マナビネットオープンスクール2021 ●掲載:塾ジャーナル2021年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

2050年の世界で活躍する人材育成を目指す
生徒が自走できるよう心を動かす教育を実現

常翔啓光学園中学校・高等学校

調べ教育として重要な図書室では、常時37,000冊。学校法人常翔学園設置7校の蔵書合計1,238,030冊の中から読みたい本を取り寄せできます。


建学の精神「世のため、人のため、地域のため、理論に裏付けられた実践的技術をもち、現場で活躍できる専門職業人を育成する」をベースに、学びの進化・深化を推進してきた進学校、常翔啓光学園中学校・高等学校。1957年に学校法人啓光学園啓光学園中学校として誕生、2013年に学校法人常翔学園と法人合併、2022年には法人として100周年を迎える伝統校である。しかし、その歴史と伝統にあぐらをかかず、絶えずその視線の先には未来があるのが同校の特徴だ。「2050年の世界で活躍する人材を育成したい」という山田長正校長に多様な取り組みについて話を伺った。


「K1GOALS」で学びや行事の
目的、成果を「見える化」して意識を浸透

「基礎学力の育成」と「人間力の基礎の育成」。この2つの教育方針を礎に、校訓「熱心であれ」「力強くあれ」「優しくあれ」を掲げてきた常翔啓光学園中学校・高等学校。これらを実現させるために、より多彩な学習や行事などの教育活動を行っている。

中でも注目すべきは、「K1GOALS」だ。なぜ勉強しなければならないのか、どうしてこの行事をやらなければならないのかといった生徒の問いに答えるため、生徒に身に付けてほしい課題発見力や分析力など9つの力をピクトグラム化。これを勉強や行事に当てはめて目的の「見える化」を行った。

「目的をはっきりさせて実行し、振り返りをさせるために『K1GOALS』を設定しました。これで行事などで主体性を養います」と山田校長は語る。


体育祭で引き継がれる伝統演舞の「啓中ソーラン」を披露。チームワークが鍛えられる

台湾の大学との提携やSDGs活動
中高大の連携など意欲的な取り組み

来るべき2050年の世界で活躍する人材を育成したいと願う同校が取り組むのが、グローバル教育や21世紀型教育、キャリアデザイン教育である。

まず1つ目のグローバル教育については、他国の文化などを理解したうえでのコミュニケーション力が重要であるため、留学やオンライン英会話に力を入れる。中学校で実践しているネイティブ教員による終礼もその一つで、連絡事項をすべて英語で伝えている。また、海外の大学への進学にも注力し、アメリカやヨーロッパの大学の単位も取得できる台湾の7大学と提携。これにより、台湾の大学への進学へ生徒をつなげやすくなった。

2つ目の21世紀型教育では、PBL(Project Based Learning、課題解決型授業)を行う。これは、自分たちで何を解決すべきかを考え、仮説を立て、ICT機器などを使って調べ、発表するもの。その一つがSDGsの活動だ。世界の状況を変えるために一人一人に何ができるかという気づきを感じてもらうためにSDGsのカードゲームを生徒に体験させている。

これを指導するには研修に合格したファシリテーターが必要だが、このファシリテーターが同校の教員には3人もおり、それだけSDGs教育に注力していることが伺える。さらに、NIE(Newspaper in Education)を導入し、身近な新聞を教材にSDGsの目標と絡めながら、問題解決力を身に付けさせている。

また、「生徒の探究心を引き出すには大学との連携が必要」と山田校長。これが3つ目のキャリアデザイン教育だ。同校は、大阪工業大学、摂南大学、広島国際大学の3大学を擁する法人に属し、医学部以外はほぼ揃う学部との連携でさまざまな学びを実現。

例えば摂南大学薬学部でマウスの実験を大学生と共に行ったり、広島国際大学看護学部で命の大切さを学んだり、留学生を招いて自国について教わったりということができる。直近では、中学3年が修学旅行で高知県四万十川を10月に訪れることに。その事前学習で、大阪工業大学工学部環境工学科の教授に水質について学んだ。

「本物を見せることが大切で、それが身になるには事前の学習、さらには事後のまとめも必要です。本校では行事のまとめを啓光祭で発表させ、プレゼンテーション能力も磨いています」


(左)摂南大学薬学部でのマウスを使った実験。同校の法人は3大学を擁し、中高大連携が盛ん
(右上)コロナ禍で中止となった啓光祭(文化祭)の代わりに実施された「啓光フェスティバル」
(右下)中学1年が一年かけて新聞を作成し、全学年の前で発表したコミュニケーション発表会

充実のICT教育

昨年のコロナ禍による休校への対応も見事だった。まずは当時の中学1年と高校1年にタブレットを1人1台持たせた。社会において使用頻度が高く将来に有用だからという理由からMicrosoft Surface Goを導入。中学1年、高校1年以外の学年においてもノートパソコンや携帯電話、タブレットなどさまざまなデバイスでも対応できるように学校側が工夫して設定。

これにより連絡事項はMicrosoft Teams、健康チェックはMicrosoft Forms、授業の動画配信はMicrosoft Streamで進めた。その結果、休校中もスムーズに全教科の授業が行なわれ、年間計画通りに捗ったという。休校明けも、授業前に動画配信をするなどICTを活用する教員が現れた。

授業に関するアンケートでは「授業の動画を繰り返し観ることができて良かった」という回答が一番多かったという。今年度は高校3年を除く5学年でタブレットを持たせ、ICT教育をさらに推進させた。

また、ICT化は教員にも好影響を与えている。教員は他の教員の授業をなかなか見学する時間がないが、教員が他の授業の動画を観ることが可能に。結果、それを参考に自分の授業を工夫するという現象が起こっている。

「教員間の情報共有によって、授業の質が向上するのは非常に嬉しいことです」と山田校長。今後の展望について伺うと、「2050年へ向け、今、何をすべきか考える教育集団でありたい。生徒たちが将来何になりたいかイメージし、自走できるように、生徒たちの心を動かせるような教育を展開していきたいです。

将来の日本や世界を背負って立つ子どもたちは、我々にとって宝物。その宝物を磨くことに幸せを感じながら教育を行っていきたいと思います」。

絶えず生徒に寄り添い、生徒の未来に思いを馳せる。その思いがストレートに伝わる取材だった。

常翔啓光学園中学校・高等学校  https://www.keiko.josho.ac.jp