推薦入学制度を大幅拡充
横須賀学院は横須賀新港沿いの三笠公園に隣接し、校舎の窓から青く広がる海と猿島が一望できる。かつてここには海軍機関学校があった。戦後の1947年、跡地に青山学院が横須賀分校専門部と第二高等部を開設。しかし、戦禍を受けた渋谷キャンパスの復興に追われ、横須賀分校の維持が困難となり、2年後には撤退を余儀なくされる。そこで地元の教会関係者らが協力して新たに立ち上げたのが「横須賀学院」である。
その後も横須賀学院と青山学院の人的交流は続き、2002年には元青山学院大学学長の國岡昭夫氏が横須賀学院理事長に就任した。2007年に青山学院大学相模原キャンパスと横須賀学院との高大連携を開始。今回の教育提携協定締結に至った。
教育提携は、「キリスト教教育の連続性」を目的とした包括提携という形で行われる。横須賀学院は小学校から高校まで最長12年間のキリスト教教育を行っている。鎗田謙一中学校副校長は、「『キリスト教教育を受けて成長した学生にキャンパスを支えてもらいたい』という青山学院の願いに応えていきたい」と話す。
提携内容は、「推薦入学制度の拡充」「連携授業の充実」「児童・生徒の交流」「教職員の交流と研修」を4つの柱とし、今後の協議で具体化されていく。
この中で推薦入学制度は、現高校3年生に関しては、既存の指定校推薦の枠を大幅拡大。次年度以降は「提携校推薦」として、独自の優遇措置が講じられる。これは指定校推薦とは異なり、大学での面接や試験を行わず、横須賀学院側の基準により選考するというものになる予定。中高6ヵ年一貫生と高校入学生のどちらにも適用される。ただし、2010年度以降、中学に入学する中高一貫生については、人数などを別途協議していく。
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大学の研究活動を高校で
教育提携の2番目の柱である「連携授業」は、今年から青山学院大学の全学部に広がった。すでに7月には、相模原キャンパスの理工学部や社会情報学部で3回の授業が行われた。9月からは、土曜日の午後を利用して、渋谷キャンパスの文系7学部で授業が予定されている。
さらに、中高一貫コースでは「高大接続ゼミ」を実施する。これは大学で行う研究活動と同様のもの。京都市立堀川高等学校の「探究」の授業をモデルとし、生徒がテーマごとに研究を進め、最終的に論文発表する。来年度中学校に入学してくる生徒が高校1年生になる2013年度から、2単位の必須授業として開始される予定。
高校1年次の前半で文献調査やディベート、プレゼンの仕方などを学んだ後、人文・社会・自然科学のいずれかのゼミ(10種類の予定)に入る。グループ単位で調査・研究・実験などを行い、2年次に各自のテーマを決めて研究に取り組む。堀川高校では、例えば、「バドミントンのシャトルの軌道解析」「粘菌の迷路実験」「パレスチナ問題」「日本人がカラオケを好む理由」等々、理系・文系ともにテーマはバラエティーに富んでいる。
横須賀学院の「高大接続ゼミ」では、青山学院大学の大学教授に、授業設計に関する顧問として、また大学院生にはティーチングアシスタントとして協力してもらうことを予定している。
このゼミの最大の目的は、「学習へのモチベーションアップ」にある。「今の子どもたちの多くは、何のために教科の勉強をしているかわからないまま大学へ進みます。しかし、ゼミの研究は学際的ですから、例えば社会調査でも数学の知識が必要です。生徒たちは自分の研究を進めるにしたがって、教科学習の重要性に気付きます」と鎗田副校長。実際に堀川高校の生徒はよく勉強し、進学実績が急上昇している。自発的な勉強ほど身に付くものはないからだ。
横須賀学院では当初、教育提携に伴い、中高一貫コースにおいても「選抜クラス」設置を検討していた。しかし、高大接続ゼミの必修化と合わせて、全クラス同じ国公立型カリキュラムを編成。バランスのとれた幅広い学力を養成する。
協力して学ぶA.L.T.
中高一貫コースは、1999年度より6ヵ年一貫カリキュラムを導入し、独自の取り組みを行っている。
そのひとつが放課後学習の充実だ。放課後学習には、指名制補習の「B.L.T.(Basic Learning Time)」と自主参加の「A.L.T.(Advanced Learning Time)」、さらに大学入試レベルまで対応可能な「インターネットによる個別講座」がある。
中でも、成績中間層の学力向上に大きな効果を上げているのが、A.L.T.だ。これは、中学生と高校1年生を対象に、火曜日を除く平日16時から19時まで行うプリント学習。生徒は各自の学習計画表にしたがってプリントを解いていく。いつでも参加できるので、部活動が終わって17時半から来る生徒も多い。平均して毎日60人ほどが参加している。
A.L.T.は、勉強の習慣づくりを目的として開始された。勉強する気はあるが、やり方がわからないという生徒によいきっかけとなり、成績を大きく伸ばしている。
「成功の鍵は自主運営です」と鎗田副校長。運営の中心はST(Student Teacher)と呼ばれる生徒たち。勉強ボランティアとして、教室の準備やプリントの採点など、先生役も務めている。参加者はプリントを解いていてわからないことがあれば、友達やST、あるいはティーチングアシスタントの大学生に尋ねる。
「互いに教え合いながら真剣に勉強しています。キリスト教の学校だからできることかもしれません」。
中高一貫コースのモットーは「共に生きる」。人の助けになることが美徳とされる道徳観が、A.L.T.の場でも生かされている。
中学校では他にも、「対立の解決を学ぶ『ユースコミュニケーション講座』」や体と心の安全を考える「食育」など、成長段階にふさわしい人間教育を行っている。
今回の青山学院との教育提携を機に、数々の新たな取り組みも始まる。魅力ある学校づくりへの期待値は高い。 |