自分の目で見て、本物に触れる
体験型の海外研修からスタート
「今年でSGHの指定を受けて3年目となり、より組織的に、中・高の全教員でプロジェクトに取り組んでいこうという意識づけが強くなりました」と話すのは、中学部長の伊部敏之先生だ。
玉川学園は中高一貫で国際教育に取り組んでおり、年間300名近い生徒を海外へ派遣し、約350名の生徒を海外から受け入れている。海外研修は中2(8年生)からスタートし、英語でアクティビティを体験するカナダ研修、アメリカ発祥の地を巡るアメリカ東部研修、オバマ大統領の出身校であるハワイのプナホウ校への訪問研修などが用意されている。中3(9年生)から本格化するSGHプロジェクトの活動に入る前に、自分の目で世界を見ることで、学びたいテーマを明確にする狙いがある。この海外研修は希望制であり、昨年は85%の生徒が参加した。
生徒は海外の人たちとコミュニケーションを取る中で、自分の英語力不足を痛感するとともに、文化や社会情勢を目の当たりにする。この体験が英語をはじめ、学習全体へのモチベーションアップにつながっている。
「小学校での英語教育も進んでいることから、海外研修をはじめとする国際教育を中1(7年生)など、もっと早い段階で取り入れていきたいと考えています」と伊部中学部長は語る。
海外研修以外にも、日本にいながら世界を知ることができる機会として「グローバルキャリア講座」を開設。これはPKO(内閣府国際平和協力本部)など、世界の最前線で活躍している人たちから直接話を聞くもので、今年は約30講座を予定。昨年はジャーナリストの池上彰氏によるイスラム教についての講演も開かれた。生徒からは質問が続出し、予定終了時間を大幅に超えて活発な議論が交わされた。
こうした準備を経て、中3(9年生)から始まる課題研究では「貧困」「人権」「環境」「外交(リーダーシップ)」「国際協力」の5つの研究テーマから設定し、研究を進めていく。そこでは、グループワークやプレゼンテーション、ディスカッションを通して体験的に学習する「ワールド・スタディーズ」や、生徒が各国の外交代表となり、実際の国連と同じ方法で会議を行う「模擬国連」などのプログラムが用意されている。
さらに高1(10年生)から参加できる海外研修には、ボツワナと南アフリカを訪問して貧困・人権などについて学ぶ「アフリカン・スタディーズ」と、ベルギー、スイス、ポーランドなどを訪問して外交・環境などを学ぶ「ヨーロピアン・スタディーズ」がある。
「実際に現地に行ってみることで、生徒たちはこれまで抱いていた概念が崩れるような経験もしたようです。それが新しい研究課題にもつながっていきました。高校時代にこうした体験をできたことが素晴らしいと感じています」
SGHとの両輪だからこそ
SSHもグローバル
同校のSSH指定は今年2期9年目に突入。「数多くの研究発表の場を経験した生徒も増え、批判的思考力とデータに基づく立証という、研究者としての姿勢や意識がしっかりと身に付いてきたと感じています」と伊部中学部長は話す。
サンゴ研究や玉川大学脳科学研究所と連携した「リサーチ脳科学」といったプログラムの他、サイエンスクラブの活動も活発で、ハイレベルな研究発表会においても最優秀賞をはじめ、複数の賞を受賞している。大学とも連携し、中1(7年生)から6年間かけてじっくりと研究に取り組む玉川学園ならではの取り組みが成果に結びついている。
同校では、SSHも国際教育の一環として捉え、実験結果を英語で発表できるよう「理科英語表現」にも注力している。
「今年4月には2008年にノーベル物理学賞を受賞した益川敏英先生とインド、ベトナム、カンボジア、ラオスの高校生約125名を招き、先生の講演と同世代との交流を行うイベントを開催しました。一流の研究者の話はもちろん、海外の高校生と科学技術の分野で交流できたことは大きな刺激となったようです」
こうしたイベントは将来の目標を明確にし、大学での学び方を意識することにつながっている。
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進学実績アップで生徒数も増加
注目される国際バカロレア
同校のもう一つの大きな特徴は、国際標準の教育で、海外の大学への進学や国際社会に貢献する人材育成を目標とした、「国際バカロレア(IB)クラス」があることだ。国語と音楽、体育以外の授業はすべて英語で行われ、中1〜高1(7〜10年生)時のMYP(Middle Years Programme)を経て、高2〜高3(11〜12年生)でDP(Diploma Programme)を行う中高一貫のカリキュラムが行われている。
IBクラスは今年入学者が増え、2クラスになった。入学時の英語力は問わないこともあり、小学生のときからIBへの入学を目指す生徒も増えている。同時に帰国子女の途中入学者も増加。英語が得意な反面、日本語に自信がないという生徒にも丁寧にサポートしている。加えて、日本の学習指導要領にも対応しており、国内大学への進学も選択肢に加えられる点が選ばれている大きな理由だ。
IBクラスは生徒に探究させる授業、まさにアクティブ・ラーニングが実践されている。生徒たちが互いに刺激を与えながら学ぶだけでなく、その指導法や評価法などが一般クラスの教員にも参考になる点が多いという。
「玉川学園は勉強を押し付けることはしません。子どもたちが能動的、主体的に学べるようなさまざまな仕組みを用意し、6年間じっくりと時間をかけて育てていく教育方針はSGH、SSH、IBも同じです。ぜひ、学校に来てよく見ていただき、それに共感してもらえたらと思っています」と伊部中学部長は話している。
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