学校散策 掲載:塾ジャーナル2020年11月号/取材:塾ジャーナル編集部

新型コロナによる休校期間中に得た学びを今後の成長に
理想の生徒像『TG10Cs』を深く学校生活に落とし込む

東海大学付属
大阪仰星高等学校 中等部

東海大学創立者・松前重義の指針を元に、「真の文武両道」を目指して生徒を育てる東海大学付属大阪仰星高等学校 中等部。今年で創立38周年、中等部は25周年を迎えるに当たり、新しい取り組み『TG10Cs』をスタートさせた。インターハイ常連の多くの部活動に加え、近年では大学進学実績も高く評価され、多くの入学希望者を集めている同校が、今年度初頭のコロナ禍をどう乗り越えたのか。また、その経験からの気付きを今後どのように学校生活に生かして行くのか。生徒募集対策室長・渡邊紀尚先生に伺った。


7年前からiPadを使用
あるものを最大限に生かした休校期間

未曾有の事態として世界中を巻き込み、未だ収束を迎えないコロナ禍。3月以降、公立・私立問わず各学校が相次いで休校に入り、同校もそれに倣った。幸い7年前からiPadを活用していたため、大きな混乱には至らなかったという。

2月後半から3月にかけては、課題やプリントを準備し、進めていた。が、4月の緊急事態宣言を受け、想像以上の休校期間の長期化。授業を進める方法、生徒たちの自宅学習をスムーズにするための方法など、教員は何度も話し合った。その頃Zoom人気が話題になり、生徒の顔が見えるメリットを考え、導入した。

「使用方法に関しては、いろいろな声がありました。教員がZoomに向かって50分授業をするのも一つの方法だと思いましたが、生徒たちは端末の小さい画面で授業を見ます。それが何時間も続くのは結構大変ではないかと。教科ごとに考えてみても、やはり見るのは10〜15分が限界という結論になりました。そこで、いつもの授業風の動画を10分前後でつくり、それを見た上でノートをまとめ問題集をやってもらうというかたちで進めていきました」(渡邊先生)

本来の時間割から実技などを抜き、1日5時間程度の時間割をつくった。担任は朝礼と帰りの会をZoomで呼びかけ、その際健康状態や学習の進行状況をチェックした。
「iPadもそうですが、持っているものをフル活用しようというスタンスだったので、新しい技術や新しいツールが入ったという感覚ではないですね。普段から小テストや課題はアプリのロイロノートやベネッセさんのClassiを使っていました。ただ、休校期間中にClassiにトラブルが出て、自分たちで動画を撮ることになったのです」

渡邊先生が作成した授業動画を見せていただいた。生徒たちに対する手書きのメッセージで始まり、板書例、授業映像、問題集と続く。トータルで30〜45分、教室で1時間かけて伝える内容と変わらない。

勉強の定着率の高さ
ICTの可能性を実感

休校期間明けの6月から、子どもたちが授業内容をどこまで理解しているかの確認をするため、小テストなどを行った。渡邊先生が担当する社会に関しては、想像以上に定着していたという。
「最初はもっと定着が悪いかな? と思っていました。生徒たちからもいろいろな声を聞きましたが、授業自体、僕がしゃべる時間が10分くらいしかないので『楽だった』と。教員としては複雑な思いはありますが(笑)。また『10分なら集中力が続くので、先生の話をちゃんと聞けた』と言っている生徒もいましたね」
現状は全教科ほぼ遅れがなく、むしろ普段より早く進んでいる状況もあった。それにより、今後のICT授業の可能性が教員の間で話題に上がった。iPad導入に懐疑的だった空気は、かなり薄れた。

「ベテラン・若手を問わず、今回の件で『もう少し授業を変えられる』という思いを持つ教員が増えました。授業自体を一気に変えるのは難しいのですが、ICTをよりたくさん使い、授業や授業のサポートをする機会は増えている印象です。うまく使えば学習効果が高まるというのが実感できたのは、ある意味コロナのおかげと思うところはあります」
生徒たちの順応性は高く、教員とオンラインですぐつながれることを体験したため、定期試験前には次々質問が飛んでくるようになったという。テスト勉強に対する意欲の高まりと、教員を利用する方法を得たことは、生徒たちにとっては大きい。自分自身で勉強を進め、理解できたという自信も感じられたという。

クラブ活動でもICTを活用
生徒たちの成長を促す課題

休校期間中にはクラブ活動も中止になったが、ICTを活用して部員のモチベーションをあげた。Zoomミーティングや、ロイロノートで課題が出され、生徒たちが自宅でできる限りの活動を促した。
運動メニューだけでなく、日常での課題も出た。ラグビー部では「自分の部屋を綺麗にする」「いつもご飯をつくっているお父さんお母さんに感謝の気持ちを込めて、今度は自分がご飯をつくる」などの課題が出た。

「高校3年生は、いろいろな大会が中止になり、いわゆる引退試合がなくなってしまったんですね。気持ちも落ちていると思い、その代わりにクラブとしてやってあげられることは、『違うかたちで成長を促すこと』だと思ったのです」

また、吹奏楽部が他校との合同演奏をZoomでつなげてオンライン練習をするなど、休校期間中にもさまざまなアイデアが実現していった。
「大人になって振り返った時に、休校期間があったから逆に良かったと言えることはやれているのではないか。そこにICTがあったからこそ、結果的にはなかなか経験ができない1年を過ごすことができた。オンライン上で皆がつながれたというのは大きい経験だったと思います」

コロナ禍で明確になった課題と
今後の『TG10Cs』の展開

今回、初めて通信制の高校を驚異と思ったと話す渡邊先生。今までは当たり前だった「生徒が学校に来る」ということが、今回のICTを活用した休校期間の授業の成功により、揺らいでいる。
今後少子化となり、5Gが当たり前になればバーチャルな空間で授業をすることすら可能になっていく。新型コロナの経験をもとに、もし学校として現状の形態を続ける場合、大阪仰星に来ることで、生徒に何を与えられるのか?

「本当にいろいろ考えるようになりました。それは新型コロナを経験して逆に良かったと思う部分です。改めて学校の存在意義を考える良い機会でした」
同校が育成したい生徒像と、そのために身につけるべき10の力を示した『TG10Cs』についても、生徒の力を具体的にどう育んでいくかがさらに深く論議されているという。当初は行事への紐付けが考えられていたが、より深く落とし込むため、同じ行事でも新しいことを次々やっていく仕組みや仕掛けを考えているという。
コロナ禍での経験をプラスに。大阪仰星の生徒たちへの想いは、限りなく前向きで深いと感じた今回の取材だった。

東海大学付属大阪仰星高等学校 中等部 https://www.tokai-gyosei.ed.jp/