一生の宝としての礼法教育
同校の建学の精神は、校名に由来する通り、聖徳太子の17条の憲法に謳われる「和を以って尊しとなす」がそれである。和とは調和であり、具体的には自己と他人との調和、人と自然の調和である。さらには、自己実現と社会との調和でもあり、いかなる関係においても互いに矛盾なく、安定した様を大切にする考えを重んじている。こうした調和のとれた人間こそ、相手の気持ちを推し測り、不愉快な思いをさせない行動をとることができる。だが、そのような品格は、一朝一夕には養うことできない。これを6年かけて、家庭とも連携しながら養っていこうとするのが同校の人間教育の特徴である。
そのため、中学から高校のすべての学年で週1回、小笠原流礼法を正課の授業として取り入れている。礼法は「なぜ、そのように振舞うのか」という作法の原理を理解させ、ひとつひとつの所作に相手に対する敬意を込める。「水は方円の器に随う」の言葉どおり、最高のマナーを身につけた者は、それを基本とし、時、所、場合に応じた振る舞いをとることができる、というのが小笠原流礼法の考え方である。
校長の川並芳純氏は「自利のみに生きることなく、他利を意識することがマナーであり、それをわきまえることが、その人自身を幸せにするのです。女性として著しい成長を遂げる中学、高校の6年間は、将来、命を育む女性にとって体を鍛える時期であり、また、社会で活躍するために、知力や人としてのあり方を身につける時期なのです」と礼法教育の意義を語る。
日本古来の年中行事や食事の作法、和服の着付けなどを通して、伝統文化を理解し、相手を大切にする心を形として表現していくが、学びの成果は中学生に「小笠原流礼法若紫の伝」が、高校生には「小笠原流礼法花鬘の伝」の許状が交付される。さらに上級試験に合格した生徒には「小笠原流礼法花鬘の正伝」が交付される。
こうした教育方針が保護者に理解され、生活全般において和の心が実践されるよう、同校では「保護者も一緒に入学する学校」として知られる。川並校長は「本校では保護者の部活も盛んに行われており、『礼法部』はその第1号として始まりました」と紹介する。学校が生徒に教える価値を保護者と共有することによって、一段と高い教育効果を上げているのだ。ちなみに保護者の部活動として、コーラス部や手芸部、父親の要望によって誕生したゴルフ部なども積極的に活動しているという。
週6日間の「会食」と
清掃活動で学ぶ“和の心”
礼法教育の一環として注目されているのが、全校生徒約1,000名と教職員が一堂に会して摂る昼食である。週6日間実施の完全給食で、聖徳大学栄養指導研究室が作成した献立をもとに、全員が同じメニューの食事をとるというもの。無論、カロリーや栄養量はバランスよく管理され、嗜好優先となりがちな食生活を正す目的も兼ねている。
「会食は単にお腹を満たすだけではなく、食事にふさわしい話題を選び、仲間と楽しみながら食べ、また、正しいマナーを習得する絶好の機会でもあるのです」と川並校長。そのため、会食用の食器はすべて有田焼が使用されており、箸は環境面を考慮して、各生徒が持参している。約20年前、学校給食で有田焼を使うことに、経済性の面から疑問視する声が外部にあった。だが、乱れた食生活が指摘される現在では、食育の観点から公立学校でもランチルームをつくるなど、追随の動きが見られるようになった。割れものに対しては相応の扱いをするため、同校の食堂で食器の割れる音を耳にすることはほとんどない。
修学旅行やスキー合宿の際も、宿泊先で提供される食事を残すことなく、また、後片付けも生徒たちの手によってスムーズに行われるという。これも“会食効果”といえるだろう。川並校長も日程が許す限り、各学年のテーブルを回って、会食をともにする。「学年や時節に応じた話題を投げかけ、コミュニケーションを楽しんでいます」と。教職員とともに囲む食卓は、礼節をわきまえながらも師弟間のフラットな雰囲気を醸し出しているのが特徴的だ。
また、クラスごとに楽しむ会食とは違い、1年生から6年生までの縦割りによって編成された「友和班」は、校内清掃や地域清掃活動に取り組む。1班が約10名の異年齢集団は、リーダー性を養い、校内の風通しをよくするという効果をあげている。友和班ごとに学校から近隣の駅までの清掃活動も行いながら、地域社会との調和を図っている。 |
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進路別カリキュラムを充実
9割の生徒が大学への現役合格を果たす同校だが、2007年度からはさらに志望大学への合格率をあげるため、新カリキュラムを採用する。
中高一貫コースで入学した中学1年生は、「選抜クラス(T・U)」と、「進学クラス(V)」に分かれ、基礎学力の充実に重点を置く。それぞれ異なるシラバスによって学習進度を調整し、確実に学習到達させるカリキュラムとなっている。中学3年生から「選抜クラス(T・U)」は国公立大を目指す「T類」と難関私大を目指す「U類」へ、「進学クラス(V)」はさらにそのほかの大学や聖徳大学への進学を目指す「V類」に分かれ、各クラスとも、応用、発展的な学習内容へ移行する。中学3年から、すべてのクラスが高校の音楽科に内部進学も可能である。
音楽科では、さらに細かく進路別に応じたコースがあり、作曲、声楽、ピアノ、管弦打楽器、電子オルガンの5コースを準備。音大付属校と同様のカリキュラムを設け、週13時間もの音楽専門授業が実施される。個別指導体制も万全で、世界的に活躍するオーケストラや演奏家を招いてのコンサート(全コース対象)も充実している。
高校3年生ではT類、U類ともに文系と理系に細分化され、志望大学に応じた選択演習授業が行われる。V類は聖徳大学へ進学するステップコースと、そのほかの大学へ進学するアドバンスに分かれ、ステップでは高校2年次から、アドバンスでは高校3年次から聖徳大学との連携授業を受けることができる。この間の履修は聖徳大学、同短大へ進学した際、単位認定される。
日常の学習以外にも各クラス、コース共通して英語検定、漢字検定、毛筆・硬筆検定、数学検定に多くの生徒が目標を掲げ挑戦しており、特に漢字検定の合格率は「優秀団体賞」を受賞するほど高く、毛筆・硬筆検定でも「全国優秀団体」として表彰を受けている。英語検定、数学検定でも高校卒業時までに2級合格を目指し、生徒たちは日々研鑽している。
着実丁寧な進学指導と、調和を重んじるさまざまな実践が、生徒の人間的成長を確かなものとし、結果として、一人ひとりの夢の実現を力強く支援している学校である。
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