特別寄稿 掲載:塾ジャーナル2021年11月号

大学(高校)進学制度のトレンドについて

大学受験アドバイザー 宮崎 貴行


最近(2019年より)、専門職大学や専門職短期大学といった大学進学制度として、新しい選択肢が誕生しています。このような最近の進学のトレンドについて考察してみたいと思います。

調べてみると、令和3年度に開学している専門職大学・専門職短期大学・専門職学科については、専門職大学(公立2校、私立12校)、専門職短期大学(公立1校、私立2校)、専門職学科(公立0校、私立1校)となっています。

これまで、高校卒業後は大学・短期大学か専門学校を選ぶのが当たり前でしたが、「専門職大学」という新たな学校が加わり、これまでにない、まったく新しい学校制度がスタートしています。何が学べるのか、卒業後はどんな道に進めるのでしょうか?

1.そもそも専門職大学とは?

将来的に産業をリードできる人を育成するために、産業界と連携しながら専門的なことを広く、実践的に学ぶ学校とされています。大学の良さと専門学校の良さを合わせ持ちながら、これまでにない教育方針で、『仕事に役立つ知識』と『技術』を身につけられるのが特徴です。

今は昔に比べて世の中のしくみが変わるスピードが速い時代であり、専門職大学で学ぶことにより、時代の変化に対応しながら新しいことを生み出す力を身につけることが期待されています。なお、一般の大学が専門職大学の要件を満たした「専門職学科」を設置することも可能とされています。

まず、ここまでの情報を検証すると、「何名か適しているな」と思われる生徒さんのお顔が浮かばれるのではないでしょうか? その理由として、「将来何をしたらいいかわからない、やりたいことが見つからない……」このような相談をしてくる生徒さんは多いと思います。海外の高校生に比べると職業観が少し薄いといいますか、経験値が少ない気がするのです。それは私が添乗員だった頃、日本の高校生が海外の高校へ留学するサポートをしていたときに現地で強く感じていました(詳細は後述)。

2.専門職大学は大学、専門学校と何が違うのか?

専門職大学は大学の一つとして位置づけられます。学生時代にその業界を深く知ることができ、各業界の専門家として必要な能力や、将来の仕事に活用できる実践力を身につけることができます。

専門職大学の大きな特徴の一つが、「大学」の枠組みの中に設置されることです。卒業すると「学士(専門職)」(専門職短期大学は「短期大学士(専門職)」)という学位が得られ、授業は大学で学ぶ教養以外に、業界で実際に仕事をしていた実務家教員による授業や、企業での長期にわたる実習などが行われます。

進みたい道が決まっているから専門学校に進学したい、でも保護者が「大学に進んでほしい」と希望している生徒さんも多いですよね? 両者の望みをかなえることにつながるかもしれません。

≪専門職大学について(まとめ)≫
①学ぶ期間:専門職大学:4年、専門職短期大学:2~3年。
②目指す教育:専門業務を牽引し、新たなサービスなどをつくり出せる人材育成。
③学びの特色:高度な実践力と変化に対応できる創造力を学ぶ。
④授業の内容:産業界と連携した授業を行う。
⑤実習の内容:長期の企業内実習が設けられる。
⑥教員:4割以上が業界経験のある実務家教員。

3.専門職大学進学後の将来の選択肢について

専門的な知識や技術を学びながら、業界を牽引できる実践力も身につけられるのが専門職大学の強みとすれば、卒業後は専門学校、大学への進学とも違う選択肢が見出せると思います。まだ卒業生がいないため、どのような道に進めるか? という先輩の実例はないのですが、専門職大学で学ぶ人には、さまざまな業界から活躍が期待されているはずです。

≪予想される進路≫
○情報系:パソコンを使いこなせる実践力に加えて、異業種と連携して新たな製品の開発、新規のサービスを構築する仕事など。
○農業系:高品質な農産物の生産性を高め、新たな加工品を開発して農産物の付加価値を高める仕事。これまでにない流通網の構築にも期待。それを商品化する仕事など。(例:スマート農業関連)
○観光系:接客の基本を身につけた上で、サービスを向上させる新たな旅の企画などを立案し、それを商品化する仕事など。(例:VR旅行など)
○美容系:美容に関する知識を生かして、化粧品やヘアケア製品などの開発を手掛けたり、美容に効果が期待できる食品などを生み出す仕事など。

