掲載:塾ジャーナル2022年3月号

ズームアップインタビュー
『「自ら学ぶ力」を養い続けて60年
未来につながる教育を実践』

株式会社全教研
代表取締役社長 堀口 宏吉 氏


高度成長期は学歴社会の訪れをもたらし、日本は学習塾ブームとなった。その先駆けとなる1962年、福岡では県立学校の教師らが立ち上げたユニークな学習塾が登場した。それが『全教研』だ。

「すべての子どもは無限に伸びる可能性を持っている」「学力向上は、素質と環境とやる気の相乗効果である」――創立当初に掲げたこの理念のもと、単に学力向上だけでなく、自ら学ぶ力を養い、子ども一人ひとりの将来を見据えた教育に注力し続けてきた。今年60周年を迎え、4代目として昨年から同社の舵を取る堀口宏吉社長に話を聞いた。


質の高い講師陣による
「教」+「育」

――学校の先生によって開かれた塾というのは全国でも珍しいと思いますが、そのきっかけは?

堀口宏吉氏(以下、堀口) ある年の全国高等学校校長会で「生徒の3割しか学習についてこられない」というショッキングな実情が報告され、「なんとかしなければならない」と危機感を持った現職の高校教師が集まり、カリキュラムの見直しを始めました。これが当社の前身の「全教科研究会」です。

もともとは私的な研究機関だったのですが、その研究成果を試すため、数人の小中学生にボランティアで学習指導したことが現在の事業につながっています。今では北部九州4県(福岡県、佐賀県、長崎県、大分県)、山口県で69校を開設しています。


株式会社全教研本社ビル(福岡市)

――60年も前から、今主流になりつつある「自ら学ぶ力」に主眼をおかれていたのですね。

堀口 成り立ちから、教育を本質的にとらえてきたという自負があります。創業の精神と理念に基づき、単に勉強を教えて(教=ティーチング)、入試で結果を出すことだけにとらわれず、子ども一人ひとりの個性と将来を見据え、自ら学ぶ力と学びたい気持ちを育むこと(育=コーチング)を融合した独自の教育スタイルを築いてきました。

世間一般に言う、いい中学、いい高校、いい大学に進学することは大切ですが、そこから先、どう生きていくかはもっと大切なことです。社会は、何かに対して自分なりの答えを出して、その仮定を検証・実行し、より良い答えを追求できる「自ら学ぶ力」を持つ人材を求めています。

最終評価者は社会です。将来、社会で活躍する人材を多く輩出することを念頭に、未来につながる教育をめざしています。

――それには講師の力量が求められますが、どのような取り組みをされていますか?

堀口 厳しい書類審査や学科試験、人物重視の面接を経て採用するのはもちろん、生徒のやる気の上げ方、宿題の出し方など、自立学習に必要なノウハウは知識研修、授業見学、複数回の模擬授業を通して身につけていただきます。

こうして晴れて授業を持つことになっても、日々の研鑽は続きます。教室長の授業チェックでさらにスキルアップ、毎月実施されるコーチング研修、生徒アンケートによる講師のランキングで一定以下の評価となれば、授業を外されます。

また全体講師研修会で人気講師の授業ノウハウを共有したり、生徒の成績を上げるための議論をしたりして互いに高め合っています。

――とくにコーチングトレーナーの育成は独自の手法を用いられているとか。

堀口 教育理念を追求する中で、コーチングメソッドを導入することは自然の流れでした。12年前に、私と現在コーチングの責任者となっている2人が先頭に立って自主的にコーチングを学び、講演会を開けるレベルの資格を取得しました。そこでの学びと、さまざまなプロの方のご意見を参考にしながら、“塾バージョン”のプログラムをつくりあげてマニュアル化し、全拠点に展開しています。

――どういったところが“塾バージョン”なのですか?

堀口 たとえば、ビジネスコーチングであれば、コーチはある答えを持っていて、そこにどう着地させるかという誘導タイプのようなものもあります。ですが、われわれのコーチングは、子どもが見ている絵を一緒に見てどうサポートするかというものなので、あらかじめ用意する答えはありません。コーチ自身が思いもよらない答えにたどり着くこともあり得ます。

今の時代を生きている子どもたちが思い描くこと、感じていることの方が、おとなの感性より正しいのです。それを目の当たりにすると、すごく新鮮で楽しいですよ。


「教=ティーチング」と「育=コーチング」を融合した独自の教育スタイル

オンライン授業でも個別最適化

――昨年、「おうちで勉強コース」を始められました。

堀口 「おうちで勉強コース」は双方向のオンラインライブ授業で、子どもたち自ら計画を立て主体的な学習者となってもらいたい、との思いからつくりました。

長年のコーチングのノウハウを生かし、子どものサポートはもちろん、保護者にも寄り添ってサポートします。AI診断による個別最適教材を提供するほか、コミュニケーションアプリを用いて一人ひとりの理解度を確認することなどにより、家庭学習を定着させます。中学・高校・大学受験に対応しており、オンライン自習室や質問室も完備。1教科から受講でき、従来の対面授業や個別指導の「エコール」との併用で、より効果が表れます。

