在校生と保護者の声を 早速反映し、結果出す
愛徳学園中学校・高等学校の改革の一環として導入された学校評価制は、2年前に在校生とその保護者に対するアンケート形式で実施された。質問は多岐にわたったが、回答では生徒、保護者を通じて学習、進路指導に対する満足度の低さが際立った。一方で、一人ひとりを大切にし、応援してくれる家庭的校風には理解が得られ、建学の精神に則った人間教育に対しても評価が得られた。
こうした結果を受け、「希望する進路の実現」に向けて、教育内容の充実を改革の最優先課題に掲げ、早朝(30分)と放課後(50分)の主要教科の講習体制を早期に確立した。また、夏期、冬期、春期の特別講習を実施し、目に見える改革が1年目から進んだ。好意的に評価された生徒一人ひとりに即した指導は、生活面だけでなく受験指導のメンタルケアでも活かすようにした。厳しい評価に対しては真摯に受け止め改善を試み、好意的に受け止められた評価は、その実践の場をより広げていった。
能美啓子校長は「すぐにできることは、できるだけ早く改善しました。多くの要望が寄せられた学習、受験指導の充実には翌年度から取り組み、1年間で一定の成果を出せたと思います」と話す。事実、2008年の卒業生(60人)から阪大、奈良女子大、鳥取大、京都教育大、兵庫県立大など国公立大学へ6人の合格者を出した。
同校ではこれまで指定校推薦や公募推薦で進学先を決める生徒が多く、一般入試まで粘りきる生徒が少なかったのが実情だったが、昨年度の2学期からセンター入試対策を実施し、3学期は受験指導に特段に力を入れたことが好実績に結びついたといえる。受験指導だけでなく英検、数検、漢検の事前指導も行うようになり、各検定で合格者数を伸ばしている点は生徒、保護者から歓迎されている。
これまでミッションスクールとして宗教的全人教育を主柱として歩んできた愛徳学園。その教育方針、目標はなんら変わるところはないが、全人教育と希望する進路の実現を車の両輪として進む今後に期待がかかる。今年度は評価制を一歩進めて「授業評価」について実施し、より効果的な学習環境づくりを目指す。
多彩な講演が「学び」の意義に気づかせる
同校の改革は「開かれた学校づくり」に基づいたものだが、その中で学校情報をいかに外部に発信し、理解を得ていくか、その試みがホームページにも表れている。ここ1〜2年の間に、各種の年間行事をつぶさに公開し、行事の意図するところを発信することで、宗教教育を柱とした全人教育への取り組みが詳しく紹介されている。
中でも、毎年外部から講師を招いて行われる「命の大切さ」についての講演や、世界情勢に目を向け、「自分自身と世界のつながり」について意識を喚起させる講演は、生徒に「なぜ学ぶのか」という学習に対する根本的意義を考えさせるものとなっている。
昨年はアフガニスタンで人道的支援を続けている医師でペシャワール会の中村哲氏が「平和の井戸を掘る」と題して講演をした。中村氏は便利な生活を求める日本人が、化石燃料を消費し続けることで地球温暖化に加担し、アフガニスタンの降雪量を減少させ、砂漠化を招いているという現実を説き、難民を生み出す原因が、日本人の生活と関わりあることを熱弁した。自分自身の生活が世界情勢に影響を及ぼしている事実に気づかせる意義深い講演であったという。能美校長は「私たちが日ごろアフガニスタンという国について知らされていないことを中村先生のお話で知ることができ、本当に必要とされていることは何かを生徒たちが感じ取ってくれたのではないでしょうか」と話す。
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また、保護者対象の行事としては、「命の大切さ」を伝える行事として、兵庫県立子ども病院の栄養指導課長 下浦佳之氏を招き、「命の大切さを食で伝えたい」と題し講演会を開催した。「食育」が叫ばれて久しいが、単に栄養学的な見地からではなく、家族が食卓を共にし、栄養とともに会話やだんらんを“摂取”することの大切さに参加者が耳を傾けた。
加えて、近年急増しているインターネットや携帯電話による犯罪に巻き込まれることを防止するため、近隣警察署などの協力を得て防犯講座を複数回実施している。学校や家庭が単独で防犯できる時代ではもはやなく、保護者と協同し中高の多感な時期を学習に専念できる環境づくりに積極姿勢が見られる。同校の生活指導部である訓育部が保護者宛に発信する「訓育部だより」では、インターネット依存症に陥らないよう「家庭での温もりのある会話」を呼びかけている。先述した食育の考え方とも通じるのも、建学理念に沿った取り組みであるからこそつながっているといえる。
しなやかさと強さと
さて、受験指導のほかに生徒と保護者の両方から要望が多かったのが、英語合宿と海外研修の実施である。どちらも昨年度から早速実施に踏み切っている。合宿、研修ともに参加希望制で、英語研修は「English in 六甲」というキャンプ形式の研修を1泊2日で実施した。研修中の会話は英語で行われ、参加生徒は次のような感想を寄せている。
「英語と触れ合うだけでなく、自然とも触れ合い、地球温暖化や世界で起こっている問題と向き合う必要を感じた。これらの問題と向き合うためにも共通言語としての英語の勉強を頑張りたい」や「英語独特の表現がとても面白く、大好きになった。文法も大切だが、このようにフリーな雰囲気でのびのび学習できてとても楽しかった」(以上要旨)など。ここでも「なぜ学ぶのか」という系統だった学習の意義を生徒は感じ取っているようだ。
海外研修は春休みに約2週間の日程でイギリスにおいて実施された。ホームステイをしながら現地の学校へ通うスタイルで、市内見学も盛り込まれている。
いずれも新たな取り組みだが、小規模校の強みで要望を受け、検討から実施までがスピーディであった。
新たな取り組みではないが、修学旅行の行き先にも見直しを期待する声があり、それまで高等学校で平和学習の目的で実施されてきた長崎への旅行が、沖縄に変更されている。
要望を受け、見直され、あるいは強化され、補うものがある一方で、創立者聖女ホアキナ・デ・ベドゥルナが残した教え「すべてを愛によって」という建学の精神がある限り、愛徳学園の宗教的全人教育の根本は変わることがない。揺らぐことのしなやかさ、揺らがないことの強さを併せ持ったミッションスクールである。
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