが好評だ。「凛とした美しい滝井」のコピーと背筋を伸ばし畳の上に正座する在校生の横顔が、同校の新たな取り組みを表している。昨年、小笠原流礼法をパイロットケースとして導入した同校だが、生徒、保護者ともに礼法教育に対する反応はよく、今年度から週1時間、授業として正式に導入することを決めた。
礼法授業は小笠原流礼法宗家の先生が担当、室町時代より継承される日本の伝統的所作を通じ「相手を大切に思うこころ」の修得を目指す。同校校長に就任して4年目を迎える中田碩也校長は、「これまで凛とした美しい女性の育成を教育目標としてきたが、礼法は単にマナーや所作を学ぶという以上に、そうしたマナーがなぜ必要なのかを考えることで人間的成長の一助になれば」と礼法教育の意義を語った。
入学時から3年間の礼法教育を受けると、そのグレードに応じて免状が取得できる仕組みで、将来にわたって有用な資格のひとつとなるのも魅力だ。全国的には礼法教育を授業に組み入れる高等学校はあるが、関西で正規授業として組み入れる学校はまだ珍しい。
立ち居振る舞いに、その人の心根が表れるのは無論だが、逆に、心根は所作に従い、所作と和合するものともいえる。美しい所作とその所以を知ることで、周囲と接する態度や考え方が拓かれるなら、「凛とした美しい女性」の具体的実践として最適といえるだろう。今後が注目される。
生徒の心を打ち
自ら動きだす教育を
今年度は教員研修としても新たな取り組みを始めている。これまでも、教員の主たる能力を授業力、クラス運営力、生徒指導力の3つに分け、それぞれの能力を引き上げていく取り組みが行われてきた。
授業力は分かりやすい授業であることを第一に、生徒の授業への積極参加を促す質の高さを求めてきた。各教科で公開授業を実施したり、生徒アンケートによる授業評価を年2回実施し、これを点数化して各教員の授業力向上に役立てている。
クラス運営力と生徒指導力については、教員の自己啓発を主として改善に努めてきたが、今春からユニークな研修が加わった。ひと言でいうなら「〜しなさい」という命令教育から脱し、「生徒自らが動く教育」への転換を図るための教員研修である。
とはいえ、具体的に何をするかは簡単ではない。つまり、転換を図るために個々の生徒にどう働きかければよいかを教員自身が試行錯誤しながら、答えを求めていくことが必要なのである。
中田校長はそのヒントとなるデール・カーネギーの著書、「人を動かす」を教員全員に配った。人間理解、人間心理を再研修することで生徒を動かす教育に資するようにしようということだ。
中田校長曰く「例えば、遅刻しがちな生徒にペナルティを与え『指導』するのは簡単だが、本質的な問題解決にならない。遅刻に結びつく原因を探り、原因を取り除くために必要なことを生徒とともに教員が考え、必要があれば保護者とも一体となって解決していくことが必要だ。生徒の側からみて、教員が遅刻する自分の生活習慣や、性格的な弱さを真剣に自分の立場に立って教えてくれていると感じさせることが大切」と。遅刻する自分を心配する教員がいると生徒が気づいたとき、生徒は自らの判断で動きだすというのだ。そうして、自律した生徒は同じ間違いを繰り返さないともいえる。それが、同校が提唱するテーラーメイド教育である。
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学校組織の活性化で
受験者数増を目指す
府内に28ある私立女子高のうち、今春の入試で募集定員を満たしたのは、同校を含め6校のみと、女子高をとりまく状況は相変わらず厳しい。が、中田校長は社会のニーズに敏感に、新たな取り組みをおこなうことで学校組織を活性化させようとしている。ひいてはそのことが、受験者数を増やす大きな要因となることを確信しているからだ。
また、受験生に魅力を感じてもらおうと設けた特待制度によって高い学力の生徒が入学してくることが、学校全体への刺激となって学力の底上げの役割を果たしているとも。ちなみに、総受験生中、20番以内の成績を収めた生徒は入学金と3年間の授業料が免除される。21番から上位10%以内の生徒も入学金が免除され、授業料は公立校並みに減免される。
こうした数々の取り組み等において外部評価が徐々に上がり、それにつれ教員も更に活性化し意欲的になってきていると中田校長は話す。
取材の最後に正門前の「女神の花通り」について聞いてみた。訪れるたび、周辺花壇の手入れが行き届いていることは承知していたが、この度は、通りの交差点前にベンチが置かれ「シルバーさん、赤ちゃんごゆっくり」と書かれていた。実は、このベンチ、同校から地元自治会への寄附されたもので、信号待ちをしたり、周辺道路の清掃に精を出す地域のお年寄りへの労わりの気持ちが込められている。礼法の相手のこころを思いやり、周囲と和合する教えを学校として実践しているようだ。
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