掲載:塾ジャーナル2023年3月号

第2回『意志あるところに道は開ける』


作家/教育&介護アドバイザー
鳥居 りんこ


ロボット掃除機が奏でる
トライ&エラー

年末年始、ワタクシは新型コロナウイルスに感染し“強制寝正月”を過ごしておりました。要するに、ソファーでゴロゴロしていた次第。で、その時に思ったことがあるんです。

「あ~、人生ってトライ&エラーだな」って……。

ゴロ寝を決め込んでいるワタクシの横では、お掃除ロボットが稼働中。テレビ台によって行く手を遮られたロボ君は、ジーコジーコと音を立てながら、ギアを【R】(リバース)と【D】(ドライブ)にするかのごとく後進と前進を小刻みに繰り返しています。どうにかして、行く道を確保しようとする姿が、朦朧とする意識の中で“トライ&エラー”に見えたのです。

「役には立たない無料よろず相談所」に
入るお悩み

話は変わりますが、ワタクシのもとにはありがたいことに、老若男女、様々な人たちからのご相談が入ります。

ワタクシは物書きで、カウンセリングの専門家ではありませんので、「そうなんだぁ~、それは辛いね……」とか、「うんうん、そっか、そっか……」くらいしか言わない(言えない)ので、何の解決にもならないものではあります。

持論ではありますが、人は自身の悩みを言葉にでき、誰かに伝えることができるようになったならば、その悩みの6割方は解消。あとは、勝手に自己解決していける生き物だよなぁと思っているので、要は聞き役でOKかな? くらいの「役には立たない無料よろず相談所」です。(ですから、期待しないでください(笑))

そんな中、大学生からのご相談がありました。
「もう生きていたくない」と言うのです。

「生きていたくない」系のつぶやき相談は意外と多くあります。人間、生きていれば、いろんなことがあって、思考も都度、揺れていく。時には、そんな風に思うこともあるでしょう。

でもね、ワタクシは「生きていたくない」はイコール「生きたい」という力強い裏メッセージであると感じているんですよね。年齢に関係なく、この国では「生きづらさ」が蔓延しているのかもしれない。であれば、それを吐露するのは、とってもいいことだと思っています。

先述しました通り、いい加減な相談所ですから、その時も「そっか、そっか」と言いながら、軽く「どした?」と尋ねてみました。彼女はバイト先の店長から「オマエは使えないクズ! てる資格なし!」と罵られたというんですね。

言葉というのは、時に鋭い刃となって心を切り刻んでしまうことがあります。元気な時には受け流せることが、心が弱っている時には突き刺さってしまうことがあるのは、誰しも同じ。みんな、強いようで弱いです。

彼女が「クズが生きていても、迷惑なだけなので……」と呟きます。

いや~、そんなこと言ったら、80億人の中で誰が「生きていていい!」という証明書をいただけるんだろう? という条件を様々、考えましたが、ワタクシには正解がわかりませんでした。

他愛のないやりとりを重ねる中で、見知らぬ彼女ではありますが、この子の良さやら、強みみたいなものが透けて見えます。「なんだ、クズじゃないじゃん⁉ 期待して損した(笑)」

ほかにも、ワタクシは子育てで悩めるお母様に向かって、こんな話をすることがあります。「子どもが勉強しないからバカだって言うけど、あなたね、娘時代にオール優の男と付き合いたいと思った?」と。(オール優だった方、大変、失礼な発言かもしれません。ワタクシ、人生の中でそういう方に未だ巡り会ったことがないので、ご存知でしたらご紹介ください)

みんな、不完全で、凸凹です。でも、それが、その人個人の魅力を強烈に引き出すのだと思うんです。人は凸凹だし、誰しも一生、不完全。それで充分だと思います。

「『いちご白書』をもう一度」を
聴きながら

新型コロナのせいで大晦日は、ボーッと紅白のユーミンを観ていました。それで、久しぶりにユーミンに浸りたくて、YouTubeで「『いちご白書』をもう一度」を聴いたのです。

歌詞にありますように、昭和はいろいろな縛りがあった時代でもあります。就活になったら「もう若くないから」と、自らの意思で断髪をし、強制的に「元服」していたんですよね。昔は「〇歳になったら〇をする」という決め事で溢れていて、時代に逆らえなかった人のほうが多かったかもしれません。誰がいつ決めたのかわからない“常識”や「〇〇らしく」という謎の言葉に縛り付けられるみたいなね……。

しかし、今は「いちご白書」の頃よりも、間違いなく良い時代になっていると思います。行こうと思えば、何処にでも行けるし、やろうと思えば、成功するかどうかは別として、何でもできる。「でも」「だって」「どうせ」という思考から離れたら、いつでも自由です。

そうそう。先日、ママ友のお嬢さんが英国に旅立ちました。28歳。単身での留学です。大学を卒業し、誰もが知っている大企業の総合職として輝かしい実績を上げていましたが、本人の強い意志で退職。難関と呼ばれる大学の入試を突破。その費用はすべて自らが稼いだお金で賄っているそうです。

さすがに、ママ友は寂しさと戸惑いを隠してはいませんでした。婚期、出産年齢、一生安泰だったかもしれない職業の放棄、出身学部とは全く畑違いの学問を30手前で学ぶ是非、それが食える道につながるのか? いう将来の心配。様々なリスクがママ友の頭を駆け巡っていたようです。

でも、彼女は結局、娘を笑顔で送り出しました。

一人娘の「やりたいことが見つかった。私の人生、今、やらなかったら後悔する!」という言葉を聞き、踏ん切りがついたからだそうです。「娘の人生。やりたいことが見つかった! いうのは嬉しいこと。親はもう、遠くで応援するしかないよね?」と泣き笑い。それを聞いたワタクシが「そっか。まあ、とりあえず飲もう!」と誘って、記憶が定かでなくなったことは言うまでもありません(笑)。

いつだって
トライ&エラーの繰り返し

さて、先にご紹介した大学生のお悩みです。
「りんこオバさんならばだけど、その時はこうするかも?」という極めていい加減な対処法をいくつかご披露しました。彼女に何か感じるものがあったのか、はたまた、「こんなオバさんに言っても仕方ない」と、自分で答えを見つけたのか、とりあえずは「生きていたくない」という考えは捨てたそうです。めでたし⁉

今の時代でも、年齢、性差、置かれている環境、様々な背景が複雑に絡み合って、生きづらさを感じている人が大勢いることは確かです。思春期ならば、尚のこと。

時は進級進学シーズンを迎えます。若人の悩みが深くなる季節でもあります。でも、そんな時は「トライ&エラー」。ロボット掃除機だってやっているんですから、私たちがやれないことはない。

偉そうに言っているワタクシこそ、今年も「失敗」だらけでしょう。その時は「修正」して、また、のろのろと動き出せばいいや。所詮、ワタクシごときです。

やっぱ、ロクな相談所じゃありません……。

プロフィール
作家/教育&介護アドバイザー
鳥居 りんこ 氏


作家、教育&介護アドバイザー。実体験に基づいた『偏差値30からの中学受験シリーズ』(学研)が人気に。近著に『増補改訂版 親の介護をはじめたらお金の話で泣き見てばかり』(双葉社)、『女はいつも、どっかが痛い ~がんばらなくてもラクになれる自律神経整えレッスン~』(小学館)など。執筆・講演活動などを通じて、子育てや受験、就活、介護に悩む女性たちを応援している。
■note「湘南オバちゃんクラブ」 https://note.com/torinko


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