特集Ⅰ 掲載:塾ジャーナル2021年9月号

2022年度首都圏中学受験はどう動くか?

安田教育研究所 代表 安田 理


1.2022年度に向けての学校の動き

2022年度に向けても首都圏の中学入試では活発な動きが見られる。

〈開校〉

新設は「千代田国際中学校」「茨城県立水海道第一高等学校附属中学校」「茨城県立下妻第一高等学校附属中学校」の3校だ。

■千代田国際は、武蔵野大学附属千代田高等学院に併設されるもので、休校中の千代田女学園が再開する中学校だが実質的な新設だ。

■茨城県の2校は公立中高一貫校で、茨城県では2020年度~2022年度にかけて10校の公立中高一貫校の増設を進めている。来春開校する2校はその計画の最後だ。

既存の学校でも共学化やコースの変更で大きく変わる学校がある。

〈共学化〉

■東京都北区の女子校、星美学園が共学化して校名を「サレジアン国際学園」に改称する。横浜市のサレジオ学院や小平市のサレジオ小中学校はカトリックの男子の修道会「サレジオ会」がつくった学校なのに対して、女子の修道会「サレジアン・シスターズ」がつくった学校が星美学園で、いずれも司祭ドン・ボスコの学校だ。PBL型の授業やインターナショナルコースの設置などを前面に打ち出している。なお、系列校の目黒星美学園も1年遅れの2023年度から共学化し、校名を「サレジアン国際学園世田谷」に変更する予定だ。

〈コースの新設、改編〉

■日本大学(日吉)がNスタンダードコースをアカデミックフロンティアコースに改編、他大学進学も視野に入れた進学ハイブリッド校としてのパワーアップを図る。

■横浜創英は「科学の視点・方法論」で物事を考えられる生徒の育成を図るため、高校入学生とは混合しない6年間一貫のサイエンスコースを新設、在来のコースは本科とする。

■実践学園は高校からの募集だったリベラルアーツ&サイエンスコースを中学からの別枠募集とする。全員がカナダに留学するだけでなく、すでに高校では2020年度からカリキュラムに解析学概論を取り入れていて、エビデンスに基づいた思考力の育成を図る。

■春日部共栄は生徒たちの興味関心に基づいて在来のコースをプログレッシブ政経コースとIT医学サイエンスコースに分けて、中学段階から研究活動を積極的に取り入れていく。

コース(クラス)の新設や衣替えだけでなく、統合再編する事例もある。

■工学院大附属は「K-STEAM」として、グローバル・リベラルアーツと数理情報工学を融合した先進教育に取り組むことから、従来のハイブリッド特進理数、ハイブリッド特進、ハイブリッドインターナショナルの3クラス制を先進とインターナショナルの2クラス制に変更する。

■二松学舎大附属柏は、探究活動にさらに磨きをかけるため、グローバル、特選、選抜の3コース制からグローバル探究と総合探究の2コース制へ変更する。

より高難度の大学合格を意識した、「特進」的なコース設定を見直し、学ぶ中身でのコース(クラス)制の改編が目立っている。

■三田国際学園は本科、メディカルサイエンステクノロジー、インターナショナルの3クラス制だったが、本科を募集停止とし、インターナショナルサイエンスを新設、インターナショナルとの2クラス制とし、メディカルサイエンステクノロジーは中2からの開設とする。本科の募集停止は、難度面では影響が大きくなるかもしれない。

2.中学受験生はさらに増加する勢い

コロナ禍にもかかわらず、2021年度の首都圏中学受験は拡大していた。コロナ禍は収束が見通せず、群馬県を除く首都圏1都5県の2021年度の小6(義務教育学校を含む)児童数も、昨年の学校基本調査の結果では33万8000人で、今春受験を迎えた現中1の34万人より2000人、0.7%減っているが、来春の中学受験生はさらに拡大する勢いだ。

首都圏の中学受験の規模は四谷大塚の合不合判定テスト、首都圏模試センターの合判模試、日能研の日能研模試、サピックスのサピックスオープンの受験状況がバロメーターで、6~7月の受験者数は、昨年はコロナ禍の影響で大きく減ったが、今年は各模試とも増加、コロナ禍前の2019年の受験者数を上回っている。

グラフは6~7月の大手公開模試の受験者数と、受験者数を1都5県の小6児童数で割った受験率の推移である。受験者数は2008年9月に発生したリーマンショックの影響で、翌2009年から減少が始まり、サピックスが独自の模試を開始した2014年から増加に転じた。今年はグラフのように一昨年と比べても大きく増えている。歴史が浅いサピックスを除いた3つの模試でも、今年は2010年以来の受験者数4万人突破となった。当然受験率は上昇、14.2%と最高だ。4月も各模試とも2019年よりも増加していて、このまま推移すれば来春の中学受験生は今春以上に増加する勢いだ。

