新校舎が包みこみ、応える
「個」のスタイルとニーズ
2011年1月、共立女子第二中学校・高等学校は、改築された待望の新校舎へ移転、新たなスタートを切った。2007年まで共立女子大学と併用していた八王子キャンパスを専有し、5つの元大学施設が、中学校・高等学校の校舎へとリニューアル。緑豊かな広大なキャンパスの中央にある1号館は、中1から高2のHR教室が入った同校の中心棟だ。少人数授業などフレキシブルに対応できる小教室7室、最新機器を備えたPC教室、英語の本に囲まれた英会話広場などを設置。各階にあるオープンスペースは、相談や質問の場、生徒たちの憩いの場となっている。
「教室が"個"で勉強する場なら、オープンスペースはコミュニケーションの場。でも、読書をしたい生徒には、窓側を向いた席もある。一人の世界を作ることも大事なことです。生徒が望むスタイルでいられる場所が作れるように、机の配置などを工夫しました」と教務部主任。女子校ならではのリフレッシュ、またリセット空間としての機能が期待されている。
改築するからには、その設計図には「未来の共立第二」の姿を描かなくてはならない、と教務部主任は語る。必然的に、学校目標の再設定が行われた。たどり着いた解答は、「女子校である」こと。また、生徒が1日の大半を過ごす学校は、「家庭と同じく居心地の良い場所であるべき」ということ。インフラもこれらの観点から整備された。生徒たちが勉強する場である以外に、それぞれが望むスタイルで存在できる場所作りに、とことんこだわった。
「大学進学実績など、学校には"組織のニーズ"に合った子どもを作り上げようとする側面がどうしてもあります。でも、学校は"個"の集合体。"個のニーズ"に学校が応えて、生徒の自発的な意志と行動から生まれてくる実績こそ、学校本来の評価だと思うんです」と、教務部主任は力を込める。
教員の覚悟と情熱が見える
ガラス張りの職員室へ
高3のHR教室は、中庭を挟んだ向かい側の4号館に集約。同館にはキャレルデスクや赤本棚などを設置した自習スペースを置き、静かな環境で受験勉強に集中できる環境を整えた。
特別授業を行う7号館は、大学レベルの充実度だ。266名収容の大講義室には2つのスクリーン、3つの教科演習室には電子黒板を設置。4階は芸術系教室、3階は生物室と物理室、2つの化学室があり、専門的な実習への備えも万全だ。また2階には家庭科系実習教室とランチコーナーが設置されている。
職員室をすべてガラス張りにしたのは、オフィス改革のひとつ。教員の行動がすべて生徒から見える形にし、職員室という空間を開放する意図があると、教務部主任は説明する。
「逆から言えば、生徒たちの動きを全教員が見ることができる。生徒から仕事ぶりを見られることに抵抗がないわけではないですが、今では教員の机の上は整理されて何もない。『誰に見られても良い』状態になっていきました。また職員室への来客者の入室を禁止にしており、個人情報保護の面からも、あるべきオフィスの姿だと思います」
生徒の職員室への入室は禁止されており、生徒に呼ばれたら、席を立って、自ら生徒の元へ「教員のほうから動く」。小さな行動にも意識改革は始まっている。 |
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身体の内側から「食育」を
多面的教育は「針路」へと
施設のリニューアルは必然的に、大規模な教育内容の刷新を伴う。「それこそ授業の改革です」と教務部主任。
広々とした本格的な調理室と試食室は大学家政学部の置き土産。この大学仕様の設備を存分に生かしたのが同校の「食育」だ。心身の健やかな成長に不可欠な「食」に向き合い、身体の内面から、生徒の成長を育んでいく。食生活が豊かすぎて、好物だけに偏ったり、簡易的に食事を済ませる傾向が生徒にも見られる。「成長のために、いま本当に必要な栄養素や栄養価を学んでほしい」という願いから、厨房とランチコーナーの新設を機に、毎日2クラスずつ給食を実施し始めた。企業提携のもと提供される栄養バランスの良い、旬の食材を使った食事は「教育のひとつ」として無償。生徒は管理栄養士の講義を受けながら、「食」にかかわる知識やマナー、社会情勢を学ぶ。生徒の母親たちにも好評で、「家庭の食育」へと、広がりを見せているという。
「本来、教育は多面的に行うべきもの。生徒の興味関心の持ち方も一様ではない。いろいろなものが提供できる学園環境が整った今こそ、この環境を最大限に使って、指導する側にも多面的な指導が求められています」
学習指導面での改革では、主要科目は朝の10分間テスト、単元終了ごとの単元確認テストを今年度から導入。その結果は生徒の進路指導に生かされる。同校の「進路」は「針路」と表記する。自分が進む道を探し、方向を定めて進む、の意味から「針路」を用いている。
「大学合格という目先の目的に到達すればいいのではなく、社会人として生きていくために必要なものは何か、また何を求めて生きていくのか。そんな大海原を進むための『針路』を見つけてほしい。学校側の押し付けでなく、自らの興味関心から得た経験や知識は、人生を生きる羅針盤になるはずです」
水先案内人としての、教員たちの情熱と底力が試されている。
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