マナビネットオープンスクール2022 ●掲載:塾ジャーナル2022年9月号/取材:塾ジャーナル編集部

「知的野次馬根性を持て」
好奇心を駆り立てる15の「自由講座」で
探究授業の基礎を育てる

東海大学付属大阪仰星高等学校 中等部(大阪府)

分度器と5円玉、簡単な道具と知識で建物の高さを測ることに挑戦


1983年に枚方の地で誕生した東海大学付属大阪仰星高等学校中等部。東海大学の付属校として「真の文武両道」の体現を目指してきた。2019年には、あらゆる活動を通じて生徒に身につけて欲しい10の力を「TG10Cs」として設定。多様な社会を生き抜く力をつける指標としている。今年度の新学習指導要領導入により、高校では「探究」の授業を新設。中等部においてはその前段階として「自ら考える基礎となる知識の習得」に注力する。その一環として中等部で開催された「自由講座」を取材し、校長の小寺建仁先生にお話を伺った。


「電車の席はどこから埋まる?」
小さな興味が学問につながる

東海大学付属大阪仰星高等学校中等部では、7月22日から5日間設けられた「夏期特別講座」期間の初日に、1日限定の「自由講座」が開講された。

同校では今年度からの学習指導要領の改定に伴い、高校1年次に「基礎探究」、2年次に「発展探究」を新しく設定。高校進学後の探究に備え、「自由講座」では中等部生が自ら考える基礎をつくり、興味を発見する機会を設けることが目的だ。

当日、学校の講堂に集まった生徒たちは、まず高校探究科の主任・米倉真一先生から探究とはどういう学習なのかについて話を聞いた。

「例えば電車に乗っていて、『電車の席はどこから埋まっていくか?』と考えたことはないでしょうか」と米倉先生の問いに、生徒たちはハッとする。「まず両端から席が埋まり、その後は間を開けて席に座りませんか。この間隔を『パーソナルスペース』といい、一人ひとりが近寄られて不快にならない距離という研究がされています。この研究は『社会心理学』という学問なのです」と、ちょっとした疑問が学問につながっていく面白さを説く。また、「1万円をもらった嬉しさと、1万円を失った悲しさはどちらが大きいか?」といったことも、行動経済学という学問につながるという。

こういった例を出しながら、小さな興味や好奇心から大きな学問につながっていく可能性を説き、身近なものに疑問を持ち、何に対しても好奇心を持つ「知的野次馬根性」を持ってほしいと話した。


(左)プログラミングアプリを利用して日常に役立つものを考える
(右)太陽の黒点を天体望遠鏡を用いて観察

学問的好奇心を駆り立てる15講座
自ら考える基礎となる知識を習得

米倉先生の話のあとは、各自が事前に選んだ講座の教室へ集まる。講座は全部で15講座。実験、制作、考察系など、好奇心をくすぐる内容が用意されていた。

まずは「5円玉で校舎の高さを測る?」の教室を覗いてみると、10数人の生徒が分度器と5円玉を持ち、数学の相似の知識を使い、第2校舎の高さを測る方法を学んでいた。「楽しい実験をしよう!!」の教室では、3~4人のグループに分かれ「ちりめんじゃこ」と格闘中。探しているのは、じゃこの中に混ざったエビやタコなどの「ちりめんモンスター」。「見つけた!」「小さな魚がいる」と熱中して作業中。その後は図鑑をつくるという。

「なぜそこに城?」の講座は座学。城の模型を前に、講師の先生がなぜそこに建てられたのかを各自に考えさせ、生徒たちも各々の意見を交わしていた。知識を得るだけでなく、自分なりの考察を披露することが楽しそうだ。生徒はみな熱心に取り組んでいた。

講座終了後は教室へ戻り、今日の取り組みを各自が仰星手帳に記入した。


(左)「楽しい実験をしよう!!」ではちりめんモンスター探しに没頭
(右)「なぜ、そこに城?」は男子に人気。生徒のロマンをかきたてる

仰星手帳で行事やテストを「振り返り」
まとめる力を伸ばしプレゼンの基礎を育てる

この自由講座について小寺建仁校長は「中等部では高校に先行してSDGs課題と向き合う課題解決プログラムを3年前からスタートしています。並行して今年度から高校に探究が入るわけですが、中等部から高校への一連の流れをスムーズにつなげていけたらと考えました。中等部生には高校の探究授業に対して理解を深めてもらい、高校へ上がったとき、中等部の子がコアとなり引っ張って行ってもらえたら」と、そのきっかけを語った。

今回ほとんどの講座では、講師を高校の教員が務めた。

「普段同じ敷地内にいながら、中等部生と高校の教員はあまり接点がありません。高校の教員が講師を務めることにより、中高一貫教育のパイプも更に強めたい狙いもありました。またこういう時間を持つことにより、物事を追求し、新しいことを知る面白さが学びのモチベーションを更に上げていくと思います」


Zoomを使ってオーストラリアの小学生と英会話タイム

生徒たちが記入する仰星手帳は、今年度新しく導入した。生徒募集対策室長の菊池聡先生は「行事で経験したこと感じたこと、興味を持ったことなどをまとめて書き込みます。テストの振り返りも記入します。テストと行事でPDCAサイクルを確認できるように手帳を活用します」と話す。

高校には以前から「自己探求ノート」という同様のものがある。同校では2019年に生徒に身につけて欲しい10のチカラを「TG10Cs」として明文化した。①自分で学ぶチカラ②健やかに生きるチカラ③社会を認識するチカラ④批判的に考えるチカラ⑤自分を管理するチカラ⑥コミュニケーションするチカラ⑦創造的に表現するチカラ⑧協働するチカラ⑨貫徹するチカラ⑩課題を解決するチカラの10項目だ。取り組んだことが、この内のどの項目に当たり、自分にどの力がついたのかを記入していくのが、高校の「自己探求ノート」だ。

「高校では定期テストごと、三者面談ごとに振り返り、面談ではノートの中の振り返りシートをもとに、自分にどんな力がついて、どういう部分が弱いかなど、担任と保護者に対して生徒自らプレゼンします。そして次の試験までに何をすべきかを整理し、試験に臨みます」と小寺校長。

中学ではその前段階で、仰星手帳を使ってまとめる力や振り返る力をつける。

「今日の取り組みだけでなく、大阪仰星のすべての取り組みを通して、自ら考える力、人の意見も聞きながら、自分の意見も主張できる、そういう力をつけて欲しいと思っています」

東海大学付属大阪仰星高等学校 中等部 https://www.tokai-gyosei.ed.jp/


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