ウィステリアが目指す国際人育成
親鸞聖人の仏教精神に基づき、自主的精神に満ちた女子の全人教育を目指す京都女子中学校・高等学校は、1899年に浄土真宗本願寺派と関係が深かった甲斐和里子によって創立された。以来、「心の学園」として、宗教的情操教育による女子の人格完成を目指し、時代のニーズに耳を傾けながら現在に至っている。
そうした建学の精神に沿って、昨年、スタートを切ったウィステリアコース(ウィステリアは藤の花の意で本願寺紋章「さがり藤」に由来する。以下「Wコース」)は、併設する京都女子大学への進学が保証された、中・高・大一貫の教育コースであり、その教育目標は、日本文化や歴史を体験、研究することによって、自分自身の拠って立つところを知り、ひいては、国際的に活躍できる女性を育成することにある。
こうした目標を達成するために、京都東山七条に立地するメリットを生かし、伝統工芸を体験的に学習するプログラムを導入している。これまで念珠や組み紐づくり、友禅染、歌舞伎鑑賞といった、京都ならではの体験学習を重ねている。取り組みでは単に、体験する以上に、念珠作りを通して、感謝することの大切さを、友禅染を通しては文様や構図からその歴史を学ぶというように、文化の意味合いを根本から理解する学習がWコースの特徴といえる。また、生徒だけでなく、保護者も同じプログラムに参加し、互いに交流を深めていることもWコースの良さである。
各体験学習は、事前調べ学習、体験、事後レポート作成という流れで進められ、中3から本格的に導入を予定しているプロジェクト学習の予備学習として、着実に成果を上げている。プロジェクト学習は別称「ウィステリアリサーチ」と呼ばれ、社会科と連携しながら特定テーマについて探求する学習法。テーマの選定、調査方法の決定、研究発表、論文作成など、通常の授業では養うことができない、企画・立案力やコミュニケーションスキルを養成するねらいがある。
中3では、オーストラリアへの2週間の短期留学プログラムが予定されているが、国際化教育にふさわしい取り組みを集大成する場であり、それまで学習した伝統文化を現地で伝えるため、英語力に磨きをかけていく。
現在、Wコースには中1〜2年生が在籍しているが、併設する京都女子大との中高大連携プログラムが積極的に進められている。専門教授およびその門下生によるキャリア教育や、京野菜を中心にした料理講座などはその一例で、大学側が文科省より現代GP(現代的教育ニーズ取り組み支援プログラム「女子学生のキャリア教育の体系化と普及」)の指定を受けたもので注目されている。「大学からは4回生が参加、こちらは中1〜2年生で、年齢差が10歳程度ありますから、異年齢交流としてはもちろん、自分の将来像を描く上で、貴重なプログラム」と緒方正倫校長は、中高大連携の意義を説く。
なお、同校のWコース入学について問い合わせが増えているが、小6段階で資格審査を実施している。審査観点は学習評価および所有資格、スポーツ、文化活動、ボランティア歴など生徒の特性に向けられている。
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期待される超難関国公立への合格増
ここ3年、同校の国公立現役合格者数は2005年57名、2006年62名、2007年67名と右肩上がりになっている。ただし、5年目を迎えた6年一貫のIISコースの導入により、さらに数字の伸びが期待されるところだ。中学からの入学者(6ヶ年生)には中3時、V類・U類・Wコースの3コース。高校段階では3コースに加えてT類型が設けられている。高校からの入学者(3ヶ年生)にはU類・T類・Wコース(平成21年度から募集)の3コースが設けられている。それぞれの類型の特徴は次の通り。
IISコース 理数系を集中的に学ぶ難関国公立大・理系学部への進学をサポートするコース。同校は科学への好奇心や探究心を高める指導方法を研究するモデル校として、2005年度に文部科学省から「理数大好きスクール」の指定を受け、理数教育に対する教授力の高さには定評がある。理数教科のカリキュラムはもちろん、理科特別教室など設備面も充実させている。
IILコース 国公立大への進学を目指すコースで、総合的に高い学力を身につけていく。
IISコース同様に、英語、数学は中3の1学期までに中学課程を修了し、中3の2学期より高等学校課程を先取り学習する。
III類(中3時) IISコース・さらにIILコースから選抜された生徒で編成される類型。超難関国公立大、医歯薬系大学への進学を目指す類型。先取り学習はもちろん、少人数制、習熟度別授業、チームティーチングなどを導入している。
II類(中3時) 国公立大への進学を目指すコースで、総合的に高い学力を身につけていく。
I類(高校時) 主要3教科を徹底強化し、京都女子大学や関関同立などの私立文系大学への進学を目指す類型。
前述した大学合格実績の伸びに期待する資料として、現高2の直近の外部模擬試験(高1時実施)における好成績がある。東大から神大までの超難関国立大学の合格圏内に30人余が入っているのだ。
この数字が1年後に変わる可能性はあるが、これまでと比べ注目すべき数字であることは間違いない。ただ、課題もある。林信康教頭は「本校生は概して安全思考に走りがちなので、チャレンジ精神を養っていく必要がある。今後、メンタルサポートを充実させて、志望校合格を支えていきたい」と語る。
新たなブランド“京女”の幅広い進路選択
近年とみに「心の教育」という言葉が使われるが、“京女”では大正時代に、時の貞明皇后が同校を訪れた際、「心の学園」という言葉を贈られた。生きとし生けるものの「いのち」を尊び、他者と共生し、幅広い素養を身につけ、バランスの取れた人間教育を指しての言葉であり、その精神を現在に守り伝えてきた伝統が、今日の教育実践に根付いている。
進路についても、国公立大、医歯薬系大、難関私大、京都女子大と“幅広い選択”を現実のものにしていることは、今後、新たなブランドとして注目されるだろう。
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