伝統文化に学び
日々を豊かに
中学、高等学校から和洋女子大学、大学院までを擁する和洋学園は、その創立を1897年の和洋裁縫女学院にまでさかのぼる伝統校である。当時、ほとんどの民衆が洋服を身につけていない和裁全盛時代にあって、いち早く洋裁技術を教授した堀越千代学祖に先見の明があったことは言うまでもない。和服文化を重んじながら、優れたものは海外から積極的に取り入れようとする「和魂洋才」の建学の精神は、遥か一世紀の時を経て、同校に息づいているのである。
同校を訪れたのは春期休暇中であったが、クラブ活動や特別講習に参加するためか、校内には少なからず生徒の姿が見られた。挨拶の言葉をかけられ振り返ると、会釈して通り過ぎる生徒たち。無論、初対面である。初対面であるからこその挨拶なのだが、その振る舞いが実に自然ですがすがしく、印象的であった。
これには「和洋礼法」という礼儀作法を学ぶ授業が中学、高校ともに行われているところが大きいのだろう。日本ならではの美意識を体得するため、茶道をベースに礼法を学ぶのである。そのテキストに「形から入って心を学ぶ」とある通り、形が意味するところを学ぶことにより、相手に対する心配り、マナー、教養を身につけていく同校の特色ある授業のひとつである。
このほか、中高校とも全国的にも珍しく音楽の授業に邦楽を取り入れており、生徒は琴の奏楽に挑戦する。多くは初めて琴に向かうが、1年を過ぎる頃には譜面を見ながら新しい曲を奏でられるまでになる。単に奏楽にとどまらず、準備や後片付けを通して日本古来の楽器の持つ特性を理解し、琴という楽器を生んだ日本の風土的特質を学び取っていく。さらに、書写は中学、高校で、それぞれ1年ずつのカリキュラムが組まれるが、その内容は漢字、仮名、古典の臨書はもちろん、日常生活で書を生かすことができるよう実用書を習得するなど、幅広い内容となっている。毎年恒例の日本武道館での全日本書初め大展覧会・席書大会では、今年も団体賞、個人賞ともに輝かしい成績を残している点も注目に値する。このように同校では、日本文化の伝統的な良さを十二分に認識し、それを生活の中に活かし、心豊かに日々を送るための教育が実践されているのである。
その成果が生徒の表情や立ち居振る舞いとなって表れ、学園が大らかかつ伸びやかな印象であると高橋邦昌校長に伝えると、「きっと受験に直接関係のない授業(礼法や家庭科など)も十分に取り入れているためだと思います」という答えが返された。進学実績を上げることは無論重要であるが、それのみに走ることなく、人間教育とは何かを問い続けた百年の歩みが感じられるのである。
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立体的理解を生む
さまざまな海外研修
日本の伝統文化の良さを日々の教育に取り入れる一方で、世界の一流といわれる本物の文化に触れる教育方針もまた同校の特色といえる。国際人としての視野を広げ、語学を磨き、友好の輪を広げる、さまざまな海外研修制度は着実に和魂洋才を実践している。
高校では夏期休暇を利用してオーストラリアへ3週間の短期語学研修を実施している。研修先は姉妹校であるセントブリジッズ校、セントヒルダ校、サンタマリア校で、ホストファミリーとの生活の中で異文化に親しみ、コミュニケーション能力を養成。途中、小旅行やオペラ鑑賞なども体験しながら、実り多い3週間を送るのである。中学校でも春休みにロンドン訪問を8日間の日程で実施し、早期より異文化を体験する環境が整えられている。
また、タイ国でも王室ゆかりの名門校ラチニーボン校と姉妹提携しており、同年代同士の交流に重要な役割を果たしている。「英語圏の国々だけでなく、アジアから日本を見ることも大切です。タイ王室は日本の皇室と近いものがあり、両国民の感情としても平穏で研修に相応しいアジアの一国です」と、高橋校長はタイ国での研修の意義を語る。
同校はその開校の歴史から、家庭科では、特に実習力と併せて表現力をつけるよう指導が行われてきたが、高校のファッションテクニックス科において、特段に力を注いでいるのがヨーロッパ服飾研修である。通常授業でレース編みを体験している生徒が、レース編みの本場ベルギーの王立アカデミーで「ボビンレース編み」を実習し、また、オートクチュールのファッションショーを本場パリで視察するなど、本物に触れる機会が提供されている。
帰国後、生徒が「服飾には哲学が必要と感じた」と述べ、また、レース編みの模様を考案するのに幾何学に興味を示すなど、研修は立体的理解へとつながっている。そういった理解を可能にしているのは、日々、和の文化独特ともいえる「気配を感じ取る」教育の実践の成果ではないだろうか。相手の意図するもの、求めているものを感じ取る“和のコミュニケーション力”を身につけた者にこそ、体得できる理解といえそうだ。
多感な時期における本物と出会いが、学びの可能性を拡げることは間違いなく、ひいては進路を決定づける契機ともなり得るだろう。
男女別学のすすめ
中、高等教育において共学化が進む昨今であるが、同校の高橋校長は男女別学を推奨する立場を堅持する。長年、都立高校で教鞭を執り「かつては共学を空気のように感じていた」としながらも、男女の交際問題では少なからず苦労をした経験を明かす。
「共学化の根拠は男女平等の理念からの行政上の見地や、生徒募集という経営的見地からの場合が多く、純粋に教育的見地からの論議はあまり接していないように思う」と述べ、男女は平等であっても本質が異なる以上、それぞれに応じた教育が必要との見解をもつ。
同校では、別学であるからこそできる教育をこれまで実践してきた。女子の特性を生かし、編み物、被服、調理といった実習を充実させ、理科や社会では、知の土台となる実験・体験学習を重視している。英語、数学における習熟度別授業は「苦手教科にじっくり取り組める」や「高度な応用問題に踏み込んだ授業を受けられる」など、生徒の声も軒並み好評である。高橋校長は「クラブ活動や生徒会活動でも『女子だから』という消極論は女子校では聞くことがない」と話す。
生徒一人ひとりが気品をもって自立し、毅然と挑戦し続ける。洞察し、主体的行動を起こすことによりリーダーシップを発揮していく。まさに理想の女子教育を和洋国府台女子中学校、高等学校は今後も一貫して追求していく。
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