模試別では合不合判定テストの受験者が13.8%増、合判模試が6.8%増、日能研模試が0.9%増、サピックスオープンが7.9%増で、各模試の性格から、難関・上位校志向が強いことがうかがえる。

3.中学受験生増加の背景

中学受験生が増加する理由は、保護者の「良質の中高一貫教育への期待」「学費面でのハードルが下がった」「学びを止めなかったことへの信頼」だろう。

①良質の中高一貫教育への期待

首都圏、特に東京は全国でも珍しいくらいに私立中高一貫教育が伝統的に保護者に支持されてきた。以前から言われてきた、「大学合格実績やその指導体制」「フォローアップの良さ」「工夫を凝らした課外活動」「施設の充実」「情操教育や人格形成」などに加えて、「急速に変化する社会に備えること」への期待が強まっている。コロナ禍で海外との往来は事実上できず、せっかくのオリンピックで来日した選手団と地域との交流もほとんど実施されていないが、コロナ禍が収束すれば、再びグローバル化へ積極的な取り組みが求められることは確実だ。

またAIの今後の発展は、一人ひとりのサイエンス分野の能力向上の必要性を高めている。企業現場からは、課題発見・解決能力(いわゆる「解答のない問い」への対応力)の向上の要求も強い。こうした力は、テキストを覚え込むような教育ではあまり身につかず、実際にやってみるという実践の積み上げがものをいう。育成に時間がかかるものだ。このことに気づいて、良質の中高一貫教育を求める保護者が増えている。

②学費面でのハードルが下がった

①は十分理解していても、中高一貫校の多くが私立である以上、学費などの費用は覚悟しなければならない。実際、リーマンショックの時には6年間の学費負担の懸念から、中学受験が縮小に転じていた。今回のコロナ禍でも飲食業や運輸業、ホテル等の経営の厳しさが報じられている。6年間学費等を払いきれる自信がないと中学受験を断念することになる。

しかし、リーマンショック当時と違って、現在では高校段階での学費支援措置が拡充してきている。就学支援金の制度は2010年にスタートしたが、特に2020年からは国の支給額が引き上げられ、各都県の独自の上乗せ分と併せてかなり拡充された。こうした制度は所得条件があり、施設費などは支払う必要があるなど完全無償ではなく、国と都県で別々に申請が必要、いったん家庭で立て替えて、後からその金額が振り込まれる還付型の制度もあるなど、家庭にとっては必ずしも使いやすい制度とは言えないものもあるが、ハードルが下がったことは確かだ。神奈川、埼玉、茨城県には私立中学生の家計急変世帯への学費補助制度があり、東京都や千葉、栃木県でも独自の支援制度を持っている学校が多く、この点も保護者の安心材料になっている。

③学びを止めなかったことへの信頼

昨年の学校休校時の対応が保護者に評価されている。昨年は多くの私立中高一貫校でオンライン授業の立ち上げの早さが目立った。地元の公立中などでも立ち上げが早かった学校はあったが、GIGAスクール構想の前倒しで生徒1人1台の端末が実現したのは年度末、休校当時はプリントを配ってテレビの教育放送を見るように指示して終わり、とした事例も多く報告された。

私立中高一貫校でオンライン授業の立ち上がりが早かったのは、生徒1人1台の端末の環境整備が進んでいたり、コロナ禍とは関係なく2020年度から実施予定で準備されていたりしたためだ。もちろん当初はスムーズにいかなかった事例は数多くあったが、担任の教員が毎日のように電話してきてフォローするなど、地元公立中高と比べると丁寧な対応ができた学校が多く見られた。こうしたことが保護者の口コミになって信頼を醸成している。

今後、よほどの大きな事態の変化が起こらない限り、来年度も首都圏の中学受験は拡大するだろう。良質の中高一貫教育を求める保護者は確実に増えている。


安田教育研究所 代表 安田 理 http://yasudaken.com/
早稲田大学卒業。大手出版社にて雑誌の編集長を務めた後、受験情報誌・教育書籍の企画・編集にあたる。教育情報プロジェクトを主宰、幅広く教育に関する調査・分析を行う。2002年、安田教育研究所を設立。講演・執筆・情報発信、セミナーの開催、コンサルティングなど幅広く活躍中。