仲間と共に成長できる体験学習
大阪にある単位制・通信制高等学校の「YMCA学院高等学校」のサポート校として、昨年12月に開校した「東京YMCA高等学院」。
通常はJR高田馬場駅から徒歩7分の「東京YMCA」内の教室を使って授業をしているが、学びのフィールドは教室を飛び出して、大きく外に広がっている。
「YMCAの特色の1つは体験学習です。キャンプやスキー等をボランティアリーダーや仲間と一緒に体験することはもちろん、教室での学習もなるべく体験的に学べるような教育を目指しています」と学院長の井口真先生。
東京YMCAは日本国内に3つのキャンプ場を持っており、様々な野外活動を行っている。同校でも夏にキャンプを行う他、冬にはスキー教室も予定されている。
「YMCAの体験活動の特色は、“仲間とともに”ということです。たとえばスキーといっても一人で練習するのではなく、同じレベルの少人数グループをつくり、お互いに励まし合いながら練習して行きます。個人種目であっても仲間と一緒に乗り越える。そんな体験ができるのが本校の特色だと思います」と井口先生。
豊かな自然の中、仲間と共に過ごした経験は一生の思い出。将来何か大変なことに出合っても、その時の思い出に励まされる。そんな全人的な成長を願う思いが体験学習には込められている。
3月には「高尾の森わくわくビレッジ」で宿泊学習に行った。キャンプソングを歌ったり、互いのニックネームをいいながら、風船を打ち合うゲームをしたり…。入学後、初めての宿泊行事として生徒同士の親睦を深めることができた。
井口先生は様々なバックボーンを持って入学してくる生徒に、体験学習はとても有効だと考えている。
「本来、子どもは遊びの中でさまざまなことを学びます。しかし、いじめを受けたり、発達障がいのある子どもは、どうしても友達と遊んだ経験が乏しくなりがちで、結果、体験することが不足しています。自信が持てなくなり『どうせ僕はできないから』と引っ込み思案になってしまったり、遊びの途中で喧嘩になってしまったりして、遊びを最後まで体験できないことが多いのです。でもここでは、一人ひとりの事情や状況に配慮して学校生活を進めるので、いろいろなことを最後まで味わうことができます。そのようなことから、誰が何を教え込まなくても、自分で感じ、学んでいくことが出来ると思います」。
世界を学ぶ「多文化共生」
YMCA学院高等学校では必修科目の他に多彩な選択科目がある。その真骨頂と言えるのが「多文化共生」の授業だ。これは世界の様々な文化を学ぶもので、世界119ヶ国の国と地域に5,800万人もの会員を持つネットワークを活かして授業を行っている。
この授業を担当するのは元国連難民高等弁務官事務所職員の淺羽俊一郎さん。6月には災害や国際紛争で被害を受けた人々の支援を行う「JEN(Japan Emergency NGO)」の事務所をたずね、難民問題について学んだ。
他にもYMCAの行事とリンクし、学校外の人々と交流できる行事も数多く用意。海外から日本語を学ぶために来日している留学生との「ソフトボール大会」、子どもから大人までYMCAの会員で作り上げる「バザー」等、学校の枠を超えた出会いが待っている。 |
生徒と一緒に生きていく
同校は週3〜5日通学の「カラフルプラン」と、週1日か2日を選べる「フレックスプラン」の2つの学習スタイルがある。当初、半々だった生徒の割合が今では全員「カラフルプラン」に。生徒からは「学校が楽しい」「先生と生徒の距離が近い」という声の他、保護者から「家で子どもが明るくなった」という声も寄せられている。
「あなたはあなたでいるだけで価値のある存在。ここに来たら、ありのままの自分を受け止めてもらえるという安心感を持ってもらえたらと思います。本校の根本にあるのは、『一緒に生きる』ということ。どんな生徒が来ても、その生徒のことを理解しようと努力し、受け止める。高校の3年間はその先の将来の道筋を決めていく大事な時期です。ひとり一人の生徒、そしてご家庭と出会い、『一緒に生きていくからね』と励ましていける学校につくりあげていきたいと思っています」
同校は前期・後期に分けて学習指導料を納入することになっているが、月毎にプランを変えることもでき、差額があれば返却してくれる。「これまでに何度も転編入を繰り返している生徒もいます。優しい子が多く、これ以上親に負担をかけたくないと心を痛めています。経済的な負担とともに、生徒の気持ちも楽にしてあげたいと考えています」と井口先生は話している。
※孟母三遷 列女伝母儀出展の故事。日常において目に耳にするなんでもないことの積み重ねが習慣となって成長の要因になる喩えから、教育には環境が大切であるという教え。
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