日本列島内
序列主義社会はもはや通用しない
満杯の会場で河合校長は「なんでこんなに大勢の方が来ているのか、皆さん驚いていらっしゃるでしょう。今からその理由を話しますよ」と参加者のはやる心を落ち着かせるために、異例の挨拶をした。
駒込の説明会では、日本の教育情勢や世界の教育情勢を発信し、私学人として真剣に考え、取り組んでいることを伝えている。国際的学力観のPISAとは? 大学入試の動きは?など、受験生やその保護者たちの疑問は枚挙に暇がないからだ。今年、「グローバル化時代」というフレーズに反応した親たちが、認識を深めるために駒込に参集したのは当然のことであろう。なぜなら同校では、グローバル化に即応した学校改革をいち早く推進していたからだ。
「グローバル化とは多国籍化でもあります。日本の大学生の就職氷河期時代が続いていますが、その背景に多国籍化があるのです。最大手企業パナソニックの新規採用社員は8割が外国籍の学生であり、日本人の学生は2割に過ぎない。大学名で採用するのではなく、実力主義の結果がこうなったのです。大学生にも生じています。早稲田のIT研究室の大学院合格者は15人中14人が外国籍の学生で、日本人はたったの1人です。国の少子化対策として、アジアからの留学生10万人の受け入れ政策が始まっているからです。皆さんが直面する時代は“多国籍化社会”なのです」
さらに「グローバル化時代(多国籍化社会)になり、皆さんが直面するのは日本列島内、序列主義社会(その指標が偏差値)がもはや通用しなくなるのです」。
実は昨年の説明会でも河合校長は受験生に「なりたい自分になること。この自己決定権が自由の本質です。これを手放したとき、君の青春は終わります」と語っている。いずれも琴線に触れたことは間違いないであろう。
多国籍社会でリーダーシップの
発揮できる人材に
結びでは「都立を受けてもいいんです。私立を受けてもいいんです。でも、すべて自分の第1志望校にするという意識を持たないとダメです。すべり止めや二番手だといって序列主義で生きているから、いつまでたっても優劣意識から逃れられない。自分より優れた者は必ずいるし、劣った者も必ずいます。ほどほどのところで満足することをやっているから、方向転換ができないのです。そこから価値観を変えるということです」河合校長の激白である。
駒込学園は、330余年という古き良き時代の伝統が今に残るリベラルな校風の学園であり、比叡山天台宗の教えをもとに、「心に機軸を持たせる教育」を実践している。一方で、時代とともにニーズに応じた大胆な学校改革を進めてきた学校でもある。ご存じのように第二次安倍政権になり、文部科学省はグローバル人材の育成をはじめ、多種多様の教育政策を打ち出している。しかし、駒込ではすでにそれらに取り組んできているのである。時代を先取りした教育こそが少数派・駒込といわれるゆえんである。
仏教主義に基づく情操教育
駒込学園では時期に応じて仏教行事を行っている。9月10日には中学生全員が勧学ホールに集まり、「彼岸会」を行った。
壇上の仏様に全員が合掌後、生徒代表の3人が献灯・献花・献香。5月の了翁会では戸惑いのあった中1生も、その後の坐禅・黙想も自然と身に付いてきた。静寂の時間が終わると、河合校長の講話が始まる。テーマは「地獄とは何か」。配布された資料には地獄絵もあり、生徒たちの愕きの表情が印象的だった。
講話は「なぜ、お彼岸にお墓参りをするのか」から始まり、仏教での「あの世観」、そして命の大切さを諭した。
「亡くなった人は三途の川を渡ります。7日おきに2番目の初江王庁から始まり、五官王庁、閻魔王庁、泰山王庁を次々と回ります。このうち一番怖いのが閻魔王庁です。閻魔王庁には浄玻璃の鏡があり、生前の行いがすべて映っています。嘘がつけない鏡なのです。この『閻魔様』の本当の姿が実はあの優しい『地蔵菩薩様』だったのです。泣いている子どもたちを優しく救い取った御地蔵さまと、いじめをした人間を厳しくさばく『閻魔様』は実は『同一神』だったのです」(中略)「仏教ではこのように地獄・極楽思想を語ることで人間が罪を犯さないように教え諭してきたのです。追善供養をすることで、ご先祖さまを救うだけでなく、ご先祖さまから引き継いだ自分の命を大切に守り育てることの大切さを教えてきたのです」
彼岸会の終了後は、学校周辺のごみ拾いを整美委員やボランティア希望者で行った(布施とは本来「善い行い」を積むことで、お金を渡すだけではない。周りの人に明るい気持ち与えることも立派なお布施である)。 |
河合校長に聞く
有為な若者の集う学び舎を
── 日本の今をどのように捉えているのでしょう。
河合 時代はInformation On Demandの時代を迎えています。メディアネットワークシステムが世界を席捲し「情報を征するものが世界を征する」という時代を迎えているのです。
── 人とのつながりは希薄になる。
河合 人と人との関係性も瞬時にトランスフォーメイド、あるいはファンダメンタルチェンジされてしまう時代に遭遇しています。
── そのような時代の教育は。
河合 だからこそ、本校は1200年の歴史を数える比叡山研修を導入し、同時にイマ―ジョン授業・国際理解教育を展開し、温故知新の学校改革を推進しているのです。IT時代対応の「新しい学力観」すなわち「知るとはできること」を行動原理として、授業展開していきます。
── 具体的に言うと。
河合 経済協力開発機構(OECD)が行っているPISAを視野に入れた「読解力」「数学リテラシー」「科学リテラシー」の学力を図っていきます。
── その他の対応策は。
河合 平行してメディアを利用した「反転授業」の新たな取り組みを研究開発しながら、進めていきます。大学進学実績はこれらの取り組みの結果であって、それ自体が自己目的ではありません。
── 駒込に期待をされているご家庭に対して。
河合 本校を選んでいただくご家庭とは、30年後の日本と己が立ち位置とを俯瞰できるご家庭の子弟にお出でいただきたいと考えています。他国籍化社会にリーダーシップを発揮できる「有為な若者の集う学び舎」を作り上げてまいります。
── 最後に慈悲の極みとは…。
河合
おばあちゃん!
なあに?
何で僕が遊んでいても叱らないの?
子供はね、みんな「良く遊び良く学べ」ですよ!
あなたは学校にも塾にも行ってよく学んでいるでしょ。
おうちでは伸び伸びと遊べば良いのよ。
おばあちゃんてやさしいね どうして?
それはねぼうや、あなたの時間を生きたから…
|