ウィステリアコース1期生幅広い学びへ
親鸞聖人の教えを教育の基本に、その創始を1899年にさかのぼる京都女子中学校・高等学校は、古都京都の東山七条に立地する。徒歩圏内に京都国立博物館、三十三間堂、清水寺、智積院などがあり、日本の歴史・文化の息遣いを感じる絶好の環境である。
同校の前身は「顕道女学院」といい、神道国教化政策が展開される中、仏教主義に基づく女子教育に取り組んだのが始まりである。
こうした背景から、宗教的情操教育を通して高い人格の完成を目指す教育が第一義に実践されていることはいうまでもない。そして、今ひとつの独自性は京都が生み出し、育んできた伝統文化に接しやすい立地を活かし、それらを深く味わうことで自己の拠って立つところを見据える学習の実践である。伝統工芸職人の技や優雅な京料理、祭りや茶会における伝承ごとの数々。文化の意味をひも解く学習を通して、ひいては国際的視野に立った多様な分野で活躍できる女性を育成する教育目標もまた、大きな柱となっている。
今春よりスタートしたウィステリアコース〔(Wisteria)は「藤の花」の意で、同校の校章にも「さがり藤」を意匠化したものが、使われている。以下「Wコース」〕は、まさにそうした長年の取り組みを徹底実践するものといえる。京都女子大学への進学を前提に、中・高・大の連携により高等学校で大学の一般教養科目などの単位習得を可能にしたコースである。高校2年の2学期に文学、発達教育学、家政学、現代社会学から進学する学部を想定し、大学初修外国語や入門的な講座から受講することができる。いわば、大学の単位の先取りが可能となり、その後履修する専門科目に多くの学習・研究時間を充てることができる、総合学園ならではのコースといえる。
現在、Wコースの1期生は38名で、資格審査で選抜された33名の個性あふれる生徒たちと内部進学者5名とが学んでいる。緒方正倫校長によると「Wコースのめざしているところを、各方面によく理解いただき、ほんとうに素晴らしい生徒たちに恵まれました」と、新コースの滑り出しは順調なようだ。というのも、資格審査の観点は小学校5〜6年時の学習評価に加え、模擬試験の資料、また、所有資格やボランティア、スポーツ、文化活動といった学校外での活動歴など、生徒一人ひとりの特性にも向けられているのである。
中学校の3コース
Wコースの特色の一つは「ウィステリアリサーチ」と呼ばれるプロジェクト学習にある。中学3年次より社会科と連携し、フィールドワークも取り入れながら特定のテーマについて探究するもので、調査方法の策定から研究発表、論文作成までを数班に分かれて行う。その過程で通常の授業では養うことが難しいコミュニケーション能力や企画、立案力を育んでいくねらい。
現在、1期生はプロジェクト学習の準備段階として、体験学習に取り組んでいる。林信康中学校教頭によると、7月には市内の工房を訪ね、「念珠づくり」を体験。念珠の意義を調べ、感謝する心について学んだ。「念珠づくりは建学の精神の具現化といえるフィールドワークですが、生徒達は目を輝かせながら作っていました」と、生徒の意欲に手応えを感じている様子。2学期には友禅染の体験、続いて歌舞伎鑑賞と多彩なプログラムが準備されている。
中学3年次にはオーストラリアへの短期留学が実施されるが、現地で茶道の作法や歴史を英語で伝えることを目標に、今、生徒たちはお点前と英会話に磨きをかけている。「海外で日本の歴史や文化を語れてこそ、真の国際化教育といえます」と林教頭。このほかユニークな取り組みとして、英検、TOEIC、数検のほかに、京都検定(ジュニア版)へも挑戦していく。同検定では歴史、建築、伝統文化、言葉と伝説、京料理、京菓子・・・と京都に関する全てが問われるため、格好の学習材料といえる。
2L、2Sコースはともに主に国公立大を目指すコースであるが、2Sコースはとくに理数分野の、より発展的な内容を学ぶのが特徴である。平成18年度入学生からは中学3年次に主に国公立大を目指す2類型と、2Lコースから選抜された生徒と2Sコースの生徒とによって編成される難関国公立大を目指す3類型が新設される。2L、2Sコースとも中高一貫の利点を最大限に生かし、英数国の先取り学習を始め、習熟度別授業、少人数授業、チームティーチング授業等を導入している。
とくに2Sコースでは理数教科に重点を置き、ハイレベルな教材により応用力をつけていく。夏の学習合宿ではより発展的な内容に取り組むなど、医歯薬系大学や難関国公立大学への進学を視野に入れた指導が特徴。こうした取り組みが文科省の評価を受け、理数教育の指導方法を研究する目的のモデル校「理数大好きスクール」にも選ばれている。
3類型設置は近年伸びている医歯薬系を始めとする難関国公立大への進学希望に応える新たな取り組み。ちなみに今春の医歯薬系大学への合格者は91名を数える。
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国公立へ94名関関同立へ大きな伸び
現在、高等学校では、外部から入学した生徒には京都女子大や関関同立大を中心とした私立大学への進学を目指す1類型と、主に国公立大を中心とした進学を目指す2類型の2コースが設けられている。2類型は、高校3年次より中学校からの内部進学者との混合クラスとなる。いずれのコースも大学受験に向け、文系・理系に分かれた指導体制がとられ、志望大学別の受験対策が細やかに行われる。
2006年における国公立大合格者数は94名(うち現役合格者62名)で、地元京大に7名、阪大6名、神大4名と超難関大への実績を伸ばしている。関関同立へは合わせて260名の合格者を出し、昨年比141%と大きな伸びを示した。その他の私立大への合格者も多数。緒方校長は「国公立へは150名は(合格者を)出したいと思っています」と、具体的数字で今後の目標を示した。さらに、平成18年度高校進学生2Sコース一期生の進路状況が注目される。
系列大である京都女子大への進学者数は175名で、うち内部推薦進学者は141名。就職率が96%を超える同大学への人気は根強く、将来の活躍を夢見る生徒をサポートしている。
女性の時代と言われるようになって久しく、様々な分野で女性の視点が求められている一方、いのちの尊厳を軽んじる風潮を目にすることも多い。女子教育にかける期待がますます強まる現在こそ、“京女”は幅広い素養を身につけ、バランスの取れた人間教育の実践に力を注ぐ。仏教精神に基づく他者との共生を教育目標に、自らの特性を生かした進路への取り組みが注目される。
京都女子大学のプログラム「女子学生のキャリア教育の体系化と普及」が今年度文科省「現代的教育取組支援プログラム」(現代GP)に採択された。今後、中・高・大の連携が一層強まってくる。
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