マナビネットオープンスクール2022 ●掲載:塾ジャーナル2022年7月号/取材:塾ジャーナル編集部

学園創立100年の「伝統」と「実績」を基盤に
進化し続ける「教育先進校」

常翔学園中学校・高等学校(大阪府)

今年創立100周年を迎える学校法人常翔学園。かつて大阪が人口・面積・工業出荷額で日本一となり「大大阪」と呼ばれていた頃、即戦力となる工業技術者育成のために1922(大正11)年に誕生した「関西工学専修学校」を淵源とする。建学の精神はそのままに、現在は、3大学、2高校、2中学校を擁する総合学園へと発展を遂げ、産官学の各界で広く活躍する人材を輩出している。この大きな節目に常翔学園中学校・高等学校の新校長に就任した田代浩和先生。次の100年に向け、すでに動き出している「教育先進校」への取り組みの一端を紹介してもらった。


中学から始まるキャリア教育
「常翔STEAM」

約100年前の大阪は、人口の増加に伴い道路の拡幅や地下鉄開業など、公共施設の整備を行う都市計画事業が進展。常翔学園の淵源『関西工学専修学校』の卒業生は、これらの現場でリーダー的な役割を果たし、大阪の発展に貢献した。

「現場で活躍できる『専門職業人』の育成が建学の精神です。21世紀となり、『幅広い職業観』の文言が入る教育理念を制定してからは、キャリア教育を推進しています」と田代浩和校長。目標は大学進学ではなく、社会で活躍できる人間力だ。

高校ではコース別に、「企業探究学習」、同一法人内大学と連携して8つのゼミで活動する「ガリレオプラン探究」、地元・大阪市旭区のビジョン実現に共に取り組み、ディベートにもチャレンジする「ヤングリーダーズプラン」、大学教員による講義で将来のキャリアを考える「夢発見ゼミ」など、実社会で求められる課題解決力、コミュニケーション力、プレゼンテーション力などを養うための多彩なプログラムを用意する。

さらに今年度からは中学にもキャリア教育を広げ、「常翔STEAM」へと進化および深化させた。STEAMは、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学・ものづくり)、Arts(芸術・リベラルアーツ)、Mathematics(数学)の5分野の頭文字をとった教育用語である。

「より理系に重点を置いた文理融合授業です。知識・技能の習得に加え、『探究』を通じて、思考力・判断力・表現力や、学びに向かう姿勢など、今後のIT社会で必要とされる力を総合的に養っていきたいと考えています」(田代校長)

中学1年では、外部講師による基礎講座で始まり、数理探究へ。1年後期から2年前期で、ネイティブ講師と英会話を楽しみながらグローバルマインドを育むとともに、SDGsを意識した課題解決に取り組み、英語での発表も行う。2年後期でプログラミング、3年で企業探究や科学探究を体験し、高校のキャリア教育に接続する。

これらのプログラムは、2019年に設置した「教育イノベーションセンター」の教員が作成。常にブラッシュアップしている。


(左)「常翔STEAM」リベラルアーツの授業の様子
(右)毎年11月に開催している同校主催のICT公開授業

国内難関大への進学実績
海外大学への道も拡充

工学系の大阪工業大学、文理幅広い総合大学の摂南大学、健康・医療・福祉分野の広島国際大学、それぞれ特色を持つ3大学を併設しているのも同学園の大きな特長だ。内部進学率は25%で、「この3大学で生徒が希望する進学をほぼカバーできます」と田代校長は胸を張る。

また、15年ほど前は国公立合格者が10人程度だった同校だが、学園創立100周年に向け、「国公立合格者100人を超える『進学校』になる」を目標に取り組んだ結果、前倒しでこれを達成。キャリア教育やICT教育で培った力がものをいう「学校推薦型選抜」「総合型選抜」での受験者も多く、2022年度は国公立大128人、私立の関東難関大および“関関同立”で計272人の合格者を出した。

国内だけでなく、海外大学への進学サポートも強化している。連携する台湾の大学には毎年10人程度が進学。2022年度はオーストラリアやオランダの大学への進学者もいたという。オーストラリア、韓国、中国、台湾に姉妹校・連携校を持つ同校だが、今年度新たに、マレーシアに連携校、アメリカには業者を介して年間数名が進学できる道を切り開き、拡充を図った。

併設大学・国内難関大学・海外大学と、いずれも合格対策に余念がなく、生徒一人ひとりの異なる希望に応えている。


(左)高校の海外研修旅行ではホームステイをしながら現地の高校生と交流
(右)2022年5月に京セラドームにて行われた体育祭。生徒全員が入学後初の、教職員も3年ぶりの開催となった

ICT教育、グローバル教育も進化

「生徒が主語となる学校」をめざす

2017年には、1人1台iPad所有の学習環境を実現。授業での活用のほか、教材の事前配信、面談指導、家庭学習にも役立てている。コロナ禍でのオンライン授業もスムーズに対応できたという。また、ICT教育をさらに進化させるため、同校では毎年11月、全国から200人超の先生方を招く「ICT公開授業」を開催。意見交換で得たヒントを授業改善に役立てている。

一方で、グローバル教育も強化する。中学では、現在国内で実施している修学旅行を海外にし、留学制度(希望制)採用も検討中。もともと海外で実施している高校の研修旅行については、「ガリレオプラン探究」の生徒はクラス別ではなく、アイルランドやカナダ、シンガポールの希望の行先別にする。現地の学生と一緒に実験したり発表したりすることで、単なる思い出づくりの旅行ではなく、グローバル環境に身を置いた「探究」のエッセンスを加える。

2024年度の募集では、高校にグローバルコースを設ける計画もある。

「今の生徒たちが大人になる頃には、外国人と共同で仕事や研究を行うことが当たり前の世の中となり、日本人だけの感覚では通用しなくなると思います。早い段階で、グローバルな環境に慣れておいた方が良いですし、慣れると英語の必要性に気づき、勉強に身が入るものです」

探究・ICT・グローバルは現在の学校教育のキーワードであり、同校におけるこれらの先進的な取り組みは注目を集めている。日本私学教育研究所が主催する視察会場に、今年は同校が選ばれた。

田代校長がめざすのは“生徒が主語となる学校”だ。

「日本の子どもは『自分が社会を変える』という意識が諸外国に比べて極めて低いですが、それは自己肯定感が低いからだと思っています。『先生が』生徒にやらせてばかりでは、生徒に主体性が育たず、指示待ち人間になってしまう。『生徒が』自ら考え、失敗もしながら体験を積んでこそ、自己肯定感は高まります。そういう体験をどれだけ多く準備できるかが、これからの学校の課題ですね」

常翔学園中学校・高等学校 https://www.highs.josho.ac.jp/


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