「社会力」が身に付く考えさせる授業
京北中学校・高等学校が教育の原点としている哲学。それは難しいセオリーではなく、「ものを考え、行動する」ための基本だ。
「本校では自分の頭で考え、判断し、行動に移せる人間の育成を目指しています。世の中に出たときに役に立つ力。これを『社会力』と呼んでいます」と野中政廣副校長。
社会力をつけさせる方法として、中学校では総合学習の時間を利用。高等学校ではさまざまな科目の中で、それを踏まえた授業を展開している。
公民の授業では「裁判所見学」を実施。模擬裁判ではなく、本物の裁判を傍聴する。
「人の人生を左右する場面に立ち会うわけですから、生徒は相当インパクトを受けます。見学後は、自分の生き方を真剣に考えるようになります」
また、日々の授業の中でも、社会力を養う場面がたくさん用意されている。野中副校長は英語の教員でもあり、テストの直前の授業では白紙を生徒に配る。英語教員になったつもりで、明日からの試験問題を作らせるためだ。
「英語に興味を持ってもらうためのキッカケではありますが、本当のねらいは3つ。私が意図する問題が考えられるということは、@授業がよく聞けている、A話のポイントをつかんでいる、B理解したことを表現できる、ということ。これこそが社会に出て仕事をするときに求められる『社会力』です。つまり、英語の授業を通して、社会力を学んでいるわけです」と野中副校長。
このように各教員が授業の中で工夫をし、生徒に考えるチャンスを随所に与えている。
部活動を思い切り楽しみ希望大学に進学
同校は、バスケット、体操、レスリング、剣道など、全国レベルで活躍する部活動も多い。高校の入部率は90〜95%。高3まで続ける生徒も8割以上いる。「短期間に何校も受験する大学受験は、ある意味体力勝負。体力をつける意味でも、部活動を勧めています」。
放課後には、残って勉強したい生徒のために教室を開放。教員も夜遅くまで残り、相談にあたる。他にも部活動後に勉強を見てほしい、というリクエストにも対応している。好きな部活が思い切りでき、勉強にも乗り遅れない。少人数制の京北だからできる強み、と野中副校長は語る。
しかも同校には、指定校推薦が92校、350名を超える枠があり、部活で全国を目指しつつ、ほぼ希望通りの大学進学が可能だ。こうした評判が広まり、在校生が後輩に京北入学を勧めるケースも少なくない。
文科系の活動も独特のものがある。図書館研究部は、地域の小学校や図書館、また神保町の書店と組み、一般の大人を対象にした「読み聞かせ」を行っている。この活動は文部科学大臣賞を受賞した。また、保健委員会の「保育園訪問」も、今では地域に欠かせない行事になっている。
「小さい子どもは興味がなければ、こちらを見てくれません。この活動はコミュニケーション能力を身に付けるのに大いに役立っていますね。中には保育園訪問を経験し、将来保育士になると決めた生徒もいました。自分の人生を考え、行動に移す。まさに本校の教育理念を実践してくれています」
野中副校長は、教育理念の浸透に手応えを感じている。
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新しい取り組みに大きな期待
東洋大学の創設者は京北学園と同じ井上円了。校舎も東洋大学と隣接しているが、付属校ではない。来年からは、これまで以上に教育提携を強めていく予定だ。また現在、高等学校には特別進学コースが設置されているが、来年度は中1からこれに準ずるクラスを設置する方向で検討している。中高の6年間を使い、難関大学に挑戦できる学力を身に付けさせるのが目的だ。
同校では理科の実験が多く取り入れられており、理系進学を目指している生徒も多い。理系クラス30人に対し、大学推薦枠は100名近くあり、「理系を目指すなら、京北へ」という流れが生まれつつある。この方針も大きく打ち出していく予定だ。
さらに系列校である白山高等学校で実績を上げている「プロジェクト・ベース学習」の手法の導入が予定されている。これは生徒自身が興味を持っていることを調べて発表するもの。白山では、これまで「ショパン」「祭り」「柔道」「気象予報士」「ブレイクダンス」など、さまざまなテーマが出された。これに対して、教員も生徒のサポーターとして調査を手伝う。担当には川合校長先生も例外ではないのがユニークだ。クラス、学年、校内と選考会を重ねて、最後は発表会も行う。日本でのプロジェクト・ベース学習の第一人者・千葉大学の上杉賢士教授や関係者を招待し、発表する。ここでのノウハウが多方面に発揮され、海外でのプレゼン発表につながった例もある。
「調査を通して、インターネットや図書館の利用方法を覚えられますし、『祭り』については、地域の方にインタビューするなど交流も図れます。また発表の際には、プレゼンテーション能力も必要とされますね。興味あることを突き詰めて調べ、相手の心に触れるように発表する。白山高等学校で培ったノウハウを本校でも活かしていきたいと考えています」と野中副校長。
来年度は次々と新しい取り組みがスタートする京北中学校・高等学校。これまで以上に注目が高まりそうだ。
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