高大連携で確かな進路保証
1960年の創立以来、信頼される職人づくりをモットーに教育実践を重ねてきた東北工業大学高等学校は、ここ数年、共学化、特進コースの設置、併設大学との高大連携プログラムの実施など、さまざまな改革を進めてきた。昨年就任した矢吹隆志校長は、まずはこれら改革の中身を積極的に広報する必要性を感じたという。「現在の本校を知ってもらうために、教職員全員で宮城県下の全中学校を回りました」と話す。
中学校の進路指導担当には、同校が国公立大学へ7人の合格者を出し、東北工業大学へは、有利な進学制度を通じて164人もが進学しているという近況を知らない者も少なくなかった。改革断行後は、従来の学校イメージ打破が重要であることは言うまでもないが、まさにそのための広報活動に本腰を入れたわけだ。
ところで、同校を併願受験した生徒のうち、公立高校に合格した者は通常公立に進学するわけだが、3年後、そうした生徒が東北工業大学を受験した時、合格するとは限らない。「本校からなら、希望すればほぼ間違いなく入学できる」という点を強調する矢吹校長。これが高大連携、併設大学の強みである。
生徒は在学中に同大学の授業を週1回の割合で受けることができ、その場合、高校で単位認定を受け、大学進学後も単位として認められるメリットがある。3年生は進路に直結する授業を受けることで、進学後に目指す学問とのミスマッチに悩むこともない。来年からは2年生を対象に大学の教員が出前講座を行うことが決まっており、高大連携は今後ますます進むとみられる。
加えて、同大学では昨年ライフデザイン学部が新設され、これまで理系の大学といったイメージが強かったものの、文系の進学先としても今後注目されるだろう。
地域が誇れる学校に
一人ひとりが輝ける学校に
朝8時15分。学校周辺の通学路に10人ほどの教員が立ち、自転車通学の生徒を見守る。その10分後には、校門前に全クラスの担任30人が立ち、生徒に挨拶を投げかける。実は、今年4月から始まった朝の風景である。矢吹校長は「通学態度に対する苦情を地域の方々から受け、一斉指導に乗り出した」と校門指導をはじめとする生活指導の充実について率直に話す。
「いいことばかり宣伝するのではなく、学校の実態を知っていただき、地域の苦情やご意見を受け止め、それに対応してこそ組織は信頼を得られると思っている。これからの学校は嘘をつかないことが一番」と公立校出身の校長らしく、地域に開かれた学校づくりを進める意欲を見せる。
その言葉通り、地域住民や学校関係者に対し、7月の数日間、学校の全面公開を行った。どの教科の授業もさまざまな設備を見て回るのも自由。校長室のドアまで全開にして、意見を聴く態勢で実施したという。約80人が参加し、「教職員は本当に緊張していた」と取材に応じてくれた中沢知之教諭はいう。これに対し、矢吹校長は「お金をかけず、小さな仕掛けで学校を変える有意な方法」と笑う。参加者からは、授業に対する厳しい指摘もあったが、「私学にあって、学校を公開する勇気に敬意を表する」という嬉しい声も受け止めることができた。
矢吹校長は、個性豊かな生徒が大勢集まる学校という場に、喧嘩やいじめが発生しないとは決して言わない。だが一方で、認め合い、悩みを受け止め合う関係があるのも学校だ。同校では、中学校で不登校を経験した生徒が、自分の居場所を見つけ、意欲を出して学び、優秀な成績で進学していくケースが珍しくない。
ある不登校経験者は、中学校時代に年間140日を超える欠席を数えたが、同校入学後は2〜3日の欠席のみで、成績も優秀だという。同様のケースを何例か紹介しながら矢吹校長は「蒲生干潟をご存じですか」と聞く。蒲生干潟とは渡り鳥が羽を休める場所のこと。
ちょうどその役割を果たす「学習センター」が同校にはある。教室に行くことができない生徒が一時的に退避する場所で、十分なカウンセリング体制もとられている。また、先輩が後輩の悩みを聞くピアサポーター制を導入することで、親や教職員に打ち明けにくいことも、大事に至らないうちに解決される方策がとられている。
「元気よく目立ちたい生徒は存分に目立てばいいのです。逆にひっそりと学校生活を送りたい生徒は、あるがままにひっそりとしていればいいのです」と生徒の持ち味を尊重する矢吹校長の姿勢に面倒見の良さがうかがえる。
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