特集 掲載:塾ジャーナル2021年7月号

英語力をメキメキ上げるキムタツ式英語指導法

作家 木村 達哉

2019年5月、英語指導法に関わる講演をしてもらえないかと、㈱SRJからご依頼をいただきました。対象は塾を経営する方々。それまで塾関係者とのつながりと言えば、㈱ベネッセコーポレーションが経営しているお茶の水ゼミナールで生徒たちに講演を一度か二度させていただいたぐらいで、知り合いと呼べるような塾関係者はいませんでした。

「塾を経営されている方ってどんな話を聞きたいんですかねぇ?」と、㈱SRJの担当者に何度も尋ねたのは、私が西大和学園や灘校で行ってきた学校での指導が、塾の方々にもお役立ていただけるのかが心配だったからです。わざわざ東京までいらっしゃって私の話を聞いてくださるのに、「あぁ、つまらない話だったわぁ」というのでは申し訳ないじゃないですか。

結論から言えば、その心配は杞憂に終わりました。以後、現在にいたるまで、その講演でお会いした方々と親しくお付き合いをさせていただいています。また、三重や沖縄の塾から、講演のご依頼を頂戴し、保護者や生徒たちの前で英語学習法や自己管理法などについて、お話をさせていただく機会を得るにいたりました。多くの塾でアルクの『ユメタン』や『ユメジュク』、あるいは三省堂の『まるまる英語シリーズ』を使ってくださり、なかには生徒たちが音読をしている様子を動画に撮って送ってくださる方々もいらっしゃいます。

また、大手塾から講師全員に英語の教え方セミナーを開催してほしいというご依頼もいただきました。2社からご依頼を頂戴し、うち1社は5月に全国の教室の全講師に対して、オンラインではありますが、お話をさせていただきました。もう1社も近々同じような形で行わせていただくことになります。要するに、㈱SRJの講演の前後で、私を取り巻く人とのつながりに大きな変化が生じることになりました。そして、塾の人たちというのは、特有の熱量を持っておられるんだなということを知ることになりました。そういった方々とのつながりは、自分にとって極めて大きい財産となりました。


さて、英語の話です。
灘校や西大和学園で33年間教えてきたというと、まるで受験英語の権化であるかのように思われるかもしれません。確かに東大や京大などの難関大をはじめとする大学入試の英語問題には毎年全問に目を通していますし、解説してくれと依頼されれば喜んでさせていただくことはできます。その点で言えば、受験英語の権化かもしれませんね。

しかし、私の英語指導は文科省が4技能だの「使える英語」だのと言い始めるずいぶん前から、いくら下線部訳ができたとしても、それなりに聞き取れないと勉強はつまらないし、それなりに話せないとモチベーションが上がらないと思い、LとSができることを念頭に置いて行ってきました。まさに高校時代の私のように、下線部訳しかできないような英語力では、大学に合格したとしても、海外から来た人と話すことを避けて生活するようになります。それでは中高で英語を学んできた意味が全くありませんし、さらに新しい外国語を勉強して自分の教養を高めてやろうという考えにも及びません。

また、英検などへの対策的指導はややもすると見栄えが良く、保護者受けは良いかもしれません。それに求められれば、英検の指導ぐらいはできるようでなければなりません。しかし、知っておきたいこととして、多くの場合、英検2級には合格したけれども英語はそれほどできないという子がほとんどだということです。また、英検1級に合格した人であっても、それほど英語は使えません。TOEIC900点程度では、全く英語を使って仕事をすることもできません。

この先生に教わって本当によかった。生徒たちにそう言ってもらえる指導でないと意味がないなぁと常々思いながら教員をしてきました。そしてRとLに加えて、WとSがほとんどミスなく行えるように、綿密に指導計画を立てながら教えてきました。それほど特別でもユニークでもない「当たり前のことを当たり前にする指導」ではありますが、今となっては多くの学校や塾で採り入れてくださっていることを嬉しく思います。以下は、その指導について少し書いていきます。参考にしていただければ幸いです。

