全国学習塾協会会長
安藤 大作 氏
経済産業省商務・
サービスグループ
サービス政策課 課長補佐
柴田 寛文 氏
文部科学省総合教育政策局
生涯学習推進課 課長補佐
濱部 威一郎 氏
第1部
記念式典
第1部の記念式典では、開式の辞に続いて全国学習塾協会会長・安藤大作氏が式辞を述べた。
「人口減少社会を迎え、いま様々な教育論が巻き起こっています。子どもたちがこれからの時代を生き抜いて幸せになっていくために、民間教育ができることはもっとあるのではないでしょうか。様々な垣根を越え、子どもたちのために手を取り合う。そんな風が吹いているように思います。私たちは今までの30年を単に継続していくのではなく、明日に向かってどう行動するかを考えねばなりません。民間教育業界のためだけではなく、子どもたちのために一歩を踏み出す時を迎えています。本日のシンポジウムはそういった学びの場の醸成や気運を高め、一致団結する場として存在していると考えています」
続いて来賓挨拶として、経済産業省商務・サービスグループ サービス政策課 課長補佐・柴田寛文氏が壇上に立った。
「先日、三重県が全国学習塾協会、子どもの教育支援に取り組む認定NPO法人カタリバとの間で包括支援協定を結びました。災害が起こった時に子どもの孤立や学習の遅れを解消するために、日頃から協力体制をつくっていこうという取り組みです。学校以外に生徒がリフレッシュできる場所が大切だと日頃から感じていますが、災害時にも安心して過ごせる場所をつくろうという三重県の取り組みは意義深いものがあります。ぜひ全国に広がっていってほしいと思います。
私も小学3年生から塾に通っていましたが、成績が悪かったので通うのが億劫だったこともありました。しかし学年が上がるにつれ、友達ができて心強くなりました。いま我が家にも小さな子どもがいますが、全国学習塾協会が自主基準を設定してくれているため、安心して子どもを通わす判断ができます」と自身のエピソードを交えて挨拶を行った。
文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課 課長補佐・濱部威一郎氏も登壇。冒頭に文科省が子どもの貧困問題や学校でのスマートフォンの正しい使い方に取り組んでいることを紹介し、地域の連携活動について述べた。
「文科省では地域と学校が連携して子どもたちの成長を支える『地域学校協同活動』を推進しています。その一貫として地域の住民、NPO、学習塾の協力を得て土曜学習応援団にも出前授業を提供してもらっています。文科省は地域と連携し、地域とともにある学校づくりに邁進しています。学習塾の皆様も重要な一翼を担ってくれていますので、益々のご協力をお願いしたいと考えています」
引き続き、自主基準遵守塾の表彰が行われた。これは全国学習塾協会独自の基準で、法律を遵守し子どもの安全対策を積極的に行っている塾に認証マークを付与する制度である。今年は、全国から39塾が選ばれ表彰を受けた。
その後、全国読書作文コンクールの優秀作品に選ばれた児童・生徒への表彰が行われた。
これも全国学習塾協会が主催するもので、今年は全国から2146名の応募があった。小学生の部で大賞に選ばれた宮城県の平塚陽丸さん、中学生の部で大賞に輝いた岡山県の福田虹胡さんを始め計8名が授賞式に臨んだ。
東京大学大学院工学系研究科
教授 松尾 豊 氏
第2部 特別講演
「人工知能と教育AI時代に子どもたちに伝えるべきこと」
東京大学大学院工学系研究科
人工物工学研究センター 技術経営戦略学専攻
教授 松尾 豊 氏
第2部では、東京大学大学院の松尾豊教授が講演を行った。松尾教授は、日本の人工知能研究の第一人者であり、現在は日本ディープラーニング協会の理事長、ソフトバンクグループ株式会社の取締役も務めている。人工知能が子どもたちの将来にどう影響を与え、どんな効果をもたらすのか、詳しいレクチャーを行った。
ディープラーニングの進化で
人工知能が急速に発展
現在、人工知能の中心となっているのが、ディープラーニング(以下、DL)、いわゆる深層学習です。深層学習は人間が行う様々な作業をコンピュータに学習させる機械学習法の一つです。人工知能自体は1950年代からありましたが、2012年にDLが登場して急速に発展を遂げました。
その結果、画像認識が可能になり、熟練した動きができるようになったのです。そして言葉の意味も理解して文章を処理できるようにもなりました。画像認識においては、2012年以前はエラー率が25%でしたが、DLの登場で現在は2・3%まで低下しています。人間が行うと5・1%なので、この数年の間にAIが人間の能力を上回ったことがわかります。
画像認識技術は有名なところでは、空港やスマートフォンの顔認証に使われています。また、言葉の意味を理解できるようになったことで、言語に関する分野でも急速に進化を遂げています。例えば、Google 翻訳は、DLを用いてエラー率を60%も減らしました。このようにAIは私たちの生活の様々な場面で大きな役割を果たしているのです。
DLの原理はどうなっているのか。一言で言うと「深い関数を用いた最小二乗法」です。
例えば、気温から冷たい飲料の売上げを予測するのは、「気温」と「販売個数」という2つのパラメータ(変数)が必要です。一方、「気温」と「湿度」から売上げを予測するには、3つのパラメータが必要になります。このパラメータが多いほど、精度は高くなります。少し専門的な話になりましたが、料理に例えるとわかりやすい。豚肉を切るだけでは料理はできません。切って炒めて味付けし、皿に盛りつける。そういった何層もの作業を経て、おいしい料理ができ上がります。これと同じで、パラメータが多いほどDLの精度は向上するのです。