4.生徒さんからの質問について

Q:専門職大学はどんな分野があるの?
A:観光、農業、情報などさまざまな分野に広がるはずです。情報系や美容系、医療・福祉系の分野が今のところ中心。今後は観光・農業系の専門職大学・短大も増えていくと見られています。

Q:専門職大学はどんな人が向いていますか?
A:広く業界の知識を身につけて可能性を広げたい人。専門学校は特定の職業に必要な技術が身につきます。専門職大学は興味ある業界で、進みたい業種は決まっているけれど、職種まで決められない人にも向いています。

Q:入学時は入試がありますか?
A:面接などを通して意欲や適性を評価する入試が中心。基本的な入試制度は大学と同様で、一般選抜、総合型選抜、学校推薦型選抜が実施される。一般選抜でも、面接などを通して、志願者の意欲や適性を多面的・総合的に評価する大学が多い。保有資格、技能検定の成績なども積極的に考慮される。ただし知識・技能よりも面接などを通して人物や熱意を評価する入試が中心。

≪専門職大学と専門学校との違い≫
①基礎から展開まで、1つの専門にとどまらず学べる。
②授業の3分の1は実習・実技で、理論と実践の両方を習得。
③通算600時間以上(短大300時間)の学外実習。
④研究者教員から関連教科を学べ、幅広い知識も身につく。
⑤学士(専門職)の学位がもらえる。

≪海外(オセアニア)にも専門職大学が?≫
○『TAFE』について(海外の高校生との職業観の違いについて)

TAFE(Technical and Further Education)とは、オーストラリアに100校以上ある州立の職業訓練専門学校です。留学生を対象とした様々な専門コース、英語コースを開講し、90%以上は現地のオーストラリア人。そのためTAFEで学べる内容もバラエティに富んでいます。

先ほど少し触れた、海外(オセアニア地域)と日本の高校生の職業観の違いについて触れたいと思います。このTAFEは州立の職業訓練専門学校であり、例えば現地の公立高校の生徒は、午前中は通常の教科(数学や理科)の授業を受講し、午後はTAFEで看護士、観光、農業分野など、将来の職業を実体験できる機会が多く用意されています。

その点は、日本もベンチマークする点が多いなと当時から感じていました。日本の高校生は現地の生徒と話した時、「私は将来この仕事がしたくて、TAFEでこんなカリキュラムを組んで、卒業したらTAFEで2年間さらに学んで、この大学で経営学を学びたいの。そのために今この勉強に取り組んでいます。将来はこんな仕事について、こんなことに貢献したい」という、あまりの職業観の違いに衝撃を受ける子たちが多くいました。(環境が全然違いますよね)

そしてTAFEの魅力は、市場のニーズや需要に対応し、常にタイムリーな専門知識、スキルを身につけることができる点です。学習環境も充実していて、最先端のテクノロジーを駆使した設備が整っています。TAFE修学後、即戦力として働ける人材育成を目的としているので、産業界と連携した実地研修も頻繁に行われています。

今後、専門職大学への進学を検討することが、生徒さんたちの『自分探しの旅』の始まりになれることを期待し、我々がサポートしていけるよう先生方のお力添えをよろしくお願い申し上げます。

プロフィール
大学受験アドバイザー 宮崎 貴行 氏
京都府出身。同志社大学・経済学部卒。20代で旅行社の海外教育旅行(短期留学)の新規営業開発に携わり、その後、大手進学塾で英会話事業部の立ち上げとマネジメント業務を行う。40代で全国の塾に映像教材(ベリタスアカデミー)の提案、高等部の拡充(再構築)、募集企画など運営をサポート。現在は塾の運営コンサルタントとして、入塾面談研修、高校生募集企画、生徒の学習相談までサポートしている。また、公立高校を中心に『大学進学ガイダンス』の講師も行っている。(兵庫・大阪・京都中心)


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