カトリック教育が創りだす女子教育
カトリック大阪聖ヨゼフ宣教修道女会を母体とし、幼稚園から高等学校までの総合学園を運営する百合学院は、女子の全人教育に取り組み今年で52年目を迎える。愛は受けるよりも与え、人に赦されるよりも赦す教育を実践してきた。
キリスト教主義の学校においては、毎朝の祈り、聖母祭、復活祭、クリスマスの集いなど独自の行事も多いが、同校の西川一二校長は「宗教行事を形として行うだけでなく、そこから何かを学び取ることが大切」と語る。その言葉が日々の教育の中で実践されていると感じるのは、校内で出会う生徒たちが、ごく自然に会釈を交わしてくれる姿を目にしたときである。そして、整然と配置された校舎や立ち木の中に、祈りのマリア像が見えると、不思議と背筋が伸びて敬虔な気分になる。こうした雰囲気がもたらす“無言の教え”はとりわけ女子教育にとっては大きいだろう。
また、多くの高等学校で教鞭をとった経験をもつ西川校長が「卒業生がよく訪問してくる学校」と紹介するのも同校の魅力のひとつだ。教員と生徒、校長と生徒が近い関係の同校では、校長室の扉は常に開け放たれており、部屋の前を通る生徒が「こんにちは!」や「さようなら!」と声をかけて通っていく。
入りやすい雰囲気もあってか、「生徒の中には私に教員への不満を訴えに来る子もいます。そんな時はよく事情を聞き、教員の側にも話をして生徒の真意を確かめます。誤解があれば納得できるよう、互いに話し合うためのアドヴァイスをします」と西川校長。こうしたエピソードは一例に過ぎないが、要は、生徒一人ひとりに対する丁寧な対応が、後に卒業しても「訪ねてきたくなる学校」を創り出している一因といえそうだ。
普通科に設置された創造表現コース
生徒の目標に応じた多彩なコースを6年前から設置してきたが、最近はそのシステムがより充実度を増してきた。創造表現コース(Creative Expression)は普通科でありながら、演劇科や音楽科といった専門学科的要素がふんだんに取り入れられている。
表現力、積極性を身につけることを目的とし、在籍する生徒は読む、書く、話す、歌う、演じる、描く、創るといった体験を積むことで、伝える方法を学び取っていく。授業でもディベートや舞台表現を積極的に取り入れるなど、実践中心の内容となっている点が特徴的。今日、企業の多くがプロジェクトを進める上で、コミュニケーション能力に優れた人材を求めていることは周知のところだ。同コースで学ぶ相手に伝える表現能力は、将来、芸術という枠を超えた社会一般のニーズにも応えるものといえる。
指導は声優、日本舞踊家、アナウンサー、狂言師など専門家を多数起用している。同校の卒業生でブロードウェイの舞台(キャッツのビクトリア役)で活躍するカウマイヤー香代子氏がシアター・ダンス講座を受け持ったこともある。こうしたプロフェッショナルを直接目にし、指導を受けることで、ひたすらに努力するその姿勢に影響を受ける生徒が多いことはいうまでもない。
同コースを卒業した生徒の声には「3年間で苦手なことにも取り組み、自分を変えることができた」、「人に流されるのではなく、自分を持っていたい。将来、どんな職業に就こうとキラキラと生きたい」といった積極性を自己評価するものが多い。
自己表現力を身につけた生徒たちは、芸術系の大学への進学者が多いが、普通科なので一般学部へ進学する生徒も少なくない。主な進学先は日大芸術学部、大阪芸大(芸術・舞台芸術、芸術・放送)、京都造形芸術大学(芸術・美術工芸、芸術・舞台芸術)、大阪音楽大学(音楽・器楽、音楽・声楽)など。
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自己探究コースとスカラー
生徒自身の持ち味や社会環境を見据え、それぞれの生徒にあった進路を探すためのカリキュラムを組んでいるのが自己探究コース(Identity Exploration)である。インターンシップ制度を充実させ、ジャンルの異なるさまざまな職業を体験できる魅力がある。インターンシップ受け入れ先は幼稚園、福祉介護施設、病院、ホテル、旅行代理店、大学図書館、教育関連企業と豊富だ。
また、インターンシップの事前学習として、日本経済新聞社の主催でスタートした「企業探求プログラム」といった教育プログラムにも毎年参加、実在する企業(積水化学工業、コナミ、日立製作所、全日空など)から出されたミッションに取り組み、課題解決、新商品企画についてプレゼンテーションを行っている。
具体的には企業理念の調査に始まり、社会ニーズを知るために街頭アンケートを実施、その後、企画会議を経てプレゼンテーション準備を行うといったもので、2005年には全国大会で行ったプレゼンテーション「星の見える寝室のある家」が、企業人には思いつかないアイディアと評価されている。その後も2006年、2007年と毎年全国大会に出場し、『優秀賞』を受賞している。自分の進路を探しながら、社会や経済の仕組みを知ることができるプログラムこそ「何をしていいかわからない」現在の多くの若者にベストマッチしたものといえるだろう。
さらに今年から、ビジネス思想家スティーブン・R・コヴィーによる「7つの習慣J」という行動学をカリキュラム化し、成功哲学のエッセンスを学ぶことでより高度な人格教育を目指すという。
スカラー(Scholar)は、すでに進路が明確で、国公立、難関私大を目指すいわゆる「特進」クラス。最大30名の少人数制による先取り学習が実施されている。1日7時間授業だが、さらに弱点克服のための特別補習授業も放課後に実施される。神大を目指す生徒は「7時間目終了後、週1回、5時から6時半まで数学の補修を受けている。センター試験までに1問でも多くの問題に当たりたい」と意気込みも高い。
また、夏季休業中に実施される3泊4日のスカラー合宿では、朝8時半から夜10時まで、1コマ90分の授業が6コマ続くが、生徒のモチベーションは高く、大学合格実績も伸ばしてきている。主な進学先は神大(経済)、大阪外大(外国語)、同志社(社会、文化情報、文学)、立命館(経営、産業社会)関西学院(経済、商学、法学、社会、文学、総合政策)、関西大(商学、社会、製作創造、経済)など。
これら各コースでの取り組みの成果を上げるためには、中学校段階での個性伸張が礎となることから、7つの選択した講座から、楽しみながら企画、運営、プレゼンテーションまでを学ぶSTEP TIME(Search Think Express Possibility)というカリキュラムを導入している。それまで自分自身で気づかなかった才能、可能性の発見につながる生徒主導型の授業で、高校段階での自分発見へのステップアップを支えていると言える。
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