数多くの分野で活躍する
ディープラーニング
現在のDLには、数千万から数億個のパラメータを用いています。深い関数を使えるようになり、最も性能が向上したのが画像認識です。AIが「眼」を持ったことで、様々な産業で自動化が可能になりました。農業では収穫や田畑の耕耘、建設業界では掘削や基礎工事、食品加工においては選別や調理など。また、介護施設の見守りロボット、病院の手術ロボット、警備や防犯技術、防災では河川や火山、土砂崩れの監視、自動車の自動運転など、あらゆる分野で活躍しています。
とりわけ効果を発揮しているのが、医療の世界です。レントゲンやCT画像から悪性腫瘍を見つけ出す技術が開発されたことにより、放射線科の医師が1人で肺がんを検出する精度が5割以上も上回る結果を出しています。2018年には糖尿病網膜症の診断でも、医師が画像を判断しなくても検査結果を出すことをFDA(アメリカ食品医薬局)が認定しています。
では、日本ではどうDLを活用すればいいのでしょうか。戦略としては製造業とDLの連携が期待されます。自動車産業や家電、建設機械、医療機器、食品加工といった製造業がDLを利用すれば、作業を自動化することができます。人材が減っている業界では大きな力になるはずです。
平成元年の世界の企業の時価総額ランキングを振り返ると、10位以内に日本企業が7社も入っていました。しかし平成30年には1社もない。すべて外資企業が占めています。コンピュータの技術革新により順位が大きく変わったのです。DLの進化は、インターネットが急伸した1999年の状況によく似ています。今は数十年に一度のターニングポイントと言っていいでしょう。
専門知識を身に付け
次々と起業する学生
こういう状況を考えると、日本の企業は大きな可能性を秘めていると言えます。しかし、残念ながら現状は問題点が山積しています。まず、DLの急速な進歩についていけていません。人工知能への投資といいながら、結局は昔ながらの分野への投資になっています。特に絶好のチャンスである製造業は、軒並み意思決定ができずに遅れをとっています。大学でも人材育成が進んでいないのが現状です。
東京大学の私の研究室では、2015年からDLの講義を行っています。基礎から段階を踏んで専門領域まで学びます。その結果、卒業生はほとんどが起業をしているのです。優秀な学生ほど大企業への就職を選ばず、起業を選択しています。有名なところでは、ニュースアプリのGunosy(グノシー)、クラウドファンディング国内最大手のREADYFOR(レディフォー)など多数が成功しています。学生が立ち上げた企業の時価総額合計は2500億円以上にもなります。こういった先輩の成功を見て、後輩たちも次々と起業している状態です。
DLの必要性を感じて、2017年には日本ディープラーニング協会(JDJA)を設立しました。人材の育成や産業界への提言、国際的な連携などの活動に取り組んでいます。また、DLの基礎知識や事業への応用する能力を問う資格試験「G検定」も行って普及に努めています。
学生にとって今は
チャンスがあふれる時代
人工知能に関して注目しているのが高専の学生です。DLの技術は、習得して活用しようとすると、カメラや通信機器、工作機械といったハードウェアの知識が必要になります。高専は電気、機械の技術を実践的に学ぶカリキュラムになっており、生徒は必要な知識を習得しています。高専生がDLを習得すれば、若く優秀な人材が一気に増えていくでしょう。彼らは世界的に見ても貴重な人材です。私の研究室で優秀だなと感じる学生に聞いてみると、高専からの編入生というケースが多い。特にロボコンの経験者はDLとの相性も抜群です。
今年4月、「高専ディーコン」というDLとハードウェアを組み合わせた事業創出コンテストを開催しました。受賞したのは、香川高専の送電線点検ロボットや沼津工業高専の次世代運転支援システムなど6つの事業。様々な現場の課題を捉えて、それに対応するものをつくっていけば高い評価を得られます。
今は変化が激しい時代ですが、一方で非常にチャンスにあふれた時代だと思います。学生から「何を勉強すれば良いですか」と聞かれることが多いのですが、正直、よくわかりません。ただ言えるのは、どんな時代でも通用する教養や思想、コミュニケーション能力を身に付けていくことは重要です。
日本の競争相手は中国やインドの若者です。東京大学も今は優秀な大学だと評価されていますが、いつまで続くかはわかりません。早晩、優秀な学生は直接、海外の大学に進学するようになるでしょう。とはいえ、こんなにダイナミックで面白い時代はない。私自身もさらに活動領域を広げていきたいと考えています。
高校で講演する機会もあるのですが、生徒には「自分で限界をつくらない」ことを伝えています。私自身、高校時代に塾で勉強の仕方を教えてもらったおかげで成績が伸びました。勉強方法だけでこんなに変わるのか、何ごとも「やり方」が大事だと痛感したのです。大学、大学院に進んでも「やり方がすべて」だと思っています。残念なことに、世の中には非常に才能があるのにやり方をわかってない人が多い。今のように世界がダイナミックに動いていく時代には、自分で限界をつくらず、どんどん動いてほしい。そうすれば思いがけないところに到達する可能性があります。そして、物事を小さな視点ではなく大きな視点で考えてください。学術的に大きな発見につながる可能性があり、産業的にも巨大な事業を生み出せる可能性が満ちています。ですので、スピード感をもって取り組んでほしいと思います。今はチャレンジするに足る変革の時代です。
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