掲載:塾ジャーナル2022年5月号

『国語はどうしたら伸びるの?』――困った現状を幾つか

仲国語ゼミ 塾長 仲 光雄


生徒数二~三〇人ほどの国語塾をしている。対象は、高校生・浪人生で、年によって学力層に違いがある。昨年度はいつになく、国語力の低い生徒が目立った。それでも、国公立・有名私大に半数くらいの生徒が合格したのだから、ありがたい。

しかし、ここ数年私にとって、塾生たちの国語に対する取り組み・姿勢が、何か不満なのである。今月号は、そのあたりを書いてみようと思う。

のろのろ、ナメクジ・ミミズ型

ある女子生徒である。テスト問題を配付すると、鉛筆を取りだし、本文の横にゆっくりと線を引きながら読み進めていく。そんなに速くない。目で追って読むスピードよりずっと遅い。「いつもそうしているの?」と尋ねると、小学校以来、文章をなぞりながら読む癖がついて、今もずっとそうしているという。当人は「ナメクジ型」といって、自分の読んだ後が残っているのが気持ちいいらしい。

実は別の生徒もそれに近い読み方をしていることを知った。こちらは古文で、横棒を引きながら区切りを付けて読んでいる。単語に切りながら読み進めているのかと思ったが、そうでもないらしく、気が向いたところに横棒を入れているという。

とにかく、文字を目で追いながらまとまりをつくって中身を捉えるという作業が出来ない子たちの典型である。

これは困った。何せ、近年の大学入試問題の文章は長い。共通テスト第一問の評論は、選択肢を合わせて文字数が六〇〇〇字を優に超える。早く「ナメクジ型」はやめさせ、まとまりで文章をおさえる読みをさせたい。

僕は「キーワード」一本勝負

そうかと思うと、問題本文を丁寧に読まない生徒がいる。本人は「キーワード」を拾いながら文章を読解する方法だと得意げであるが、何とも危うい。

彼の説明によると、不思議にも何となく「キーワード」がひらめくのだという。前文に「この文章は、〇〇について書かれている」とあるなら、その○○が「キーワード」。また、本文中で何度も繰り返して用いられている用語も「キーワード」。どこかで見たことがあるが、よく意味のわからない重要そうな感じのする言葉も「キーワード」なのだという。

そして、これがキーワードらしいと目星を付けたら、前後は飛ばして流し読みするわけだ。「ナメクジ型」の反対だから、読む(?)のも速いし、解く(?)のも速い。

私が、「いつもそんなにうまくキーワードが見つからないだろう」というと、そこはさばさばしたものである。「だから、先生も知っているように僕の国語の成績には、当たりはずれがあるんだよ」「キーワードが見つからない時は、運が悪かったと諦めるさ」と。

この「キーワード君」は、頭がいいのか、判断力がいいのか、マーク式の模試などでは、結構いい成績を取っている。国語の力を伸ばしてやるという点からすれば、なかなか方法が見つからない困った生徒ではある。

「先生は線を引かせる人」だよ

ここからは、話題が変わる。

ある生徒が、「仲先生は、重要な部分に線を引きなさいと言いませんね」と言った。最初、何を言おうとしているのかよくわからなかったので、もう一度説明を丁寧に繰り返そうとしたが、どうもそういうことではないらしい。

詳しく聞いてみると、小学校以来、通っていた塾の国語の授業では、「重要なところを言いますから、鉛筆を持って線を引いてください」という先生の声で授業が始まったという。あらかじめ宿題として文章を読ませてくる方式だったのか、突然ポイントをおさえて内容を印象づける教え方だったかはわからないが、私には違和感がある。

その生徒によると、「その方がよくわかるし、すかっとして気持ちいいもの」「なんせごちゃごちゃ考えなくていいんだもの」という。

そこが問題なのである。自分の頭で重要な箇所・表現を理解し、全体の内容を自分の力でまとめる訓練が国語であるという発想が抜け落ちているからである。

「国語とは、先生の読みを教えてもらうもの」と思うようになり、「この場面の主人公の気持ちはこうです」という押しつけに違和感を持たない生徒がますます多くなりそうだ。国語が「先生の答待ち」を生み出す教科となったら困ったものだと思う。

「消去法一点張り」の強さ

現代文のマーク式の問題は、正しいものを一つ選べという形式だから、他の間違いを消していけば、最後に正解が残る。生徒の中には、この「消去法」のうまい奴がいる。

「消去法のベテラン」によると、「何か違う」「何か嘘っぽい」というのを見極められるのだという。特に「本当らしく見せようと一生懸命頑張っている選択肢は嘘」という技が身に付けられるようになったら、残り二つにまでは行きつくらしい。だから、この「消去法君」の国語の点数がそう悪くはない。邪道ではあるが。

