掲載:塾ジャーナル2022年7月号

「これまでの塾」と「これからの塾」
―時代とともに歩む塾―

新型コロナウイルス蔓延で大きく変わった教育現場は、従来の指導方法が通用しない時代を迎えている。これから塾はどうあるべきなのか、10年後に生き残るには何をすべきか。物価の上昇、所得格差の拡大、オンライン授業への移行など、塾を取り巻く課題は山積している。千樹会を主催する小林弘典氏は現状を分析し、対策を詳しく説明した。さらに、全国から集まった19名の会員は自塾の現状と打開策を発表し、6時間を超す議論が行われた。



(左)千樹会を主催するPS・コンサルティング・システム代表の小林弘典氏
(右)進行役を務めた開進スクール代表の河野優氏

中小塾が直面する4つの課題

勉強会の冒頭、小林弘典氏は塾が直面している現状を1時間にわたって説明。

①少子化の進行
②ICTの進化
③教育制度の改変
④家庭の教育格差の拡大

という4つの課題を掲げた。

「この春、衝撃的なニュースがあった。長野県の公立トップの高校が、なんと定員割れになってしまった。もはや塾に通わなくても高校、大学に進学できる時代。この傾向が進めば、塾業界は大打撃を受けてしまう」と、深刻な現状を説明。今後10年で塾経営の事業者は半減すると予想し、時代が変われば塾の在り方も変わる、対応できなければ廃業の恐れもあるとも。だが、競争に生き残った塾は間違いなく良い塾になると断言した。

ICTの進化については「政府のGIGAスクール構想は早晩本格的に始動する。それに塾がどう対応するかが大きな課題となっている」と話し、特に重要なのは早急なオンライン化の導入だと強調。さらに教育制度の改変では「高等学校新指導要領が今年度から順次導入される。新教科への対応が課題だ。

特に新教科『情報』をどう教えるかが問題である」を説明。2024年度の大学入試改革の目的は世界で通用するグローバルエリートの養成であり、停滞する経済を立て直すイノベーション人材を育成することである。これまでの「平均的な生徒」を育成する方針は、間もなく廃止されると見ている。

大学入学共通テストは、現行の6教科30科目から7教科21科目に再編されるが、今後もさらなる改革が行われるのは必至だと付け加えた。

対応策は従来型の塾からの脱却

続いて、これらの課題に対する対応策を具体的に説明していった。

「まずは、顧客である児童・生徒に対面授業を行うという、従来型の塾から脱却をしなければならない。これからの塾は教育サービス業であり、別次元の学習支援事業であることが必要だ。そのためには顧客層を拡大していく。幼児や留学生、技能実習生、外国人、社会人(リカレント教育)を対象にする手法は有効である」と小林氏。

さらに、地域や対面指導の縛りを取り払い、オンライン、ICTを活用した指導を行っていく。そうなると講師は、生徒をサポートするコーチ、ナビゲーターという役割を果たさなければならない。従来の教科の枠にとらわれずに、プログラミングやロボット製作、速読、キャリア教育などの指導塾に移行する方法もある。今後は、生まれつき突出した才能を授かったギフテッド(Gifted)の児童・生徒を対象にする塾も増えていくだろうと話した。

「具体的には、まずは現状を保ちつつ、対面とオンライン指導を併用してほしい。ある調査によると、塾へ通う生徒の保護者は『送り迎えが大変』という声が圧倒的だった。オンラインなら送迎の負担がないというメリットがある。例えば、週に1回対面授業を行い、他の日はオンラインで指導する方法もあり得る。できれば今年度中に始めてほしい」と提案した。

また、専門型の塾へと移行するのも有効な手段である。今、社会が必要としているのは、イノベーション人材だ。何らかの専門的能力、突出したスキルを持つ人材を求めている。そういった人材を育てる専門塾を始めるのも得策だと話した。

小林氏は「今後は難関大学でも、学校推薦や総合型の選抜が実施されるようになるだろう。そのためには中小塾は専門型へと変わる必要がある。最終的に生き残るのは、専門性のある塾だと考えている」と締め括った。

SNSを活用し入塾生を増やす

続いて、会員が自塾の現状と打開策をそれぞれ発表。

昨年開校した福岡県のA塾は、生徒を褒めるという指導方針をとっている。褒めると意欲が湧き、成績も向上。その結果、紹介で入塾する生徒が増加。また、グーグルビジネスを活用しており、入塾理由を生徒に書いてもらうことで口コミを増やしている。

中学受験の国語に特化した指導をしているのは、大阪府のB塾。YouTubeで受験情報の発信を始めたところ売り上げが倍増し、他県からの問い合わせも多くなった。

佐賀県のC塾は、これまでチラシの写真は社員が撮影していたが、プロに依頼したところ品質が良くなり、イメージアップに成功。今後はWEBサイトも改善したいと考えている。

これに対し小林氏は「チラシ、WEBサイトに掲載すべき最低限の項目」として、以下の注意事項を説明した。

最初に、生徒がどう変わるかメリットを記載する。塾の特長を「できる」「なれる」といった言葉で表現する。進学実績は具体的な数字を載せる。さらに通塾の前後を比較した体験談も必要。保護者はどう変化したのかを知りたい。そして肝心なのは、塾長のプロフィールを掲載すること。中小塾の場合、生徒は〇〇先生の指導を受けたいから通うケースが大半だ。だから、安心して任せられる講師がいることを打ち出すべきだとコメントした。

昨年、開校したばかりの沖縄県のD塾は宣伝にSNSを活用し、塾生を獲得している。コロナ禍でネット視聴時間が増えていると判断、保護者向けにインスタグラム広告を配信して、大きな成果をあげている。チラシには授業の写真を10枚以上掲載し、ストーリー仕立てで読ませるようにしている。これらの工夫で、現在は入塾希望者を断らねばならないほどの人気塾になっている。

反対に、生徒募集に苦戦する塾もあったが、進行役の河野優氏は「地方になればなるほど、人物で選ぶ傾向がある。この先生に教えてほしいと思わせるのが得策だ。そのためには自分の価値を再点検して、それを前面に打ち出してほしい」とアドバイスをした。


◆購読申込に関するお問い合わせはこちら
 https://manavinet.com/subscription/

◆『塾ジャーナル』に関するご意見・ご感想はこちら
 https://forms.gle/FRzDwNE8kTrdAZzK8

◆『塾ジャーナル』目次一覧
 https://manavinet.com/tag/jukujournal_mokuji/