――定員は30人だそうですね。

堀口 それが全教研のオンライン授業の最大の特長です。なぜ30人かというと、画面に一度に表示できる最大人数が30人だからです。これを超えると画面を切り替えなければならず、常に全員に目が行き届かなくなります。

一般的なオンライン授業は、1対多数の一方通行の授業が多いですが、「おうちで勉強コース」は、「インタラクティブ(双方向性)」と「アダプティブ(個別最適化)」の両立にこだわり、オンラインであっても双方向性を保ち、的確なアドバイスをきっちりできる授業を実践しています。


「インタラクティブ(双方向性)」と「アダプティブ(個別最適化)」を両立するオンラインライブ授業

キャリア教育を大改定
職業選択の目的を明確に

――キャリア教育も熱心ですね。

堀口 塾に通う生徒の多くは受験や進学をゴールにしていますが、本当に大切なことは、将来に向けて進学先で何を学び取るかです。そこで、全教研では小学生から中学生までを対象に、それぞれの成長段階に応じてキャリア教育を行っています。

小学生向けには、将来やりたいことやその実現のために必要なことについて、楽しみながら自分で考える機会をつくるアクティブラーニングプログラムの「夢のコンパス」を導入。中学生向けには、オリジナル教材「夢プランニングplus」を用いて、生徒一人ひとりが自分の興味や強み、価値観について無理なく気づき「なりたい自分」について考える機会を創出するようにし、進路選択に役立てています。

実は今年、そのキャリア教育を大改定しようと考えています。

――どのような改定をされるのですか?

堀口 今までのキャリア教育は、なりたい職業を自分で考えさせて、その目標に向けてマイルストーン(中間目標)を設定するというのが一般的でした。それを一歩進めて、その職業に就いて、どのようなことを達成したいのか、どのような人間になりたいのか、といったことを自ら考えるようなキャリア教育に変えていきます。

われわれはつい、手段を目的化しがちです。〇〇中学(高校、大学)に入学するとか、医者になるといったことは手段にすぎません。たとえば医者であれば、「〇〇な医者になる」「医者になって〇〇する」というように、〇に何を入れるかという目的を明確にするプログラムにします。小学5年生から中学2年生を対象にする予定です。

そういった教育が成されていれば、中学3年生になったときに、しっかりした目的に基づいて進学先を選ぶことができます。

――具体的にはどのような内容が盛り込まれますか?

堀口 まだ開発途中ですが、一つ考えているのは、「SDGs(持続可能な開発目標)」に関してです。われわれの役目はSDGsの何番をどうするかという教育よりも、持続可能な社会の創り手を育む教育だと思っていて、「SDGs」より「ESD(Education for Sustainable Development)」に注目しています。


独自の教育手法として確立された全教研の無限大メソッド

4月に新講座
「デザインシンキング」を開設

――昨年末に面白いイベントをされていましたね。

堀口 4月に「デザインシンキング」の講座を新しく開設するので、そのプレイベントとして、昨年12月11日に「オヤモコモワークショップ」を開催し、小学4年以上の子どもとその保護者の計18人にご参加いただきました。親だけ、子どもだけの4チームに分かれて「未来の学校」について自由にアイデアを出し合い、チームごとに劇で発表するといった内容で進めました。

デザインシンキングは、みんなで正解を探すのではなく、「こうなると楽しいよね」「こういうのってワクワクするよね」といった意見を出し合うところに醍醐味があります。どんな意見も一切否定せず、すべてが正解なので、いろいろなアイデアが出て楽しいイベントとなりました。

――デザインシンキングの講座で、どのような力が養われるのですか?

堀口 デザインシンキングとは、前例のない課題や未知の問題に対して最適な解決を図るための思考法です。AppleやGoogleなどが積極的に取り入れていることでビジネスの世界で注目を集め、日本企業でも数年前から入社試験に導入する動きが出てきました。これに伴い、意識の高い私立学校の入試でデザインシンキングの比重が高くなり、少なくとも3年先には主流になるとみています。

ポストコロナ時代は不透明で、何が正解かわかりません。正解探しばかりしていた日本人はこういったクリエイティブな分野が弱く、答えがないものを前にするとフリーズし、世界に置いていかれているのが現状です。いい高校、いい大学に合格することに執着していたツケがまわってきたのだと思います。

これは学校だけのせいではなく、われわれ塾の責任でもあると受け止め、今までのやり方を是正し、答えのない社会で生きていける力を持った子どもたちを育てていかなければならないと考えています。

――今後の展望をお聞かせください。

堀口 まずは、社会が求める人材と現在の教育のギャップを埋め、世の中に対応できる人間を輩出することに注力します。そして、次のステップとしては、今はまだない、より良い社会の創り手となる人材をつくっていきたいという壮大なロマンを持っています。

■株式会社全教研 https://welcome.zenkyoken.com/


◆購読申込に関するお問い合わせはこちら
 https://manavinet.com/subscription/

◆『塾ジャーナル』に関するご意見・ご感想はこちら
 https://forms.gle/FRzDwNE8kTrdAZzK8

◆『塾ジャーナル』目次一覧
 https://manavinet.com/tag/jukujournal_mokuji/