生徒から甘えが消えた!
学校の使命は「教育の提供」
3月11日の震災後、東北工業大学高等学校の対応は迅速だった。電気復旧後の3日間で生徒の安否確認をすべて終了。創立50周年事業の一環として整備中だった運動場工事は中断したものの、従事していた建築技術者をそのまま校舎復旧に移行してもらうように依頼。いち早く学校再開へと動き出した。
「震災後は常に互いの作業の進捗状況を確認しながら、教職員一丸となって復旧作業に臨みました」と久力誠校長。震災を通して、組織として脆弱(ぜいじゃく)な面もあった教職員のつながりが堅固になったのを感じている。
また、3月24日に終業式を実施することも早期に決定。
「宮城県では、多くの生徒や児童が学校に行けない状態にありました。もちろん本校にも深刻な被災生徒がおりますが、7〜8割の生徒はほぼ無事。とにかく生徒に学校に来てほしかった。本校から教育難民を出したくなかったのです」と久力校長。この呼びかけに対し、公共交通機関が復旧していなかったにもかかわらず、85%の生徒が終業式に出席した。これまでにない真剣な式になり、久力校長はそこで「4月7日の入学式、そして始業式には絶対また会おう」と生徒と誓い合った。
そして迎えた4月7日の入学式には、全入学生、保護者が出席。「これが本校の生徒なのかと思うほど真摯な態度」だったと話す久力校長は「震災が今までにいかに自分が甘えていたか、考えるキッカケになったのでしょう。『私たち助かった人間は何かしなくてはいけないのではないか』という意識を持ったことで、成長したのだと思います」と語る。
今回の震災で久力校長は、「教育を提供することが学校の使命」ということを強く再確認した。
「宮城県は死者・行方不明者含めて、1万5千人近い人材を失いました。これは貴い命だけでなく、その人の知恵、技術、そして文化も失ったことになります。それを補うのは人しかないのです。我々学校は目先のことにとらわれず、10年、20年先を考えて人を育てていかなくてはと使命を感じています」
科学技術立国「日本」を
支える多彩な人材を育成
平成25年度に校名も変更し、新しくスタートを切る同校。科学技術立国「日本」を支える人材育成をより明確に打ち出し、学科もこれまでの「普通科」「電子科」から「特進科(仮称)」「科学技術科」「探究科」に変更。同時に東北工業大学との結びつきも強化する方針だ。
「特進科」では、日本トップクラスの研究者や技術者等のリーダー的人材の育成を目指す。「科学技術科」では、従来の電子科の殻を破り、「メカトロニクス」「情報デザイン」等、東北工業大学の学科と対応するコースを設定。大学との接続で7年間、さらには大学院を含めた9年間の教育を念頭においている。「探究科」は普通科をベースに理系・文系の学習内容をバランスよく学んでいく。
久力校長は「科学技術と言うと、『苦手だな』と思う生徒もいるかもしれません。しかし、科学はものの道理であり、現代では科学を抜きにした生活は考えられなくなっています。自然保護を例にしても、科学の力は不可欠。しかし、それだけでは不十分で、問題解決の力、人にものを伝える力も必要になります。科学技術の発展には、研究者・技術者以外の周りから支える人の役割が重要なのです」と語る。
こうした多彩な人材育成のため、「科学技術科」では「科学技術研究」、「探究科」では「探究学習」という学校設定科目が設けられている。これは大学の講師の講義を受けた後、グループごとにテーマを決め、深く掘り下げていく学習だ。最後には研究発表も行う。ユニークなのは「探究学習」のテーマは科学にこだわらず、文学や歴史、芸術など自由に設定できること。国際理解教育については、今年中に教師研修を行う予定で、新校への移行が軌道に乗った後は、スーパーサイエンスハイスクールにも取り組んでいきたい考えだ。 |
公私の学校間で教員交流
来年、入試方法も一新
宮城県では2010年度から公立と私立の間で教員を1年間交換する「公私間教員交流」が行われている。同校でも昨年工業科の公立教員が着任。教員間の刺激になったのはもちろん、授業で製作したLEDを使用したオブジェ「きらめきボード」は県の環境政策課から注目され、県庁での展示会では即完売。各地のイベントにも呼ばれた。公立校に赴任して戻ってきた同校の教師も、新たな気持ちで生徒と向き合えるようになった。公私間教員交流は今年度も行われている。
こうした学校改革が保護者や中学生に認められ、今年、特進クラスに入学した生徒の偏差値は大幅にアップ。3年生には英語の模試で200満点中192点をマークする生徒もおり、初の東大受験生誕生が期待されている。
さらに同校では、来年度から受験方法を変更する。推薦入試は併願も可能な自己推薦奨学生入試を新設し、適性検査は地元公立トップ校を越えるレベルの問題にする予定。また一般入試は、今まで2割だった記述問題を5割にし、応用問題の割合も増やす。二次試験は今年から面接に加えて3教科の試験を実施したが、これは来年度も踏襲していく。
「東北工業大学高等学校は新しく生まれ変わります。中学生に向けて、私たちが提供するのは『本物の教育です』と強くメッセージを送り続けたいと思っています」と久力校長。今年、進路指導に実績のある公立高校の教員も迎えた。また、今春の国立大学合格者は12人と2ケタに乗せることができた。今後の躍進に大きな期待が寄せられている。
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