人生を考え、勉強の理由を考える

英語に限らず、フランス語にしても中国語にしても、外国語を勉強するとなると、まずは継続させないといけませんよね。英語はそこそこできるから今度は中国語の勉強でもしようかなと思って始めたものの、勉強が続かないというケースがほとんどです。一方、企業で働いている人たちが北京支社に赴任することになって、1年でそれなりに使えるようになったという話もよく聞きますね。前者には勉強の理由がありません。だから続かないのです。

生徒たちも同じで、なかなか勉強に身が入らないという子の場合、どうやって生きて、どうやって英語を使ってやろうかなという意識が抜け落ちているケースが大半ではないでしょうか。なんとなく英語の勉強を先生方からやるように言われ、いたしかたなく机に向かっているだけという子の場合、英語を極めてやろうという意識はそれほど高くならないのではないでしょうか。

一方、「将来は外資系企業でバリバリに働いて、年収1億円以上稼いでやるぞ!」というような生徒の場合、何を置いても英語の勉強をします。教員がなにも言わずとも、TOEICを受検し、高得点を取得します。「大学に入ってiPS細胞の研究をしてやるぞ!」という生徒の場合も同じです。特に理系生徒の場合、大学に入学してから英語は必須アイテムとなりますので、文系生徒以上に英語への取り組みが良い傾向にあります。文系の場合、入学後はほとんど英語を使わないですからね。就職する際になって、慌ててTOEICを受ける子たちはいるにしても。

自分の生徒たちには人生を考えるように、口を酸っぱくして言い続けてきました。単に学校に来て、数学やら英語やらをやっていてもモチベーションは上がらないし、したがって成績も上がらないよと。むしろ、しっかりと自分の未来を見据え、どの教科が必要なのか、どういった力を強化しておかねばならないのか、どの勉強はそれほど必要じゃないのか等など、自分で考えなければならないよと。なぜならば、私たちの努力には、常に理由があるからです。モチベーションが維持できさえすれば、今度はメソッドが大切になるのですが、逆に言えばメソッドがいくらしっかりしていても、学ぶ側のモチベーションが維持できなければ宝の持ち腐れになってしまいます。私たち指導者は、生徒たちに人生を考える機会を与えてこそ、成績を伸ばすことができるのです。

語彙力と文法力を鍛えに鍛える

木村と言えば『ユメタン』を思い浮かべる人が多いそうです。自分の著書を毎年20万人ほどの方が書店さんのレジに持っていってくださっていることを思うと、それも無理はないかもしれません。しかし、あくまでも単語集はサブ教材であって、語彙習得において大切なのは、たくさん読んだり聞いたりし、たくさん話したり書いたりする中で、知らない語彙や表現があれば片っ端から覚えていくということで、それがメインの勉強となります。したがってたくさんの英語に触れなければなりません。

文章中に出てきた表現で知らないものだけをピックアップして覚えるというのでもいいとは思いますが、英語を話す力を伸ばすのに役立つのが「バックトランスレーション」のトレーニングです。

私のセミナーには毎年数千人の指導者の方々がご参加になりますので、今となっては多くの学校や塾でバックトランスレーションを行っている生徒たちが増えてきました。非常にタフで、家庭学習につながり、そして極めて高い英語力が身についていきます。特に語彙力増強、ライティングとスピーキング力の伸長につながりますので、やられると良いのではないかと思われます。ちなみに私の教え子は、中学1年生の2学期から卒業までひたすらバックトランスレーションを行います。


●バックトランスレーション(英文)

The earth is 4.6 billion years old. This is a very long time. When we make a one-year calendar of its history, we can understand it easily. Let’s do it. The earth was born on January 1. The first living things appeared in late March, about 3.5 billion years ago. For billions of years, many kinds of plants and animals appeared and disappeared. Dinosaurs appeared on December 13, about 200 million years ago. When the shape of the land was changing, dinosaurs were walking on it. Some dinosaurs were very big. Others were about the size of humans. They all died on December 26. Humans appeared on the morning of December 31, about 7 million years ago. When monkeys were moving from tree to tree, early humans were walking in the tall grass. We are a small part of the earth’s long history.