ここで、国語のプロとして、選択肢をつくるときの種明かしをしよう。

①本文中の「キーワード」をわざと避けて、内容は同じだが表現の少し違うものを使う(これが正解)
②一見「キーワード」に似ているが、本質的に内容の違う用語をひそませて誤答とする。
③本文の主旨とは正反対の誤答をつくり上げる。意外と生徒が飛びつく。
④解答の要素が複数必要なのに、一つだけでごまかしている。
⑤本文には書いてあるが、問われていることとずれている。これに気をつけないと危ない。

こんな説明をすると、受験生は喜んでくれる。うまい方法があるもんだと。しかし、私は「国語の読解方法」「国語力の伸ばし方」の役には立たないと思い、普段の授業では封印している。

古文お手上げの第一の段階

話題を古文に移そう。母集団の小さい塾ではあるが、塾生の古文の出来具合は、現代文以上に「差」がある。

大変なのは、高校一年生の半ばを過ぎても、古典文法が全く身に付いていない生徒がかなりの人数いることだ。中高一貫制の学校を除いて、多くの高校は「一学期の中間考査で動詞、期末考査で助動詞」と進んでいくのが普通かと思うのだが、時間不足もあり、「古典文法」がものすごく駆け足だ。

ちょっともたつくと急に全体が理解不可能となる困った分野なので、ゆっくり練習問題なども加えて納得できるまで繰り返してやるのが私の所のような塾の役割なのだろうが、なかなか「古典文法」だけでは生徒も親御さんもついてきてくれない。

ところで、来年度から高等学校学習指導要領が変わり、国語の必修科目は、「現代の国語」と「言語文化」に再編される。高校一年生の多くは、評論文などの論理的・実用的な文章を扱う「現代の国語」が二時間、古文~現代文の文学作品を扱う「言語文化」が二時間といったカリキュラムとなりそうである。二、三年生には「文学」や「古典」を扱う選択科目もあるが、できれば「文法」は高一の間に済ませておきたいということになり、ますます「古典文法」にしわ寄せが来そうである。

何とか踏みとどまる第二段階

「古典文法」と「古文単語」をある程度乗り越えた生徒たちを第二グループとしよう。多くは勉強熱心な生真面目な生徒たちである。これは生徒の努力か、学校の鍛え方なのかはわからないが、よしとしたい。

模擬テストなどで、問題本文の内容理解がさっぱりでも、この分野だけは、点数を稼ぐことができるからだ。思いっきり褒めてやりはするが、本当の意味の古文力を付ける学習は、ここから始まる。

①登場人物・場面・出来事をおさえる。
②人物の心情・話の主題をおさえる。
③古典常識・和歌修辞に注意する。

しなければならないことはいっぱいある。ただ、生徒たちにはそう時間的余裕もなさそうだ。

古典の世界がなぜわかるの?

学習指導要領の解説によれば、「古代から現代までの各時代にわたって、表現し、受容されてきた多様な言語芸術や芸能などを広く理解する」のが古文読解・文学理解の目的らしいが、文法も単語も不十分な中で、こうした高尚な目標に到達するのは所詮無理がある。せめて「文法」だけでもきっちり身に付けさせてやりたい。

「古典文法」にも「古文」にもついていけない三つ目のグループの生徒たちがいる。古文の中の、何とか目に付いたそれらしい言葉をうまくつなぎ合わせて、想像の世界をでっちあげ、二つか三つの選択肢問題を正解するという感じでしか古文につきあえない生徒たちである。いずれは、高校生全体の多くがここに入って来るのではないかと思うと情けない。

模試を何回か受けるうちに、「僕は古文ダメ」「古文を捨てて受験を」という感じになるのである。

今年の共通テストの古文の問題の難度を考えると、大学入試センターは受験生の学力差を広げることをむしろ奨励しているのではないかと恐れる。

プロフィール
仲国語ゼミ
塾長 仲 光雄 氏


京都大学文学部卒業。東大寺学園・奈良女子大学中等学校国語教諭を経て、河合塾講師(古文)をつとめた。現在は、仲国語ゼミで教えながら、中高生向けの国語関係の参考書・模試問題の執筆などの仕事をする。
■仲国語ゼミ  http://nakakokugozemi.com/


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