新コース体制で、10年先を見据えたキャリア教育
大阪成蹊女子高等学校では、2006年度、高度なスポーツ教育を実現することを目的に「スポーツコース」を設置した。来春には、全校週6日制に移行し、さらにコース設定を改編するという。その内容は、従来の「特進コース」と「総合選択コース」の代わりに新しいコンセプトをもつ「キャリア進学コース」を設け、普通科5コースから4コース体制に変更するというもの。各コースとも、専門性の育成を目指し、将来の夢の実現に向けた独自のカリキュラムによる学習を行う計画だ。
なぜせっかく進学しても中退したり、就職しても退職する者が後を絶たないのか。その問題解決にようやく文科省が本腰を入れたのが、この「キャリアデザイン教育」だ。
新しくできるキャリア進学コースは、従来の特進コースと総合選択コースの学習利点を融合させたコース。1年次では、習熟度別授業は行うものの他コース同様全教科型の共通カリキュラムで学ぶ。2年次からは、「文系特進」「看護栄養系」「自己発見」の3つのレーンに分かれるという仕組み。「なぜ進学するのか」「自分がその職業に向いているのか」「10年度、20年後の自分に必要なものは何か」を問い続けるプログラムを用意し、「自己分析」と「自分の将来を見極める」ことに力点を置きながら、志望大学や将来の進路を見据えたカリキュラムでサポートする。3つのレーンとも単に大学進学だけではなく、10年先、20年先の“自分”を見据えたキャリア教育を行うことが目標というわけである。
文系特進レーンでは、文系の難関大学の現役合格を目指す。かたや、看護栄養系レーンは、看護・福祉系の大学・短大や専門学校、栄養系の大学・短大、専門学校の現役合格を目指す。
従来の特進コースでは7時限まで授業で、7時限終了後は自主学習の時間を設けていた。そのため、クラブ活動に参加したくてもできない生徒がいたが、来春からは、正課の授業は6時限までとし、講習や補習の実施を二段構えとする。つまり、生徒のスケジュールに合わせて、毎日の授業後だけでなく、夏休みなど長期休み中にも補習を受けることができる。その結果、キャリア進学コースでは文系特進レーン・看護栄養系レーンの生徒も、勉強とクラブ活動の両立ができるなら、クラブ活動にチャレンジできるようになる。
様々な出会いや経験を提供する自己発見レーン
「自己発見レーン」は、学力を身につけるだけでなく、社会に通じる教養の習得にも力点を置いている。総合的な学習内容により、幅広い進路に対応する。
「中学3年の段階で、おぼろげながら将来のキャリアをイメージできる生徒もいますが、全体的に見ると圧倒的少数です。その多くは、まだ将来の夢を見つけていない子どもたち。自己発見レーンは、そういった子どもたちが将来のキャリアを決められるような方策をとるというのがコンセプトです。例えば幼稚園の先生になりたいという場合は、何らかのきっかけがあって、そう思うようになったわけですね。言い換えると、将来のキャリアを決められないのは、そういうきっかけがまだないからです。そこで、自己発見レーンではさまざまな出会いや経験ができるいろいろなプログラムを組み、きっかけとなる材料を提供していきます」と六室匡司教頭は語る。具体的には、豊富なインターンシップの実施、外部講師の招へい、9万人以上に上る同校卒業生の中で憧れの職業に就いている先輩たちの講演などを予定している。
また、同レーンでは、生活学(ネーミング未定)もカリキュラムとして採用。そこでは、礼法や冠婚葬祭などの基本的な生活マナー、華道、茶道、料理、裁縫といった社会に出て必ず役立つ知識や技術を学ぶ。
キャリア進学コースの“進学”の部分については、先述の通り、徹底的な補習を実施。習熟度別の授業を行うなど、従来の特進コースで得たノウハウを活用する。そのうえで、自分というものをちゃんと見つめて進路設計できるよう指導。どのレーンの生徒たちも夢をもって人生を切り開いていけるようバックアップ体制が整っているというわけである。
「オーダーメイド体制で、生徒一人ひとりのニーズに応える対応をします」と、キャリア進学コース主任の北岡悟先生が言うのもうなずけるきめ細かな体制である。
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ほかのコースも専門性の高い独自カリキュラムが好評
来春からの4コースの内容は、「キャリア進学コース」、「スポーツコース」に加え、「幼児教育コース」と「美術コース」となる。
「スポーツコース」は、スポーツに関する高度な知識、大学進学を実現する学力、健やかな体力を育み、将来の夢をかなえるコース。併設の「びわこ成蹊スポーツ大学」との連携を図り、優秀な人材を早期から育成するために設けられた。他校では例のない発展的なスポーツ教育を実践するコースとして話題を呼び、好評だ。
同校には15の体育系クラブがあり、いずれも活動は活発でハイレベル。特に陸上競技、水泳では、優秀なコーチ陣の指導のもと、トップアスリートを目指せる環境にある。同コースでは、基本的にクラブ活動は必修。ただし、学外スポーツクラブに所属している生徒は、学外での活動が単位として認められる仕組みになっている。その一人で、学外のバトントワリングクラブに所属する生徒が、今夏ローマで開催される国際大会に日本代表選手として派遣という快挙を成し遂げた。
一方、昨春スタートした「幼児教育コース」は、志願者が殺到したほどの人気。大阪成蹊短期大学との連携を進め、理論だけでなく実習・実技をふんだんに採り入れた専門性の高い独自のカリキュラムが特徴である。
「美術コース」においても、併設の大阪成蹊大学芸術学部との連携を図りながら独自のカリキュラムによる学習が行われる。開設6年目と歴史は浅いが、芸術大学の入試では「実技トップ」の生徒を多数輩出している。
いずれのコースでも、生徒一人ひとりが持つ潜在的な才能を、学力的側面と人格的側面の両面からフォローアップしていく。中学時代までに学習面でのつまずきのある生徒には、入学当初から基本3教科の補習を実施。まず基礎学力を培ってから、高校の学力を積み上げるという。また、2年次からは予備校講師による授業もカリキュラムに導入して、進学実績の向上を図る。同時に、全校あげて、漢字・英語・ワープロなどの資格取得にも力を注ぐ。
さらに併設大学、短大のうち短大では、ほかの四年制大学との併願が可能である。この点は他の高校と異なり、内部推薦で合格した後にも、他の四年制大学にチャレンジできるのは、大きなメリットである。
一人ひとりの生徒のニーズに応えるべくチャレンジを続ける大阪成蹊女子高等学校。新しいコース、斬新な試みの成果が現れる日は近い。
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