この文章は中学2年生の教科書から抜粋したものです。それほど難しくはありませんし、内容的にも興味深いものです。速読しようなんて思わなくていいのです。昭和時代の英語指導よろしく、ゆっくりと意味を取りながら読んでいきます。

読み終わったら、今度は日本語を見ながら、自分の読みが正しかったかどうかをチェックします。指導者としては、冠詞の意味や前置詞のニュアンスなどを教えてやると効果的です。冠詞や前置詞に強い生徒になるからです。さて、準備完了。


●バックトランスレーション(日本語訳)

地球は46億歳であり、これは非常に長い時間である。地球の歴史で1年のカレンダーを作ると、地球のことを簡単に理解できる。やってみよう。地球が1月1日に生まれたとする。
最初の生物は3月末、およそ35億年前にすがたを現した。何十億年もの間、何種類もの動植物が現れては消えていった。恐竜が現れたのは12月13日、およそ2億年前のことである。陸地の形が変わりつつあった頃に恐竜はその上を歩いていた。非常に大きい恐竜もいれば、人間とほとんど大きさが変わらないものもいた。彼らはすべて12月26日に絶滅した。人間が現れたのは12月31日の朝、およそ700万年前のことである。サルが木から木へと飛び移っていたとき、昔の人間は背の高い草の中を歩いていた。我々は地球の長い歴史のほんの一部なのである。

バックトランスレーションは訳を見ながら、英語に直していくのです。多少、読んだ英語と違っても構いませんが、読んだ(聞いた)ばかり、自分がトランスレーションをした文章を、今度は日本語から英語に直していくのですね。これがバックトランスレーションです。紙に書いていっても構いませんが、最初は声に出して、まるで地球の歴史について講演をするかの如く、堂々と話せるようになるまで何十回と音読をします。

教室で行う音読はたかだ回程度ですが、翌日にチェックテスト、つまり自宅でバックトランスレーションのトレーニングを行ってきたかどうかのテストが行われますので、生徒たちは家庭でも復習をすることになります。

翌日は日本語訳を再配付し、それを見ながら英語に直していきます。習慣にすると、自分が勉強した別の文章でもバックトランスレーションをするようになりますし、英検やGTECで読んだり聞いたりした文章も、日本語を見ながら英語に直そうとします。


●バックトランスレーション(お助けシート)

(  )(  ) is 4.6 (  ) years old. This is a very long time. When we (  ) a (  ) (  ) of its (  ), we can (  ) (  ) (  ). Let’s do it. The earth (  ) (  ) (  ) January 1. The first (  ) (  ) (  ) in (  ) March, about 3.5 (  ) years ago. (  ) (  ) (  ) years, (  ) (  ) (  ) plants and animals (  ) (  ) (  ). (  ) (  ) (  ) December 13, about 200 (  ) years ago. When (  ) (  ) of (  ) (  ) was (  ), (  ) (  ) (  ) on it. (  ) (  ) were very big. (  ) were about (  ) (  ) (  ) (  ). They (  ) (  ) December 26. (  ) (  ) (  ) the morning of December 31, about 7 (   years ago. When monkeys were moving (  ) (  ) (  ) (  ), (  ) (  ) were walking (  ) the tall grass. We are (  ) (  ) (  ) of the (  ) (  ) (  ).

こんな感じの「お助けシート」を配付することもありますが、最終的には穴埋めではなく、日本語を見ながらしっかりと英語が書ける(話せる)ところまで持っていきます。


過去問などを解いたって力はつかないじゃないですか。自分の知らないことを知り、理解していないことを理解するから、力はついていくのですね。今読んだばかりの英語さえ書けない(話せない)のに、新しい日本語を英語に直す英作文なんてできるわけがありません。

バックトランスレーションのトレーニングは6年間行います。生徒たちは私のことを鬼とか悪魔とか鬼畜とか呼びますが、高3になったときに天使と呼んでもらえればいいのです。なにより私に教わっている生徒たちが、成績が伸びなかった、行きたい大学に合格できなかったという方が鬼であり悪魔ですよね。

