マナビネットオープンスクール2022 ●掲載:塾ジャーナル2022年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

開校記念式の記念講演に上野千鶴子氏
「弱者が弱者のまま尊重される社会に」

静岡学園中学校・高等学校(静岡県)

これからの未来、ジェンダーへの考え方を変えなければ生きられない。そんな熱いメッセージがSHIZUGAKUの中高生に届けられた。
静岡学園中学校・高等学校は5月27日、東京大学名誉教授の上野千鶴子氏を招き、開校記念式を開催。昨年まで静岡学園で教鞭を取っていた林千尋先生が、便箋9枚もの直筆の手紙を書いて上野氏に講演を依頼。上野氏が快諾したことで今回の講演が実現した。当日は高1・3生と希望する保護者の方々が会場で視聴。その他の生徒は学校でリモートで聴講するスタイルで行われた。


【講演】
「君たちを待っているのはどんな社会か
〜もう、お父さん、お母さんのようには生きられない〜」
東京大学名誉教授 認定NPO法人WAN理事長 上野 千鶴子 氏

大学進学率を男女別に各国と比較してみると、ほとんどの国は女子の方が進学率が高いです。しかし、日本だけは逆転しています。皆さんは大学に行くのは当たり前だと思っているかもしれませんが、それは「静岡学園」という恵まれた環境に入ってこられたからです。

女性は生まれた時から「背伸びしてまで大学に行かなくていい」と誘導をされ、医学部入試では、女子受験生を一律減点する不正が行われていました。政府は「2020年までにあらゆる分野における指導的地位の女性の割合を30%に」という行動計画を立てましたが、未だ実現していません。女子が何か成し遂げたいと思っても、その度に水をかけられたり、足を引っ張られたりする。それが日本の現状です。

会社に全く同じ条件で入った男女でも、10年経つとポストや給与に差がつきます。このように無意識に差別をする企業の人事を「水も通さない粘土のような人たち」として、「おっさん粘土層」と呼んでいます。

今、女性の10人に7人が働いていますが、そのうちの10人に6人は非正規です。非正規の給与は正規の半分から3分の2程度。さらに、一旦仕事を辞めた女性が正規の仕事を見つけるのは困難です。

これまでの日本では、高学歴の女性ほど専業主婦になる割合が高かったのですが、今では夫が高所得者でも働く妻の割合が高くなっています。一緒に協力して家庭を支えてほしいと考える男性が増えたことで、女性の稼ぐ能力も魅力に含まれるようになりました。そうした変化がここ30年くらいで起きています。

性差別が企業の業績にどのような影響を与えるかを調査した研究があります。男女関係なく登用し、女性にも創造性の高い仕事を与え、女性正社員や管理職が多く、賃金格差も小さい企業の方が、売上高経常利益率が高いことがわかっています。

私の東大の入学式でのスピーチで一番よく引用されるのが「あなたの恵まれた環境と能力を、恵まれない人々を貶めるのではなく、恵まれない人たちを助けるために使ってください」という部分です。これは、余裕のある人は余裕のない人に手を差し伸べるということ。でも私はその直後にもう1行付け加えました。「そして強がらず、弱さを認め、支え合って生きてください」。

東大合格者は、受験競争の勝者だと思われています。しかし、勝者は不安の塊です。勝者もいつか必ず敗者や弱者になります。フェミニズムとは、弱者も強者のようになりたいという思想ではなく、弱者が弱者のまま尊重を求める思想です。

皆さんには、被害者にも加害者にも、そして傍観者にもならないでほしい。特に男性は傍観者にならないでください。「上野さん、こんな日本変えることができますか」と聞かれたら、私は「イエス」と答えることができます。なぜなら変えてきたからです。変わってきたのではありません。変えてきたのです。

18歳から選挙権が持てるようになりました。選挙権は自分の所属する集団の運命を自分で決めることができる、誰にも譲り渡せない権利です。皆さんにも社会に対して責任が生まれます。責任を果たしてください。


生徒たちへ、熱意を持って語りかける上野千鶴子先生

生徒による質疑応答

【高校3年生 女子】
女性の地位の低さは、少子化の問題としてどれくらい重要なことなのでしょうか。

女性がもっと働きやすい場になれば、企業が変わり、イノベーションが起きることが実証的にわかっています。人口減少に何が影響するかという問題は様々なファクターが入り組んでおり、ここでは簡単に答えられません。
一つ、研究から言えるのは、経済力がないために結婚しない人たちが増えているということ。保守的な結婚観を持っている人の方が結婚しにくいということもわかっています。こういうことを調べてみたら面白いと思うので、ぜひ調べてみてください。

【高校2年生 女子】
女性が入社しやすくなるために、企業の人事の意識を変えるにはどうしたらいいですか。

就活の面接で、性差別的な発言をするようなおじさんがいる会社に入ったらあなたの未来はどうなるか、考えてみてください。そういう企業は、そうでない企業にとって代わられる時代になります。おじさんを変えようとする前に、あなた自身の未来が見つかる場を探した方がいいでしょう。

【高校2年生 女子】
私自身、社会に対してモヤモヤを感じ、そのアクションとして学生団体を設立して活動しています。上野先生はモヤモヤやムカつきを感じたときにどうしていますか。

ノイズを立てると周りから嫌われます。そういう人は嫌がらせをされて、孤立させられます。団体をつくったのは、1人ではできないと思ったからでしょう。一番大事なのは孤立しないで仲間をつくる、自分の応援団をつくることです。それがすごく大事だと私は思っています。
団体ができたということは、なんでも言いたいことを言い合える関係ができていたということですよね。学校が、自分の弱みを見せられる、苦しみや痛みを見せられる仲間をつくれる場所だったらいいなと思います。

【高校3年生 男子】
男性が「おっさん粘土層」に立ち向かうにはどうしたらいいですか。

男の子の声が出てきてうれしいです。男女差だけでなく世代差も大きく、若い男性社員の意識も変わってきています。飲み会も保育園のお迎えがあるので行かないという、男性社員も増えています。皆さんが社会を変えていく力になると思ってください。


鈴木啓之校長と質問をした生徒たちで、上野千鶴子先生を囲んで記念撮影

新校舎の杮(こけら)落とし
多目的室でリモート聴講

校舎の増築が行われている同校だが、5月には図書館棟の屋上に新しい魅力的な多目的教室が完成した。今回、柿落としとして講演会のリモート聴講を実施。希望した保護者30名が参加した。


5月に完成した多目的室。椅子や机は畳めるタイプで片付けやすく、スペースを自由に使えるようにした。芸術の授業で利用するので、温水の出る水道も完備。デッキを設置し、教室の外と中をつなげて使うことも想定している

静岡学園中学校・高等学校 https://www.shizugaku.ed.jp


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