授業中は水分を摂りながら、5分間音読をし、タイマーが鳴ったら日本語を見ながら英語に直し、また5分間音読をし、再度日本語に戻り… … を繰り返します。ひと学年180人のうち、中3で全員が英検2級をしますが、このトレーニングをすることで英語力全体が驚異的に上がりますし、日本人の教員が困るほどネイティブと英語で話せるようになります。

単語集の使い方

いまだにスペリングをメインに据えて指導している教員がいるのは悲しいことですよね。私たちはいつからスペリングを書かなくなったんだろうと考えると、ワープロの登場からでしょうか。入試の英作文で使う程度のスペリングはバックトランスレーションをしているうちに身につきますが、それ以上のものとなると、スペリングよりもアクセントや発音のほうがよっぽど重要です。なぜなら正しく発音できない単語が多いと、リスニングのときに困るからです。

その観点から言えば、単語集を使ってテストをする場合、単語の意味と発音がメインのチェックポイントとなります。しっかりと発音ができているかどうかをチェックしてやらないと、単語集を目で見て覚える生徒になってしまい、仮に大学に入れたところでそんな生徒は英語も使えず、周囲から嘲笑されることになるはずです。

その点で、単語集の正しい使い方を教えてあげるのも指導者の重要な役割ですよね。単に渡すだけ渡して、単語テストだけを行うという不親切な指導であってはいけません。私たちがもしも中国語を勉強する際に、発音の方法を教えられず、単に単語集で単語テストを行う指導者に当たったとしたら、迷惑この上ないはずです。授業のなかでしっかりと全部の単語を10回も20回も発音し、覚え方まで説明したうえで、英語から日本語に、日本語から英語に、即座に直せるようになるまで反復してもらう指導を行います。

リスニング指導

リスニングの問題集を使うのもいいのですが、なにより大切なのは「読んだものを聞く」と「自分で英語らしく読めるようにする」ということです。はじめて聞くスクリプトが聞き取れないと悩むビギナー(英検2級程度でしょうか)の場合、あまりにも聞く量が足りないのですね。リスニングの問題集を使ってもいいのですが、大切なのは聞く量を増やし、自分で正しく英語らしいリズムで発音する量を増やすことですので、読んだ文章を使ってもまったく構いません。聞き取れるようになってきたなと思ったらリスニングの問題集を使えばいいのです。

そこのところを勘違いしている指導者に出会うと、学習者は悲惨です。だって聞き取れないのに聞け! と言われるんですよ。地獄じゃないですか。僕は天使なので、そんなことはしません。オーバーラッピングやシャドーイングといった音読活動を30〜50回行い、そして最終的には日本語を見ながら英語に直すバックトランスレーションにつなげることで、リスニング力は驚くほど伸びます。

リーディングとリスニングでしっかりとこうした指導をしてやると、ライティングとスピーキングの力はかなり高くなり、特に東大でも京大でも英作文が得点源となりますので、したがって合格力が高くなっていきます。他言語を学ぶ際にも同じ方法で勉強すればいいよという声かけを忘れないようにして、生徒たちを大学に送り出すのです。私の指導はシンプルで、誰でもできると言えばできますが、頑張る生徒たちを見守ることと、冠詞や前置詞のニュアンスを小学生でもわかるように簡単に説明してやる英語力は必要となります。

指導者の皆さん、またお会いすることもあろうかと思いますが、またその折にはよろしくお願いいたします。


-作家 木村達哉オフィシャルサイト- https://www.kimu-tatsu.com/

作家 木村 達哉
関西学院大学文学部英文学科卒。西大和学園中学校・高等学校を経て、1998年から灘中学校・高等学校の英語教諭として23年間教鞭を執る。「夢をかなえる英単語ユメタン」(アルク)、「キムタツ式英語長文速読特訓ゼミ」(旺文社)など、多数の英語学習書を執筆。また講演やブログ・動画でも、学習や指導に関する情報を発信しており、作家として文筆業にも精力的に取り組んでいる。